(388)「隣家の竹木」から1年【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年6月14日
学生時代に少し民法を勉強した際、「越境した隣家の竹木」に関するルールを学びました。隣家との境界を越えて伸びてきた竹木への対応です。
2023年4月1日の民法改正により、この「隣家の竹木」問題は新しい局面に入った。改正後の民法は「竹木の枝の切除及び根の切り取り」という見出しのもと、第233条①で「土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」と定めている。ここまでは改正前とほぼ同じだ。
ついで②で「前項の場合において、竹木が数人の共有に有するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。」としている。さらに③として「第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる」とし、
・竹木の所有者に枝を切除するように催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
・竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき。
・急迫の事情があるとき。
の、3点を示している。
その上で、④として「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。としている。
さて、改正前の民法233条はここで述べた①と④であった。学生時代の講義の記憶によれば、境界線を越えて伸びてきた竹木は勝手に切ってはいけない。ただし、根が、塀の下から伸びてきた場合は切って良い。つまり、隣家の竹やぶから伸びてきた竹の枝は勝手には切れないが、塀の下をくぐって伸びてきたタケノコは自由に処分して良い...というような講義を受けた記憶がある。確かに学生にとってはわかりやすい内容であり、今でも何となく記憶に残っている。それがようやく改正された訳だ。
それにしても、今回の改正までには本当に時間がかかった。こうした法律の条文、とくに民法は我々に生活ルールの根本を規定しているため、そう頻繁には動かせない。その点が毎年のように状況に応じて修正・改正せざるを得ない税法などとは大きな違いである。
さて、現代ではマンションなどに住んでいる人も多いため、先に述べたタケノコのような例を身近に想像するのは難しいかもしれない。ただ、高齢化の進展により、街中には高齢者のみの一戸建て住宅や空き家が急速に増加していることも現実だ。
少し古い調査になるが、総務省によれば、2018(平成30)年における全国の空き家数は846万戸、空き家率は13.6%という[1]。都道府県別に見た場合、山梨、和歌山では空き家率が2割を超えている。東京都は空き家率で見れば10.6%だが、空き家数では80万戸にのぼる。空き家の絶対数で見れば、山梨は90千戸、和歌山は98千戸のため、東京の空き家数がいかに多いかがわかる。絶対数で東京に次ぐ空き家数があるのは大阪の71万戸である。
先に述べたようになかなか動かない民法のこの条文が改正された背景には、日本社会の高齢化とともに、現実的な我々の生活における空き家の増加、そして手入れのされない庭木の増殖などの影響など、複数の社会的変化による要因が考えられる。
実際、街中には庭木が伸び放題になっている空き家をどこの町に行っても目にすることが可能である。それぞれの家屋にはそれぞれの事情があるため、一律的な解決策は難しいかもしれない。ただし、そのままでは隣家への倒木の恐れや、野生動物が住み着くなど周辺生活者への悪影響も無視できない。
少子高齢化は「隣家の竹木」対応にも影響を与えている訳だ。
*
最近はこうした状況を反映したせいか、砂利を敷き詰めて庭土が一切見えない新規住宅も見かけるようになってきました。これはこれで新しい変化なのかもしれません。
[1] 総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」より。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(159)-食料・農業・農村基本計画(1)-2025年9月13日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(76)【防除学習帖】第315回2025年9月13日
-
農薬の正しい使い方(49)【今さら聞けない営農情報】第315回2025年9月13日
-
【人事異動】JA全中(10月1日付)2025年9月12日
-
【注意報】野菜類、花き類、豆類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年9月12日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政も思い切りやってほしかった 立憲民主党農林漁業再生本部顧問・篠原孝衆議院議員2025年9月12日
-
【石破首相退陣に思う】破られた新しい政治への期待 国民民主党 舟山康江参議院議員2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政でも「らしさ」出しきれず 衆議院農水委員会委員・やはた愛衆議院議員(れいわ新選組)2025年9月12日
-
ドローン映像解析とロボットトラクタで実証実験 労働時間削減と効率化を確認 JA帯広かわにし2025年9月12日
-
スマート農業の実践と課題を共有 音更町で研修会に150名参加2025年9月12日
-
【地域を診る】個性を生かした地域づくり 長野県栄村・高橋彦芳元村長の実践から学ぶ 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年9月12日
-
(452)「決定疲れ」の中での選択【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月12日
-
秋の味覚「やまが和栗」出荷開始 JA鹿本2025年9月12日
-
「令和7年台風第15号」農業経営収入保険の支払い期限を延長 NOSAI全国連2025年9月12日
-
成長軌道の豆乳市場「豆乳の日」前に説明会を実施 日本豆乳協会2025年9月12日
-
スマート農園を社会実装「品川ソーシャルイノベーションアクセラレーター」に採択 OYASAI2025年9月12日
-
ご当地チューハイ「寶CRAFT」<大阪泉北レモン>新発売 宝酒造2025年9月12日
-
「卵フェスin池袋2025」食べ放題チケット最終販売開始 日本たまごかけごはん研究所2025年9月12日
-
「日本酒イベントカレンダー 2025年9月版」発表 日本酒造組合中央会2025年9月12日