トランプ関税で米国への切り花の輸出はどうなる?【花づくりの現場から 宇田明】第58回2025年4月24日
トランプ関税が世界を揺るがしています。
農業において、花はマイナー品目ですが、輸出促進は米や和牛と同様に重要な課題です。
そこで、最大の輸出先である米国へ切り花輸出が、トランプ関税によってどうなるのかを考えます。
2024年の花の輸出額は推定98億円。
そのうち、80%は植木・盆栽が占め、切り花は20%の18億円です。
切り花の輸出額は大きくはありませんが、生産者や花産業にとって、単なる利益以上のロマンと誇りの象徴であり、金額では測れない大きな意義をもっています。
植木・盆栽の主な輸出先は中国とベトナムであり、輸出額は年によって大きく変動します。
一方、切り花は金額こそ小さいものの毎年着実に伸びています。
18億円の内訳は、中国が6.0億円、米国が4.9億円、台湾が2.4億円です。
中国への輸出品目は、ドウダンツツジ、アセビなどの特殊な枝ものが中心です。これらの樹は生育が遅く、ほ場での栽培では出荷までに長い年月を要します。
そのため、山野に自生している樹から枝を採取する、いわゆる「山採り」が主で、持続的な供給に課題があります。

一般的な切り花にとって、米国は最大の市場です。
米国で人気が高いのは、スイートピー(宮崎・大分・和歌山県・愛知)、グロリオサ(高知)、ラナンキュラス(宮崎)、トルコギキョウ(長野・北海道・静岡・愛知)、デルフィニウム(北海道・愛知)などです。
日本の切り花輸出がはじまったのは2010年ごろですが、当初は切り花に関税が課せられることをあまり認識していませんでした。
日本は世界50か国以上から切り花を輸入していますが、その関税はすべてゼロ。
米国からは、レモンリーフなどの葉ものを年間2,000万本輸入していますが、これも関税はゼロです。
そのため、日本の切り花輸出も無関税であると思いこんでいました。
しかし、切り花の輸入に関税がかからないのは、日本以外ではオーストラリア、香港、シンガポールなどごくわずか。
他の多くの国では関税が課せられることがわかりました。
例えば、米国は6.4%、中国は10~23%、台湾は18~22%,EUは8.5~10%です。
これでは公平な貿易でとはいえません。トランプ大統領でなくても激怒するでしょう。
花はグローバル産業 関税は公平に【花づくりの現場から 宇田明】第5回
https://www.jacom.or.jp/column/2023/03/230309-65241.php
幸い、米国とは2019年の日米貿易交渉において、生鮮切り花の関税は「段階的に2年目に50%削減」、ドライフラワー、染色切り花などの加工品は「段階的に2年目に即時撤廃」で合意しました。
その結果、米国への日本の切り花輸出の関税はゼロになりました。
しかし、喜んだのもつかの間、今度はトランプ関税です。
日本への24%の相互関税は90日間猶予されたものの、一律10%の関税は課せられたままです。
2019年以降、日本から米国へ輸出する生鮮切り花の関税は、6.4%→3.2%→0%→10%と目まぐるしく変化しています。
一律10%の関税は、生鮮切り花の米国輸出にどんな影響があるのでしょうか?
結論から言えば、たいした影響はないでしょう。
なぜならば、米国への輸出がはじまった2010年ころは1ドル80円の超円高の時代。
それでも、高品質な日本の切り花は、高くても米国の消費者に受け入れられたのです(写真)。
現在は、トランプ関税の影響ですこし円高に振れましたが、それでも1ドル140円ほど。
円換算すれば75%の関税に相当する状況でも商売ができていたのですから、10%の関税はそれほど大きな問題にはならないでしょう。
ただし、90日間の猶予期間が過ぎ、日本の切り花に24%の関税が上乗せされると、10%のままの南米産とは価格競争力で差がついてしまいます。
トランプ関税による影響があるとすれば、米国の景気悪化です。
トランプ関税によって米国経済が混乱し、家計が苦しくなれば、消費者は不要不急の花の購入を控えるでしょう。これは、米国も日本もおなじです。
さらに、米国ではバラやカーネーションなど切り花の90%近くを南米からの輸入に頼り、米国産は10%ほどしかありません。
輸入切り花に一律に関税が課せられると、米国で流通する切り花のほとんどが値上りし、購入量はさらに減る可能性があります。
今さら輸入切り花に関税をかけても、米国での切り花生産が復活するとは考えられません。
関税があってもなくても、消費者は輸入切り花を買いつづけざるを得ません。
輸入切り花へのトランプ関税は、米国の消費者を困らせるだけで、意味がないことです。
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