花が咲いていない真冬のチューリップ祭り【花づくりの現場から 宇田明】第54回2025年2月27日
筆者の地元では、毎年真冬にチューリップ祭りが開かれています。
昨年までは、写真左のように、1月中旬には満開のコンテナが並べられていました。
ところが、今年は写真右のように、同じ時期にコンテナは搬入されたものの、花はまったく咲いていません。しかも、コンテナの数は昨年までの半分程度です。
いったい、何が起こったのでしょうか?
いくら温暖な地域といえども、真冬にチューリップの花を露地で咲かせるには、高度な開花調節技術が必要です。
チューリップの球根は葉が枯れた6月に掘り上げられ、貯蔵中に花芽分化がはじまり、8月中には完了します。
しかし、球根を植えても、すぐに花が咲くわけではありません。
それは、花芽が伸び、花が咲くには低温に遭遇する必要があるからです。
秋植え・春咲きの植物はおなじような性質をもっています。
低温遭遇後は、春の気温上昇に伴い花芽が伸びて、開花に至ります。
この特性を利用して、花芽分化が完了した球根を、一定期間冷蔵庫で低温を与えた後、加温したハウスで育てることで、12月から花を咲かせる促成栽培が可能になります。
いまでは低温処理が済んだ球根がオランダから輸入されており、植えつけ後に加温をするだけでのぞむ時期に花を咲かせることができます。
まるで、お湯をそそぐだけで食べられる「インスタントラーメン」のような開花調節技術です。
毎年1月中旬からはじまるチューリップ祭りでは、11月はじめに納品されたオランダ産の低温処理済み球根をコンテナに植えつけ、加温したハウスで管理することで、12月下旬にはつぼみが色づき、1月上旬には開花がはじまります。
そして、開花したコンテナを会場に並べると、いっきょにチューリップのお花畑が出現します。
しかし、今年は開花どころか、つぼみさえ見えない葉だけのコンテナが並びました。
担当者に聞いたところ、今年は球根の納品が大幅に遅れたうえに、注文通りの数の優良球を入手できなかったとのこと。
チューリップ祭りのオープン日時が決まっているため、ハウスで発蕾・開花させるための期間が不足し、未開花の状態で会場に搬入せざるを得なかったようです。
このオランダ産球根の不足と価格高騰は、一地方のイベントだけではなく、日本の切り花栽培や各地のイベントに大きな影響を及ぼしています。
オランダ産球根が手に入りにくくなっているのにはいくつかの要因があります。
①地球温暖化
オランダでは猛暑、長雨、雹などの気象被害が相次ぎ、球根の生産は3年連続の不作。
このままでは、オランダが球根生産の適地ではなくなる可能性もあります。
②国際情勢
スエズ運河が使えず、喜望峰まわりのため、大幅な遅延が発生。
遠距離輸送にはリスクが伴うことが改めて浮き彫りになりました。
③円安および日本経済の弱体化
かつて日本は年間2.8億球ものオランダ産チューリップ球根を輸入していましたが、昨年はわずか0.9億球で1/3に減少。
一方、中国の輸入量は3億球に急増しています。
さらに、日本は優良球根のみを選んで購入するのに、中国は規格を問わずまとめ買いをしています。すでに日本はオランダにとってよい顧客ではなくなったので、買い負けするようになりました。
国内でもチューリップ球根は生産されています。
富山県、新潟県を中心に1,200万球が生産されていますが、需要が増えても増産の余力はありません。
おなじくオランダに依存しているユリの球根についてもおなじ状況です。
「必要なときに必要な数の球根を輸入できる時代」は、もはや終わったようです。
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