第二の備蓄米「飼料用米」から主食用米への転用は可能か?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年3月11日
3月12日午後7時半からNHKクローズアップ現代でコメ価格高騰問題が放送される。この中で短時間であるが「飼料用米」のことにも触れると予想される。令和のコメ不足騒動ではどうしたわけかメディアで飼料用米が取り上げられることはなかった。その意味でNHKが飼料用米をどう取り上げるのか関心がもたれるが、メディアの取り上げ方よりもコメ業界にとってはもっと直接的な意味合いがある。それは、飼料用米は農水大臣が「食糧法」の文言で頭を悩まさなくても簡単に主食用に転用できる方法があるからだ。
飼料用米については、令和2年3月31日の閣議で「地域に応じた省力・多収栽培技術の確立・ 普及を通じた生産コストの低減を実現するとともに、バラ出荷等による流通コストの低減、耕畜連携の推進、飼料用米を給餌した畜産物のブランド化に取り組む。また、近年の飼料用米の作付けの動向を踏まえ、実需者である飼料業界等が求める米需要に応えられるよう、生産拡大を進めることとし、生産と実需の複数年契約による長期安定的な取引の拡大等を推進する」と食糧・農業・農村基本計画の中で位置付けられた。こうしたこともあって年々生産量が増大、令和4年産は80万tにまでなり、目標値の70万tを大きく超えるまでになった。これほどまでに生産量が増えたのは、転作作物として稲から他の作物に転換するのに比べはるかに飼料用米が容易であったことと、転作助成金が10a当たり標準で8万円、さらに数量加算払いで1kg当たり167円と言う魅力的な助成金が支給されたことが大きい。ところが飼料用米の生産量が増えれば増えるほど財政負担が増大、その額が700億円を超えるまでになった。このため財務省が水田活用の直接支払交付金の対象から飼料用米を外すべきと言い出すまでになってしまった。
飼料用米を年間1万tも使用する青森の畜産農家は、飼料用米のメリットについて①国内産のためカビ毒事故がほぼない②為替の変動に左右されない③地産地消で輸送コストが安い④肉の食味、特に脂質がまろやかになる⑤日本で唯一自給できる作物であるー5点を挙げた。飼料用として供給されるコメは年間150万tにもなる。内訳は、5年度産ではその年に生産された国産飼料用米が74万t、処分される備蓄米が12万t、MA米が63万tになっている。配合飼料会社に国産飼料用米とMA米とでは家畜に給餌した時に違いがあるのか聞いたところ「国産米の方が喰いが良い」とのことで、家畜も国産米指向であることが分かった。では、人間の場合はどうか?飼料用専用品種(多収穫品種)を食べられるのか身をもって体験したことがあった。農研機構が主催した「飼料用米試食会」と言う変わった催しがあり、多収穫米育種研究者の誘いでそのテストに参加して20品種の飼料用米を試食した。鈍感なベロメーターを持つ筆者でもさすがに飼料用品種と主食用一般品種の違いは分かったが、ミレニシキや北陸193号はそれほど不味いとは思わなかった。
6年産飼料用米は9万8666ha作付けされ、このうち74%が多収穫品種で、残り26%が一般品種である。ただし、多収品種の中には飼料用専用品種ばかりではなく、県が奨励する多収品種も特認品種と言う名称で含まれており、主食用米に不向きと言うわけではない。また、検査も一括管理された圃場では飼料用に向けられるものも主食用品種と同じように検査されている。6年産飼料用米のうち玄米で受検した数量は12月末現在で40万2000tになっており、このうち主食用として転用可能な数量は16万t程度あると推計される。
農水省の省令の中に「用途限定米穀の用途外使用等事務取扱要領」というものがあり、この要領に法律に定める用途限定米穀の用途外使用に係る農林水産大臣の承認等について必要な事項が定めてある。それには「取り組み計画認定後、需要者等における新規需要米の在庫の増大による過大な経営負担の発生、倒産、休業等により、当該需要者等に販売することが出来ない場合や当該需要者等が新規需要米を所有することができないなど真にやむを得ない事由が生じたことにより、新たな需要者等に販売する場合の取り組み計画の変更手続き及び『主食用の不作など需給変動等を踏まえて農産局長が必要と判断した場合の認定取り組み計画の変更または認定の取組みの申請については、別紙1の第5の4に準じて行うものとする』」と記されている。要するに農産局長が認めれば飼料用米を主食用米として用途変更できるのである。もちろんこれには需要者側の了解や助成金の返還等も伴うが、備蓄米放出が決定して実行に移されたにも関わらず、一向に沈静化しないコメ高騰を沈めるには飼料用米の主食用への転用も考えなくてはいけなくなりそうだ。
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