備蓄米売却で食糧法より優先される財政法【熊野孝文・米マーケット情報】2024年8月6日
農水省はあれほど「行わない」と言っていた政府備蓄米を売却する。売却先は加工用向けに限られ、主食用向けではないが、備蓄米を売却するという事実には変わりない。原料米不足に苦しんでいたコメ加工業界はこの決定を受けて大喜びしているのかと思いきやそうでもなく、中には「ありがた迷惑」とさえ言う実需者団体もある。その最大の原因は売却量の少なさもあるが、「時を逸した」とことが大きい。主食用向けの対策もこれ以上混乱を引き起こさないためにも早めに決断すべきだ。
7月30日に開催された食糧部会で配布された資料にはこれまでになかったデータが複数含まれており、コメ流通の実態を知るうえで興味深い内容だが、それについては回を改めるにして、「加工原材料用向け政府備蓄米の販売について」と題する資料も経緯も含めてまとめて公表され、具体的なデータが示されている。
国産加工用原材料用米穀の供給量についてと題する資料には、平成19年から令和5年までの加工用米とふるい下米の供給量が年産ごとに示されている。令和5年産米の供給量は加工用米が27万㌧、ふるい下米が11万㌧、合計38万㌧で平成30年から令和4年産米の平均供給量45万㌧に比べ7万㌧、率にして16%少ない。次に加工用向けMA米の販売について、令和5年11月から6年4月までの累計販売数量が9万7973tとなっており、前年同期の累計数量に比べ4万6889t増、率にして192%と大幅に増えている。国産加工用原料米の不足分をMA米が補っている現状を示し、このほか主食用米を購入した需要者もいるとし、この分を加えると加工原料米の不足分は1万tと見積もってこの分を入札売却する。
入札事項については、<販売開始時期>「令和6年8月から数回程度入札を実施」、<販売対象米穀・数量>「令和2年産政府備蓄米で1万t」、<販売対象者>「加工原材料用の買受資格を有するものであって、今回の政府備蓄米購入契約数量以上に令和7年産の加工用米の購入を希望する者」、<販売価格>「今般の政府備蓄米の加工原材料用への販売に当たっては、『財政法』及び『予算決算及び会計令』に基づき、現在の価値(市場価格等)により最低価格を設定し、競争入札を実施」、<販売対象用途>「酒類用、調味料用(味噌・食酢・醤油等)、菓子用(米菓・和菓子)、米穀粉(上新粉・みじん粉等・玄米粉・ビーフン粉)、加工品(甘酒・玄米茶・漬物もろみ・朝食シリアル・乳児食・ライススターチ・水産練り製品用等)、小麦粉混入製品(米穀粉入りめん用・米穀粉入りフライ用)、清酒用、加工米飯用(肉または魚、甲殻類、軟体動物その他の水棲動物の混入割合が3%以上である密封包装したレトルト米飯、冷凍米飯等であって、2か月以上の保存に耐えられるもの)、ビタミン強化米またはアルファ化を原料とする製品用、包装もちまたは米穀粉混入製品用)」となっている。
長々と資料に記してある文言を紹介した理由は、前回、平成24年に行った政府備蓄米加工用向け販売とはだいぶ中身が違うからである。24年の政府備蓄米の販売はトータルで7万tになり、価格も見積もり合わせ方式で、1俵当たり7700円程度で購入出来た。今回は入札方式で複数回行われることになっているが、売却予定量は1万tに限定されており、外国産米を購入せず国産米を必要とする清酒、焼酎の大手が大口で応札するものと予想される。その理由は、6年産加工用米は多くの産地で大幅値上げが実施され、5年産では1俵8000円程度で購入出来たものが6年産では1万2000円が安値になるほど高騰しているからである。しかも販売価格に関して「財政法および予算決算および会計令に基づき」と明記されており、実需者団体ではこの文言を指して「食糧法より財政法が優先されるということだ」とし、最低下限価格が引き上げられ、応札しても落札できない可能性があると傘下組合員に通知している。具体的な入札の仕様は今週中にも公告されることになっているが、実需者側は買い受け資格の書類の提出など取りまとめに追われることになりそうだ。せめてこの決定が今年の3月ごろになされていれば6年産加工用米の価格がこれほどまでに値上がりすることはなかったという思いもある。
ただ、特定米穀に関しては7月25日の全米工取引会で、㌔110円で100㌧もの売り物が出たものの買いが入らなかったことを見ても完全に潮目が変わっており、裾もの中心に荷余り感が出ている。このため6年産くず米のスタート価格はこれまでの高騰を断ち切るような流れになりつつあり、今回の加工用向け政府備蓄米売却はそれを後押しする決定になったと見る向きもある。
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