石川県創造的復興プランは画餅に帰す【小松泰信・地方の眼力】2024年7月24日
能登半島地震からの復旧・復興への道のりは相当の困難が伴いますが、能登が再び輝きを取り戻し、被災者が前を向いて生活と生業を再建していくためには、地震からの創造的復興に向けた道筋を明確に示すことが不可欠です。
切迫感に乏しい農業再建施策
冒頭で紹介したのは、『石川県創造的復興プラン』(6月27日公表。以下、「プラン」と略)における馳石川県知事による「はじめに」の一節。その終盤には、「『能登の創造的復興なくして石川の発展はなし得ない』との思いのもと、被災地域の方々はもとより、国や関係機関などと連携を密にしながら、プランの実行に全力で取り組んでまいります」との決意表明。
「プラン」の施策編に列挙されている農業再建の取り組みをタイトルで紹介すると、「担い手の確保・育成・定着」については、「農地の集約化・大区画化」「農業法人の新規参入・規模拡大の促進」「『いしかわ耕稼塾』等による農業人材の確保・育成・定着」、「移住就農希望者への魅力発信、外国人材など多様な人材の受入体制の整備」が示されている。
「農林水産業の生産性向上と利用促進」については、「農畜産物の生産維持・拡大に向けた支援」「スマート農業技術の導入による生産性向上」「耕畜連携のさらなる推進」が示されている。
また「『能登ブランド』の価値向上」として、「『百万石の極み』をはじめとした能登の特色ある食材の価値向上」や「世界農業遺産の維持・継承と高付加価値化」が示されている。
ここでもまた、国の農政の核心でもある「担い手」を主軸にした農業再建策やブランド化戦略が示されており、震災からの復旧・復興という切迫感は伝わってこない。
いずれにしても、現場は一刻の猶予も許されない状況下にある。可及的速やかに取り組むしか復旧・復興の道はない。
JAグループの支援が不可欠
日本農業新聞(7月24日付)は、JAのとの藤田繁信組合長が22日に農政ジャーナリストの会で、能登半島地震の被害や復旧・復興についてオンラインで講演したことを伝えている。要点を整序すれば次のようになる。
①農地の亀裂やのり面の崩壊、揚水機や頭首工の破損など甚大な被害。
②営農再開に向けた復旧の加速が求められる一方、建設業者の手が農業分野まで回ってこない。
③公費解体では、行政の指揮命令系統が一元化されていない点も復旧を遅らせている要因。
④震災を機に耕作を断念した農地は、JAや地域住民が連携して維持・活用していく考え。
⑤地域に根差した総合事業を展開するJAが、復興や街づくりをけん引していく必要性を強調。
当コラムも7月19日にJAのと管内を訪れたが、被災地全体の復旧の遅れを目の当たりにして愕然とした。
藤田氏が指摘した①②③については、まったく同感。
問題は、④⑤である。日本中のJAがかなりジリ貧状況下にあるなか、昨年合併したJAのとも例外ではないはず。加えてこの震災。JAのと独自では無理。JAグループの総力をあげた支援があって初めて、可能となる課題である。
能登農業の問題解決が意味すること
JAのと管内の大規模農業法人の関係者は、絶望的な状況の中で水路の復旧などに取り組み、やっとの思いで当初計画の70%ほどの水田に作付けをすることができた。そこまでの過程において、残念ながらJAとの緊密な関わりは聞かれなかった。
「発災当初、共済がらみで家屋等の査定に忙しかったのか、農地の査定(被害状況の聞き取り)はなかった。問題だよね」と苦笑交じりに語られた後、「震災で、この国の農業の潜在的課題が加速度的に顕在化している。能登農業の問題を解決しない限り日本農業の問題は解決しない」と力説された。国も、JAグループも、遠い半島の問題として済ますべきではない。
活気がない被災地!?
伝聞であるが、東日本大震災の復旧過程を見てきた人によれば、「驚くほど活気が感じられない」とのこと。ダンプが列をなして瓦礫を運んでいるわけでもない。多くの重機が、被災家屋等の解体作業に取り組んでいるわけでもない。ボランティアと思われる人たちが活動しているようにも見えない。これらがその理由。当コラムの印象も同様。
もちろんその間、人も各種事業所も医療機関も、そして役場も疲弊が進み、活力は確実に減退する。そして、この地を離れる決断をする人も事業所も出てくるはず。そんな状況を生み出しておいて、「創造的」といわれても、この地で「明るい未来」を想像することも、まして創造することなど夢のまた夢。
復旧・復興が遅れる不都合な理由
いやいや、ひょっとすると、復旧・復興を急がぬ理由があるのかもしれない。
「(前略)国防の観点から申し上げればですね、(中略)今般の自衛隊の陸海空の、私ども県民に対する支援は極めて大きな意味を持っていると思っています。(中略)強靭化を目指す以上は、更なるですね、こういった半島における災害と国防とを一体的に考えていく必要もございます。そういった意味で、今般の防衛省のご支援に対して感謝するとともに、感謝だけではなくて、今後どういう機能を、輪島分屯地や能登空港において持つべきなのかといったことも、意識していただければありがたいと思っています」と言う、馳知事の発言(3月28日開催の第2回石川県2024年能登半島地震復旧・復興本部会議)から臭ってくるものあり。
さすが当コラム、1月17日付でこう締めくくっている。
「農林漁業という第1次産業、それを生業とする農家、漁家、林家、それらが存在する農山漁村をないがしろにしてきたこの国の政治が、能登半島の復旧さらには復興に本気で取り組むとは到底思えない。日本海の向こうに控える国々の脅威を強調し、復旧・復興への国費投入を出し渋り、『半島仕舞い』に追い込み、防衛施設等の迷惑施設の集積所にするのではないかと、勘ぐっている。これがゲスの勘ぐりであることを願うばかり。早晩、『日本の未来を守る』ために『農山漁村』が必要なのか、『迷惑施設』が必要なのかが突きつけられるはず。その時、多くの国民が『農山漁村』と答えるために、平和を希求する人々がどれだけ知恵と汗を出し続けるか、それがこの国の未来を決める」
国民が「農山漁村」を選ばぬとき、「プラン」は国策によって葬り去られる。
「地方の眼力」なめんなよ
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日