(402)「赤と黒」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年9月20日
『赤と黒』と聞けば思い出すのはフランスの作家スタンダールです。作品は読んでいなくても、題名は知っているという方も多いのではないでしょうか。
スタンダールの『赤と黒』は余りにも有名である。貧しいが優秀で野心的な青年が出世を望み、その過程で直面するさまざまな恋愛と社会のハードル、そして挫折を描いたという意味では、現代のある種のサラリーマン小説に近いと考えて良いかもしれない。筆者が読んだのはもう半世紀近く昔になる。細部は忘れてしまったが、当時は世の中の仕組みなどわからなかったため、何とも重苦しい読後感が今でも記憶に残る。ヘッセの『車輪の下』なども同じだ。国語の教科書に掲載されていたため文庫で読んだが、重苦しい印象しか残っていない。時間の試練を経て今も残る名作だけに、いずれもこの年齢で読み返す機会があればまた異なる印象、新たな発見があるのかもしれない。
さて、タイトルの『赤と黒』は一般的には軍人(赤)と聖職者(黒)の服の色を示しているようだ。赤と黒が何を象徴しているかについては、いくつかの説があり興味深い。少し調べただけでも、ルーレットの赤と黒、あるいは赤は生命、黒は死を象徴しているなど様々である。なるほどと思う点もあるが、腑に落ちるまではいかない。
ところで、先日、機会を得て(一社)全国肥料商連合会(山森章二会長)の依頼を受け、全肥商連・全複工共催の場で話をしたが、そこで私自身にも新しい出会いと発見があった。今でも良く知らない分野が多いなと痛感しているため、可能な限りどの分野の方々とも交流している。そうした中で得た興味深い話である。
ウクライナの穀物の話をすれば、当然、黒土(チェルノーゼム:コラム271号参照)の話になる。その流れの中で会合終了後にご挨拶した(一社)日本土壌協会の松本聰会長(東京大学名誉教授)から後日、非常に興味深いお話を伺った。世界に貧富の差が生じた最大の原因はチェルノーゼムとラテライトであるというものだ。
ラテライト(laterite)とは「サバンナ地域に広く見られる、鉄・アルミニウムの水酸化物に富む紅色の土壌。高温多雨のため岩石が著しく風化して生じ。植物養分に乏しく耕作に適さない。ニッケルの原料となるものもある。紅土。」というのがデジタル大辞泉の説明である。なるほど、ラテライトが紅土、チェルノーゼムが黒土、その視点で見ればこれも『赤と黒』になる。
1783年生まれのスタンダールが『赤と黒』を発表したのは1830年、40代後半である。有名な『恋愛論』は1822年、39歳の時だ。『赤と黒』は実際の殺人未遂事件を題材としたようだ。スタンダールの履歴を軽く調べてみたが、表面的には赤や黒の『土』との関係を示唆するような記述は見当たらない。
もしかしたら、スタンダールが過ごしたフランスやイタリアの一部に、紅土と黒土を対比させるような風景と象徴的な貧富の差が存在したのかもしれないなどと想像すると文学作品は面白い。あるいは作品中の風景描写に『土』の違いを暗示させる何かがあるのだろうか。そこはもう一度読み直してみないとわからないが、かなり先になりそうだ。
スタンダール自身は、現代で言えば小学校に入る直前がフランス革命、最も多感な13歳から32歳までをナポレオン戦争(1796-1815)、そしてその後は王政復古という激動の中で過ごし、還暦前に亡くなっている。物心がつくと時代はフランス版戦国時代、そしてナポレオンという英雄が登場して失脚、さらに、その後の旧体制復活を経験している訳だ。『赤と黒』の主人公ジュリアンの野心と挫折はこうした時代背景を踏まえるとさらに深読みが出来そうだ。
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何と何がどこでつながるか、人間関係も人の記憶も面白いですね。
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