栄養補給で切り花の寿命をのばす【花づくりの現場から 宇田明】第47回2024年11月14日
動物は他の生物を食べてエネルギーを得ますが、植物は光合成によって炭酸ガスと水を材料に、太陽の光をつかい、炭水化物をつくって成長のエネルギーにしています。
光合成に必要な光量は1万ルクス以上ですが、切り花が飾られる室内は最大でも1,000ルクスほどです。そのため、切り花は光合成がでず、自らエネルギーをつくれません。
切り花は生育中に蓄積した炭水化物を消費しながら、つぼみを開花させ、花や植物体を維持しています。
切り花の寿命が、生育中の根がついた植物の花より短いのは、栄養の不足が一因です。
寿命をのばすもっともかんたんな方法は、栄養不足を防ぐために炭水化物、具体的には砂糖(スクロース)を吸わせることです。
図は、花びんの水に2%の砂糖の添加した場合の主要な9種類の切り花の寿命に及ぼす効果を示しています。
砂糖無添加(水道水)の寿命は平均で10.1日でしたが、砂糖を添加すると15.4日となり、1.5倍にのびました。
このように、花びんの水に砂糖を加えると、切り花の寿命がのびることがわかります。
しかし、砂糖添加には問題もあります。
花びんの水に砂糖を加えると、バクテリアやかびが繁殖しやすくなり、水が腐ります。
消費者がもっとも嫌うのは、花びんの水が腐り、どろどろになり、悪臭を放つことです。
砂糖の添加による水の腐敗を防ぐためには、抗菌剤が必要です。
また、砂糖を添加すると水の浸透圧が高くなり、切り花の吸水を阻害することがありますが、界面活性剤を添加すると、浸透圧が高くても吸水が促進されます。
切り花に糖を吸わせて寿命をのばす研究は、1960年代に世界中で盛んにおこなわれ、その成果に基づき、多くの商品が販売されるようになりました。
これらの商品は、切り花の栄養源の糖、水の腐敗を防ぐ抗菌剤、吸水を促進する界面活性剤の三つの成分からなりますが、それぞれの成分は商品によって異なります。
これらの商品は、延命剤、花保ち剤、鮮度保持剤などさまざまな名称がつけられていましたが、現在では業界の申し合わせで「切り花栄養剤」に統一されています。
切り花栄養剤の効果は、寿命の延長だけではありません。
水道水だけより大きな花が咲き、花の色が濃く鮮やかになります。
また、スプレータイプの切り花(スプレーマム、スプレーバラ、スプレーカーネーションなど)や、小さなつぼみが無数にあるカスミソウなどでは、開花するつぼみが増えます。
さらに、吸水が促進されるので、植物体の膨圧が高まり、シャキッとした状態が長く続きます。
切り花の寿命をのばす方法として、古くからの民間療法や都市伝説的な手法が数多くあります。
これらは、お婆さんの知恵袋的な楽しみがあり、消費者には人気があります。
たとえば、花びんの水に塩、焼きみょうばん、酢、ハッカ油、重曹、キッチンハイター、シャンプーなどを添加する方法があります。
それらには科学的な根拠がないものや、効果が小さいもの、あるいはまったく効果がないどころか障害がでるものもあります。
残念ながら、科学的な知見に基づき商品化された切り花栄養剤に勝る長寿薬はありません。
消費者がかんたんに確実に、切り花の寿命をのばす方法は、市販の切り花栄養剤を花びんの水に加えることです。
切り花栄養剤の効果を、花屋がもっと消費者に伝えれば、消費拡大につながるでしょう。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(174)食料・農業・農村基本計画(16)食料自給率その他の食料安全保障の確保に関する目標2025年12月27日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(91)ビスグアニジン【防除学習帖】第330回2025年12月27日 -
農薬の正しい使い方(64)生化学的選択性【今さら聞けない営農情報】第330回2025年12月27日 -
世界が認めたイタリア料理【イタリア通信】2025年12月27日 -
【特殊報】キュウリ黒点根腐病 県内で初めて確認 高知県2025年12月26日 -
【特殊報】ウメ、モモ、スモモにモモヒメヨコバイ 県内で初めて確認 高知県2025年12月26日 -
【注意報】トマト黄化葉巻病 冬春トマト栽培地域で多発のおそれ 熊本県2025年12月26日 -
【注意報】イチゴにハダニ類 県内全域で多発のおそれ 熊本県2025年12月26日 -
バイオマス発電使った大型植物工場行き詰まり 株式会社サラが民事再生 膨れるコスト、資金調達に課題2025年12月26日 -
農業予算250億円増 2兆2956億円 構造転換予算は倍増2025年12月26日 -
米政策の温故知新 価格や流通秩序化 確固たる仕組みを JA全中元専務 冨士重夫氏(1)2025年12月26日 -
米政策の温故知新 価格や流通秩序化 確固たる仕組みを JA全中元専務 冨士重夫氏(2)2025年12月26日 -
米卸「鳥取県食」に特別清算命令 競争激化に米価が追い打ち 負債6.5億円2025年12月26日 -
(467)戦略:テロワール化が全てではない...【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月26日 -
【スマート農業の風】(21)スマート農業を家族経営に生かす2025年12月26日 -
JAなめがたしおさい・バイウィルと連携協定を締結 JA三井リース2025年12月26日 -
「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業」採択 高野冷凍・工場の省エネ対策を支援 JA三井リース2025年12月26日 -
日本の農畜水産物を世界へ 投資先の輸出企業を紹介 アグリビジネス投資育成2025年12月26日 -
石垣島で「生産」と「消費」から窒素負荷を見える化 国際農研×農研機構2025年12月26日 -
【幹部人事および関係会社人事】井関農機(1月1日付)2025年12月26日


































