家格・家柄とむらの支配構造の形成【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第297回2024年7月4日

かつての村落は、年長者いわゆる古老が村をリードしてきた。
経験とカンがものをいう低位生産力段階、慣習・伝承・不文律でもって地域が維持されてきた時代には、地域に長く住んで多くの経験をしている年長者がまずリーダーとなったのである。そして地域に何か起きたとき、その経験を生かし、みんなをまとめる役割を果たしてきた。映画『七人の侍』(注)に出てくる「爺さま」などが典型だ。
また、地域に古くから居住してきた家もリーダーとなった。
地域の資源の管理方法等についての経験を蓄積しているからである。また、一般にこうした家は土地を始めとする地域資源を多く保有しているので、地域内で強い発言権をもつということからも地域をリードしてきた。それもあって土地の保有の程度で発言権の序列が形成されてきた。その土地保有の程度が本分家関係と結びついているとさらに序列は強化される。そうしたなかで地域の中に家の序列、「家格」が形成されてくる。
かくして年長者に加えて家格をもつものがリーダーとなるのであるが、年長者だけでは、つまり単なる経験、伝承だけでは、何か新しい事態が起きたときに対処できないこともある。何とか対応して地域をまとめるとなれば、新しい知識、情報も持っていなければならない。
これに応えられるのが家格の高い家のものだった。彼らは、相対的に金をもっているので教育も受けているし、地域外との接触も多く、さまざまな幅広い情報をもっている。さらに支配階級の情報も入る。封建時代の場合には家格の高いものが地域支配の一機構として組み込まれたからである。つまり、身分差別社会の維持のためには能力の高低よりも家格の高低を利用した方がいいので、封建領主は彼らをさまざまな役職につける。ここで家格は身分制とつながり、「由緒正しき家柄」となるわけだが、彼らは役職を通じても情報を入手する。
それで、家格の高い家は、その知識独占、情報独占のために、地域の他のもの、家格の低いものよりも新しい事態に対処できる。また彼らはその知識、情報から新しいことも始める。かくして地域の牽引者、リーダーとなる。そうしたなかで、あの家のいうことについていかないわけにはいかない、ついていけば間違いないということになってくる。さらにはむらの代表としてあるいは自分のかわりに行政等の外部社会への窓口となってもらう方がいいということにもなる。
こうしたことが何代か蓄積されてくる。それがまた家格意識を高める。あの家は代々そういう家だということで、由緒正しき家柄として、地域のリーダーとして内外に認められるようになる。
そのリーダー以外のものが能力がないからそうなっているわけではない。いくら能力がそなわっていても知識、情報がなければそれを発揮することはできず、追随者にならざるを得なかったのである。そして牽引者と追随者という関係も含んだ家の序列関係のもとで、農村社会が、また農業それ自体も動いてきた。
明治以降もそうであった。もちろん、百姓であっても一定のカネと能力があれば何にでもなれるし、能力の有無にかかわらず身分で将来が左右されるなどということも法的にはなくなってきた。しかし、村の中には土地所有を基礎とした家格は厳然として存在した。そして家格の低いもの=貧しいものは教育を十分に受けられず、高いもの=豊かなものが情報を独占し、それと金力、慣習力で村内に序列を形成し、むらを支配してきた。
戦後こうした関係は大きく変化した。農地改革、その後の農村の民主化、高度経済成長のもとでの農家経済の格差の縮小、交通条件の変化、情報手段の普及等々のなかで教育、情報の独占がなくなり、これが基礎となって家格によるリーダー独占がなくなってきたのである。能力次第で誰でもリーダーになり得るようになってきた。農業、農村社会の多様化、農業技術の発展は一部の人間のリーダーシップの独占を難しくしたということもある(注2)。
しかし、いまだに家格が遺っている。おれの家は庄屋の末裔だとか昔は大地主だったとか威張ってみたり、あの家は村長などになったことのある家柄なのでその子孫がそういう役職につくのは当たり前だというような雰囲気が残っていたりする。
20世紀末になってもだった。
(注)
1.監督:黒澤明、脚本:小国英雄・橋本忍・黒澤明、配給:東宝、1954(昭29)年。この映画の中では「じさま(爺様)」と呼ばれるその古老=長老を高堂国典が演じている。もうご覧になっていることと思うが、私はこの映画を必見の名画の一つだと思っている。まだの方はぜひ見ていただきたい。
2.2024年5月2日掲載・本稿「むらの掟」参照
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