民のかまど【小松泰信・地方の眼力】2025年3月5日
食糧法第一条 この法律は、主要な食糧である米穀及び麦が主食としての役割を果たし、かつ、重要な農産物としての地位を占めていることにかんがみ、(中略)主要食糧の需給及び価格の安定を図り、もって国民生活と国民経済の安定に資することを目的とする。

消費者米価高止まり
西日本新聞(3月3日付)の1面には、「コメ価格5キロ4000円迫る 備蓄米放出発表後も高騰 前年比1.9倍 業者取引変化なし」の見出し記事。
農林水産省が公表する全国のスーパー約千店での平均価格は、2月10~16日に前年同期比90.4%高の3,892円。前年9月に3,000円を突破した後、右肩上がりとなっている、とのこと。
コメ調査会社の米穀データバンクによると、1月下旬以降、価格の水準に大きな変化はなく、業者は備蓄米の放出を控え様子見の状況。「(放出の)メニューが明らかになり、結果が出れば価格が下がる要因になる」と、指摘するのは同社の担当者。
もう去年の夏には戻らない
同紙同日の2面にも、「米価下落期待空振り 『備蓄米』表明でも様子見ムード 放出後『5キロ3000円』壁に?」の見出し記事。
政府は2月14日に最大21万トンの放出を発表。当初は、この時点でも「流通が正常化に向かうとの思惑を農林水産省などは抱いていた」そうだが、まさに、そうは問屋が卸さなかった。
スーパーなどのコメの平均価格は3000円台後半。「(放出表明で)流通が活発になり価格が下がると期待していたが、空振りだった」と話すのは、大手コメ卸の幹部。
「入札結果が出れば、その価格水準を見て取引が動き出すのではないか」と語るのは農林水産省幹部。
記事によれば、業界で意識されているのが、5キロで3000円のライン。昨年夏までの2000円台への回帰は困難とみている。「店頭価格は5キロで3000円台に下がるが、かつての水準には戻らないだろう」と話すのは、東京都内のコメ卸売業者。
なぜなら、新旧多様な集荷業者が高い水準の前払い金で2024年産米を調達しているからだ。
古米は受け入れられるのか
もうひとつ注意しておかねばなならないのは、放出された備蓄米には、繊細なベロメーターの持ち主である日本人が好む「新米」だけではなく、「古米」も含まれることだ。放出される21万トンのうち、第一段階で15万トンが放出されるが、このうち10万トンが2024年産米、5万トンが23年産米(古米)である。
すでにこの言葉を聞いて退く消費者も少なくないはず。「古米」の名誉のために記しておくが、かつてコメ農家から、「古米は、新米と比べて香りは落ちるが、熟成するので味は良くなる。自分の家では、好んで古米を食べている」と聞いたことがある。ただし、家庭の事情で古米を食べなければならない時期があったが、家人ともども生産者には感謝しつつも、新米と比べて「美味い」とは感じなかったことを正直に記しておく。
さて記事によれば、大手卸業者の木徳神糧は備蓄米を仕入れた際、「一目で分かる商品パッケージにしての販売を検討している」とのこと。さらに23年産米(古米)が放出されることを踏まえ、「複数の銘柄を混ぜた『ブレンド米』として販売する予定」で、鎌田慶彦社長は「備蓄米と明記することで、価格の妥当性を消費者に判断してもらえるようにしたい」と語っている。
割安な備蓄米が市場に出回ったとしても、ブランド米の価格が高止まりすれば、「コメ全体の値下がり感は乏しくなる」との市場関係者のコメントが最後に紹介されている。
大丈夫ですか? 江藤拓農林水産大臣
産経新聞(3月4日付)は、2月28日の衆院予算委員会分科会で、政府が備蓄米放出を発表した後もコメの店頭価格高騰が止まらない実態について、徳安淳子議員(日本維新の会)が「国民は買いたくても買えない」として備蓄米の放出などについて質問した。これを受けて、江藤拓農林水産大臣は「法律に基づいて備蓄米は運用しなければならない」などとした上で、「価格の安定なんて書いてありません、食糧法には。書いてありません。書いてありません。書いてありません」と答弁したことを報じている。
当コラムもユーチューブで確認したが、江藤氏の後ろにいた官僚が慌てて指摘したことを受けても、江藤氏は「はいはい。分かりました」と述べるだけだった。
その直後、徳安氏に「価格の安定について、どっちなんですか。書いてあるんですか、ないんですか」と尋ねられて、江藤氏は「大変失礼しました。書いてありました」と訂正した。徳安氏は「そのようなご認識で、とってもびっくりしているんですが」と述べ質疑を続けた。当コラム、誤りを指摘するヤジに対する横柄な姿勢にも重ねてガッカリした。
もちろん冒頭に紹介しているように、第一条に明記されている。そもそも食糧法の正式名称は、『主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律』である。
記事は、「指摘を受けて訂正したが、担当閣僚としての資質を問う声も出そうだ」と、問題視している。
日刊ゲンダイDIGITAL(3月5日公開)もこのできごとを、「耳を疑うような発言」と指弾している。
江藤氏が1月31日の会見で、記者から備蓄米放出に関する質問に対し、「農水省は国民の皆様方に安定的に食料を供給する義務もありますので、国会議員になって、もちろん目は通していましたが、これほど食糧法を隅々まで読んだことはありません」と語っていたことを紹介し、「江藤大臣はどの法律の条文を『隅々まで読んだ』のだろうか」と皮肉っている。
民のかまどに煙は立たぬ
確かに、食糧法第3条第2項で「米穀の備蓄」とは、「米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備え、必要な数量の米穀を在庫として保有することをいう」と規定されている。「量」にのみ軸足を置いた条文ではある。しかし法の趣旨からして、「価格の安定」をないがしろにすべきではない。「量」があっても「価格」が上昇するにつれて、購入できないとすれば、消費者にとっては「供給不足」を意味する。まさに「不足の事態」。もちろん、民のかまどは賑わわぬ。それは「失政」そのもの。
「地方の眼力」なめんなよ
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