(424)「米国農務省の長期見通し」雑感【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年2月28日
例年この時期には今後10年を踏まえた米国農務省の長期見通しが発表されます。全体の概要は、各紙で報道されていると思いますので、やや気になった点を紹介します。
最初は「肉」、とくに牛肉である。世界の牛肉輸入数量は現在年間約1,200万トンだが、そのうち3割、約378万トンを占めるのが中国である。第2位は米国の199万トンであり、第3位以下は100万トンに満たない。中国と米国で世界全体の牛肉輸入の47%を占めている。
長期見通しによると、10年後、2034年の総輸入量は1,352万トンに増加するだけでなく、中国の輸入量は446万トンとなる。これに対し米国の輸入量は147万トンへと減少見込みである。この段階で中国の世界に占めるシェアは33%とやや増加する。
また、10年後でも世界で年間100万トン以上の牛肉を必要とする国は中国と米国のみである。ただし、サウジ・アラビアを除く中東各国の合計が100万トンを超える。
中国と米国の牛肉2大輸入国の次にくるのが、韓国と日本である。予測数字は韓国が78万トン、日本が77万トンで、2034年に初めて韓国の牛肉輸入が日本をわずかに上回ると見通されている。
振り替えって中国の牛肉バランスを見ると、年間生産量780万トン、需要量が1,159万トンという形で現在は不足分を輸入している。
この不足分について、かつての中国は輸入牛肉の大半を豪州、ウルグアイ、ニュージーランド、ブラジル、アルゼンチン、そしてカナダなどから調達し、米国とは一定の距離を置いていた。だが、現在ではそうでもない。直近の金額ベースで見れば、米国産牛肉の最大顧客は韓国(22億ドル)、日本(19億ドル)、そして中国(16億ドル)であり、既に米国から見ても新しく、そして重要な輸出先である。
中国の牛肉輸入は、歴史的に見れば2010年代半ば、つまり10年程前まではほとんど存在していなかった。全てにおいて規模が大きい中国のため、現在の日本人の多くは中国が牛肉輸入第1位と聞いても当然と思うかもしれない。しかし、現実は過去10年間で急激に増加し輸入量世界第1位になった点をしっかりと理解しておくべきであろう。この国は実際に動いたときの影響力が半端ではないということだ。
中国と言えば、それこそ桁外れの豚肉生産・消費(約5,500-5,600万トン)が存在するため、牛肉については意外と忘れられているが、今や世界の牛肉貿易の3分の1は中国であるという事実、これは再認識する必要がある。
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もうひとつ、興味深い数字はコメである。 世界のコメ貿易の数字も着実に拡大することが見込まれている。見通しにおける2025年時点の世界のコメ輸入数量は5,647万トンだが、2034年には7,093万トンまでの拡大が予測されている。
そして、輸出数量は10年後でもインドが3,100万トン、実に44%の割合を占める。伝統的な輸出国であるタイとヴェトナムは10年後でもそれぞれ833万トン、701万トン程度である。米国も327万トンとそれほど増加してはいない。
なお、この長期見通しにおける中国は輸出国ではなく、輸入国として年間約200万トンのコメを輸入し続けることが見込まれている。もっとも、中国のコメの生産・消費量は年間1.5億トンであり、現在の在庫は既に1億トンを超えている点を忘れてはいけない。
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ところで、今月3日、フィリピン農業省はコメの価格高騰によりフード・セキュリティの緊急宣言を出し備蓄を放出したようだ。フィリピンは年間1,200万トンものコメを生産していても国内需要が大きく、単独では世界最大のコメ輸入国として現在年間540万トンのコメを輸入している。主食の3分の1を恒常的に輸入に依存するというのが安全保障上いかに大変かは想像に難くない。10年後のフィリピンが依然としてコメ輸入見通し620万トンで世界最大と予測されている点を見ると複雑な気持ちになる。
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