(419)芸能アイドルと「卒論」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年1月24日
大学により異なりますが、筆者の勤務先では毎年1月末が卒論・修論の提出締切日です。4年生は最後の「書き込み」時期です。
手探りで始めた学生達の卒業研究(「卒論」)も、ほぼ1年を経て最終段階に差し掛かった。ひと昔前と異なり学生は入学時にパソコンを購入しているため、設備等の関係で大学内が中心となる分野以外は、自宅や出先のスペースなどで集中して書き上げる学生も多い。
何を研究するかは研究室により異なる。筆者が指導している分野は食品関連企業・組織の経営戦略である。学生達はこれを大前提として研究室に入るが、事はそれほど単純ではい。学群(学部)学生の卒論テーマは基本的に学生と話合いながら決めるが、調査・研究が進展するにつれ関心が動く場合もある。あるいは専門用語の区別を明確に理解しないままに時間が経つと、最後の修正で苦労する。これは日常生活で頻繁に用いられている用語を用いる場合には特に問題となる。
例えば、一般的に経営資源(リソース)は「ヒト・モノ・カネ・情報」と言われている。経営を実践する現場から見ればそのとおりであろう。
一方、伝統的な経営学の分類で言えば、「経営戦略・経営組織・経営管理」、あるいは「戦略・組織・会計/財務」のような形で企業活動を見る視点が分かれている。どちらが正しいかという問題ではなく、そう分類して物事を分析しているということだ。
例えば、アイドル・グループを例にして見ると違いがよくわかる。最初の「戦略」は、どのようなアイドル・グループを作り売り出すかという根本部分である。例えば、男性あるいは女性の複数名で、地域名称をグループ名に付け、どのタイミングで、何をメインとし(歌か踊りか、ルックスか全てか)、さらに一定のフレーバー(体力系・テクニック系・清楚系など)をどう持たせるかなど、が「戦略」に相当する。
それらのグループを構成する場合、誰をリーダーにし、メンバーの特徴とやる気をどう引き出すかなどは「組織」の問題である。状況によりグループ内で息が合う数名を別ユニットとして活動させるような展開も組織運営上は良いかもしれない。
さらに、個々のメンバーがそのグループに求められる諸要素(ルックス・歌唱力・ダンスの能力・コメント力・日常の行動など)を一定レベルに保ち続けること、これがアイドルとしての品質「管理」である。
これに対し、アイドル・グループとしての活動費用(共通の衣装・遠征費用・広告/宣伝費用、給与など)をどう調達するかという側面に注目すれば「会計/財務」の重要な意味が見えてくる。
健全なアイドル・グループを丁寧に観察すると、この「戦略・組織・管理(あるいは会計/財務)」がうまく機能している。設定されたアイドル・グループの目指すところから様々な理由で乖離し始めた(あるいは成長しすぎた)メンバーは無事「卒業」となる。代わりに新しいメンバーが入り新陳代謝が進む。
さて、話を卒論に戻してみよう。
あるテーマに関心を持ち、調べていくと「戦略」「組織」「管理」あるいは「会計/財務」など、これまで見えなかった対象企業の複数の側面が見え始める。学ぶ者には喜ばしいが、「卒論」自体はテーマを決め、時間内でそれを追及するのが目的である。
しかし、現実世界は学問的な境界とは関係なく(部門別の仕切りはあるだろうが)混然一体となって動くことも多い。「卒論」を仕上げる学生の多くが最後に直面する課題は、自分が当初目指した目的(「仮説」という言い方をする)をしっかりと検証しきれたかどうか、である。うまく検証できた場合には良いが、そうでない場合にはその事実(「結果」)に対し、何が問題であったかを正確に記し、その上で自身の考え(「考察」という)を論理的に示せれば、検証結果の是非にかかわらず学群(学部)の「卒論」はほぼ終了である。
* *
さて、今年はどのような「卒論」に仕上がるか。忙しくも楽しみな時期です。
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