(430)本棚のサブリミナル効果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月11日
同僚と雑談をした際、「本棚のサブリミナル効果」の話題になりました。
人文・社会科学系の多くの研究者にとって手持ちの書籍・書類・雑誌などを離職・退職の際にどう整理・処分するかは大きな課題である。
研究室内の書籍の数など数えたことが無いが、雑誌などを含めれば数千冊単位になるであろうことは間違いない。これらの中で最も処分が簡単なのは恐らく雑誌類である。現在では多くの雑誌が電子化されている。研究者の場合、学会に入ると毎年、学会誌が送られてくる。少ない学会で年に1冊、多い学会でも年に4冊ほどだが、後者の場合、20年の間に何もしなくても80冊はたまる。近年ではこれも紙を廃止して全て電子化している学会も増えてきた。
学術誌以外にも定期的に購読している雑誌があれば、手持ちの数はとてつもなく増加する。少し前に、ある研究者の方がとある雑誌の数十年分のバックナンバーがあるが、必要ならば声をかけてほしいというメールを関係者に流していた。かつてであれば、図書館などにまとめて寄贈も考えられたが、今では多くの図書館が満杯状態である。筆者自身もかつて著名な研究者の方の蔵書を数千冊単位で寄贈したいと言われ、内部で検討した結果、残念ながらお断りした苦い思い出がある。
それでも雑誌はまだ処分がしやすい方だ。書類となるとこれは気を使う。現代ではかなり電子化されたが、まだ紙の「会議」資料が残る組織も多い。コロナ禍の唯一とも言える良い意味での変化は電子化・オンライン化が進展したことかもしれない。それまでは毎月1センチ位の厚さの資料をもとにした会議が開催されていたが、勤務先の大学では完全にPDFファイルのみ、それも学内の共有サーバーにアクセスして必要な時に閲覧する形が浸透した。結果として会議資料だけを見れば圧倒的に紙の使用は減少している。
現在、紙で残る資料を廃棄する際は、個人情報などに十分な注意を払うことは言うまでもない。大学の場合はテスト・成績資料などが関係する。これは気を使う。通常の紙ゴミのような廃棄はできず、シュレッダーが必須である。場合によっては溶解指定となる。
さて、問題は書籍だが、こちらは何とも言えない。不思議なもので何年も読んでいなくても処分し難い書籍が少しずつ溜まる。これにはもう少し時間をかけて考えてみたい。実家に残る今では使用していない家財道具に近い感覚がある。
このような話をしていたところ、同僚から「本棚のサブリミナル効果」という話を聞いた。ゼミを研究室で実施した場合、学生は真剣に聞いている時もあれば、気を抜いている時もある。その際、何気なく目に入る研究室の本棚のタイトルがサブリミナル効果を発揮して知的な刺激を与える可能性である。
筆者自身は、来客や学生の眼にとまる部分の書籍と、自分が研究で使用している書籍はそれなりに分けている。本棚を見られることは、何となく頭の中を見られるような気がするからだ。このあたりの感覚は世代や幼少期の家庭環境などによりかなり異なるかもしれない。現代では、数百冊・数千冊の書籍を携帯可能なタブレットの中に収めることが可能になり、オフィスや自宅はスッキリ、洒落た形が好まれている。「本棚のサブリミナル効果」などを議論した同僚や筆者などは、もはや前世紀の遺物であろう。紙の書籍を手放す時は本当に研究を辞めるときか、出来なくなったときになる可能性が高い。
その段階になれば、特定のテーマに絞って収集した書籍など、周囲や無関係の家族から見れば単なる紙ゴミの山になる。再生紙の原料として次の用途に活用した方が社会の為になるとわかってはいても...、という感覚の中で、ゴールを見つつ少しずつ整理を始めているが、先は流そうである。
* *
最近の住宅は収納も少ないため、自宅でも書籍の保存は苦労しますね。
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