【浅野純次・読書の楽しみ】第98回2024年6月21日
◎叶芳和 『日本ワイン産業紀行』(藤原書店、2970円)
長年にわたり全国のワイナリーを訪れてきた著者による現地ルポと日本ワイン産業の魅力を分析した異色の産業論、地域創生論です。
国産ワインブームと言われますが、国産といっても輸入果汁を醸造したワインが圧倒的です。しかし国産ブドウだけで醸造したワインは特別に日本ワインと呼ぶことができるので、著者はここに焦点を当てたわけです。
日本ワインは国内消費の6%を占めていますが、これが案外個性的なのにはびっくりしました。本場甲州で王道を行くもの、小樽や塩尻で「大量生産・成長戦略」を追求するもの、周辺企業と地域創造を目ざすもの、など戦略は多様です。中には足利の知的障害者たちの農場のように感動的な例も登場します。
著者は日本ワインに多くの強みと可能性を見出していきます。廃棄された桑畑や水田跡地がブドウ栽培の適地であることの農業的意味。自然条件を克服して優れたブドウとワインを生む仕事の達成感(これは人生で最も大事なことの一つです)。そして地方創生への手掛かり。
そんなわけで本書は農業関係者にも多くのヒントを提供してくれるはず。ワイン好きにはワインを楽しむための情報もたっぷりですが、そうでない方にも貴重な一冊です。
◎西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社、2200円)
眠りの意味は脳と体の休養、くらいしか思いつかない人も少なくないでしょう。でも本書を読むと眠りの積極的な意味に驚かされるはずです。いろいろな臓器が睡眠中にどう動き、どう体に作用しているか、ほんとに知らないことだらけだと実感させられます。
免疫系、消化器系、呼吸器系から泌尿器系、まだまだあって果ては皮膚まで。起きているときよりむしろすごいと思わせられる、まさに「人体の不思議・睡眠編」の趣です。
例えば、睡眠中は胃や小腸は働くが大腸は休むので便意は催しにくいとか、睡眠不足はシワやシミを増やすとか。あるいは学習した記憶の整理はむしろ睡眠中に進むのだそうです。睡眠を削って猛勉強中の受験生に聞かせたい話です。
しっかり寝ることの重要性がいやでも迫ってきます。良い眠りで、脳が冴え、筋肉がつき、皮膚が若返ることさえあるのだとか。だから睡眠不足は禁物で、睡眠の質が重要だと。科学的にしっかりした内容ながら、読みやすいのは何よりです。
◎若宮總『イランの地下世界』(角川新書、1056円)
あなたも「イランなんて」派ですか。でも中東問題を考えるのにイランは不可欠な国だし、こんな国があると知って世界は大きく広がります。まさに「事実は小説より奇なり」です。
著者は留学や仕事で長年、現地に滞在し、市井の人々と深く交わってきた由。イラン人の裏の裏まで読み取った現地報告は目からウロコの連続です。
国民の多くが実はイスラムに無関心で棄教や改宗が進み、独裁者たるイスラム法学者たちへの尊敬の念などひとかけらもなく、強権体制下に国民は非愛国的行為を繰り返し、いつまで国体が持つか、と言われて驚かない人は少ないでしょう。
イラン人は親日的で(理由が面白い)、プライドが高い(メンツが最大の関心事)割に自己肯定感が低く(だから美容整形が大はやり)、禁酒国なのにお酒大好きなのだとか。イスラム革命から反米、反中まで面白い話が山盛りで好奇心は巻末へ向け膨らむ一方なこと疑いなし(のはず)です。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日