惰眠を貪る社会科学をNATO東漸にみる【森島 賢・正義派の農政論】2024年6月17日
いま世界は、100年に1度か2度しか起きないほどの危機の中にある。ウクライナでの露対米欧の紛争があり、それに加えて台湾をめぐる中対米の紛争がある。ともにチキンレース(命を懸けた脅しあいのゲーム)の状況にある。偶発的にせよ、核戦争が起こる可能性は小さくない。
これは、一刻も早く休戦しなければならない。だが、休戦しても、永続きしないだろう。根の深い紛争だからである。
この紛争を、民主主義と覇権主義との対立だ、とする見解がある。この見解は、社会科学に基づく見解ではない。社会科学として、この紛争は何を意味しているか。それを、ほとんどの人は知ろうとしていない。
いったい、社会科学は何をしているのか。惰眠を貪っているとしか見えない。知性の退廃である。
これに加えて、1000年の1度あるかないかの、地球温暖化問題がある。これも、すぐれて社会科学の問題である。自然科学は貴重な知見に基づく適切な対策を示すことはできる。だが、補完的な役割りしか果たせない。
それを実行するには社会科学の知見が、必要不可欠である。だが、社会科学はその社会的責務を放棄し、思考を停止して、惰眠を貪っている。
ここでは、ウクライナと台湾をめぐる、2つの紛争をみてみよう。ここでも、社会科学の惰眠は、社会に害悪を垂れ流している。つまり、こうである。
多くの報道は、この紛争を民主主義と覇権主義の間の紛争だ、としている。専制君主のような権力欲の強い政治家が起こしているのだという。プーチン大統領と習近平主席のことである。
ここからは、両氏の強い権力欲という性格を弱める、という対策しかない。ここで貢献できるのは、自然科学としての心理学しかない。そして、それで終わり。それ以上の深い追究
はできない。深い追究のためには、社会科学の知見が必要不可欠だが、それを使おうとしない。
ここで必要なことは、権力の権原、つまり、強い権力を持たせている社会についての社会科学の知見である。だが、それは示さない。
この問題に対する論説の軽薄さと、報道の浅薄さは、ここに起因している。
社会科学の視点からみたとき、この2つの紛争の根源に何があるか。世界を揺るがし、地球の存続をも脅かしている、この紛争の根源に何があるか。
◇
いま各国には、国民の間に、深刻な格差と分断がある。これをどうするか、という根本問題がある。紛争の根源が、この根本問題と無縁であるはずがない。
米欧以外の多くの国々は、これを解消したいと考えている。平等に至高の価値をおくからである。
その一方で、米欧の国々は、解消しようと考えていない。経済発展の起動力だ、という理由からである。ここには、資本による搾取の強化という意図が隠されている。
どうすればいいか。
◇
各国が、この2つの考えのどちらを採るか。それは各国の国民が決めることである。各国が、互いに切磋琢磨しながら、修正しながら決めればいい。つまり各国が、それぞれ自国の社会をどのように改革するか。それは、自国が決めるしかない。それは、他国へ干渉することではない。まして、「NATO東漸」などという、武力で脅しながら干渉することではない。
そうなれば、いよいよ社会科学の出番である。惰眠を貪ってはいられない。
もちろん、ここには「NATO東漸」などという、武力の出番はない。
◇
ここで、「NATO東漸」について考えよう。
NATOは、米英などの32か国が同盟を結んでいる、まぎれもない軍事同盟である。仲良しクラブなどという呑気なものではない。つまり、ある同盟国が軍事攻撃されれば、他の31か国の軍隊が出動して戦う義務がある。そういう、血で結ばれた鉄の軍事同盟である。
その東漸とは、当初の加盟国は12か国だったが、その後、ロシアを取り囲むように東欧へ漸次拡大して、現在は32か国になっている、というものである。
そしていまは、さらに東方のウクライナを加盟させて、ロシアとの国境に、ロシアへ向けたミサイル基地を作ろうとしている。
これは、米欧の大資本による、そして軍事力の威嚇による、搾取の拡大を謀るものである。
◇
さて、今月に入って、ウクライナ紛争について、いくつかの国際会議が開かれた。そのなかで、争点が「NATO東漸」であることが、ますます明らかになってきた。
プーチン大統領は、ウクライナの非武装化・中立化を主張している。
他方のオースチン米国防長官は、ロシア軍の撤退を主張している。
プーチンの主張は非武装化だから、ロシア軍は撤退することになる。
だが、オースチンは非武装化といっていない。つまり、武力を使ったウクライナまでの「NATO東漸」の推進である。
他方、プーチンの主張は、ウクライナの非武装化・中立化である。だから、「NATO東漸」をウクライナで食い止める、という主張である。
両者の主張の違いは、いよいよ鮮明になってきた。
それにもかかわらず、報道は惰眠していて、その後の続報がない。それに加え、社会科学者も発言の自由を大資本に奪われて、無気力に惰眠を続けている。そして、ときどき起きて、居眠りをしている。
まことに憂うべきことである。
(2024.06.17)
(前回 1億総ルンプロ化の危機)
(前々回 理念なき政争)
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