「コメ流通2040年ビジョン」で示されたコメ業界の危機【熊野孝文・米マーケット情報】2024年6月13日
全国米穀販売事業共済協同組合(以下全米販)は12日、「コメ流通2040年ビジョン」をホームページ上で公表した。ビジョンは概要版(8ページ)と㈱日本総合研究所がまとめた52ページの本冊版が紹介されている。作成に当たっては全米販組合員卸のうち若手社員を中心にワーキンググ ループを組成し、各方面へのヒアリングなども交えて検討を深め、それまで何ら手立てを講じなかった場合の『現実的シナリオ』と、何らかの手立てを講じた場合の『野心的シナリオ』の二本立てで構成している。
2040年ビジョンを作成するきっかけになったのは、令和4年(2022)12月9日に開かれた食料・農業・農村政策審議会の第5回基本法検証部会に農林水産省が提出した資料。このなかで、令和2年(2020)704万tの主食用米需要量が、20年後の令和22年(2040)には、493万tになる試算されていた。この予想値に衝撃を受けたのは全米販だけではないのだが、より詳しく分析するために日本総合研究所の協力を得て、割り出した生産と需要の予想値が記されている。
それによると2040年のコメの国内需要は2020年に比べ41%も減少して375万㌧になると予測されている。その一方で、生産量はコメ作り農家が2020年に比べ65%も減り、30万人程度になり、269万㌧程度しか生産できなくなるとされ、需要を賄うだけの生産量が得られなくなると予測している。生産量が需要量を下回るようになるのは2035年で、この年は、需要量が434万㌧あるが、生産量は412万㌧にまで減少すると予測しており、需要を賄う生産量が確保できない。
この予測通りに推移すると当然コメ卸の扱い量も大幅に減少する。具体的には2020年では487万㌧の扱い量があったが、2040年には265万㌧まで減少する。その時の売上高は全卸で3650億円に減少、経費を差し引くと利益が確保できなくなり、トータルで50億円の赤字になると予測している。おそらくそれまでに多くのコメ卸が淘汰されることになるだろう。実際、全米販の会員卸数は平成25年に163社であったが、現在は138社まで減少している。さらに大手卸のシェアが拡大、その分中小卸の扱い量が減少している。これまで地場に密着している地方卸は強いと言われてきたが、生産量がこれほどまでに減少すると集荷を兼務する地方卸が急激に衰退することになる。
何も対策を打ち出さなければ、2040年にはこうした現実が待ち構えているという予測で、そうならないような野心的な対策を示している。
野心的シナリオに向けた打ち手(対策)の具体的内容は、「コメ需要拡大」としては①輸出支援(米穀卸各社が行っていた海外現地マーケティングや販路獲得の機能を集約。 また、輸出に関するハードルの緩和などを通じた輸出推進の活性化)②コメ市場の育成(「安定的に安い」価値のみならず、コメの魅力を言語化し、それらを伝達で きる人材の育成・品種の改良を通じた「高価格帯」市場の形成)。コメ生産の支援では「短期・長期的なコメ生産者の確保・育成支援や「出口の確保」を中心とした コメ生産者のリスク低減策、スマート農業の推進に向けた導入スキーム構築 などの包括的な産地支援」。コメ流通の改革では、①持続可能なコメ価格形成として「流通経費の実態調査に基づくコメの適正価格化。生産~流通~安定的な消費 が持続的に可能となる「コメ産業全体にとって」適正な価格の形成」。②生産や研究開発・デジタル活用、広報・MD戦略の共同化として「米穀卸1社で実施されていた意欲的な研究開発やデジタル活用、広報・MD戦略、 精米工場の利用などを共同出資・利用することで、事業の規模拡大や稼働率 の向上など、各種取組み効果を拡大」。③コメ卸企業間の役割再定義として「米穀卸同士の「無益な足の引っ張り合い」の回避や役割の明確化、集中的な 投資による機能の強化推進」。④生産から消費までの垂直連携強化として「生産~流通~実需者・消費者の連携強化により、最終的な品質確保に向けた 機能強化を全体で維持することで、持続的・安定的な調達可能性の確保」を上げている。
こうした対策を打つことによって目指すべき2040年のコメの需要は722万㌧(2020年比13.4%)で、生産量は回復して米穀市場規模は5兆9700億円(2020年比18.0%)という数字を示している。こうなる道筋を辿ると2040年にはコメ卸流通額は4兆7800億円、利益額は2900億円になると試算している。
まさに野心的シナリオでバラ色の将来像が描かれているわけだが、残念なことにこのシナリオを実現するためのコメ政策改革については何も触れられていない。バラ色の将来でなくてもコメ業界が活性化するためには今のコメ政策で良いのかという視点で全米販には政策提言も行ってもらいたいものである。
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