母の日のカーネーション相場は堅調──それでも生産は下げ止まらない【花づくりの現場から 宇田明】第60回2025年5月22日
花が特によく売れる「物日(ものび)」は、日本の伝統・宗教行事である春秋の彼岸、お盆、年末・迎春です。
そこに加わったのが、アメリカ発祥の「母の日」。
今年の母の日も、定番カーネーションの市況は堅調でした。
しかし、出荷量は依然として回復しませんでした。
日農ネットアグリ市況(全国主要7市場)によると、母の日の1週間前(第19週)における国産カーネーションの平均単価は99円(税別)。
前年(96円)比で3%、平年(79円、過去5年平均)比では25%の上昇です(図)。
ネットアグリ市況の調査がはじまった2011年(66円)からは実に50%の上昇となっています。
それにもかかわらず、入荷量は前年より10%減、平年比でも15%減少しました。
つまり、今年の高値も「需要拡大による単価高」ではなく、「供給減による単価高」でした。
なぜ、単価高が続いても国内生産は減り続けているのでしょうか?
前回(第59回)では、その主な要因として以下を挙げました。
①生産者の高値への不信感
②高齢生産者のリタイア
③農村のエネルギー喪失(増産への意欲の低下)
加えて、国産カーネーションが生き残るためには、「夏の高温対策技術の導入による品質改善」が必要だとも指摘しました。
母の日の定番カーネーションの生産が減りつづけている【花づくりの現場から 宇田明】第59回
https://www.jacom.or.jp/column/2025/05/250508-81461.php
それら生産者側の事情だけでなく、気象環境の変化も生産減少に大きな影響をおよぼしています。
カーネーションの原産地は地中海沿岸で、冷涼で乾燥し、日照の多い気候を好み、高温多湿は苦手です。
日本の夏は、もっとも苦手な環境です。
そのため、暖地では母の日が終わると改植し、苗の状態で夏を越させ、秋の夜温の低下とともに生育を促します。
この間の切り花出荷は、北海道や長野県などの冷涼地に頼っています。
しかし、地球温暖化による夏の高温化と残暑の長期化で、定植後の生育不良が目立つようになりました。
摘芯後の発生する芽の数が減り、生育が不良で、開花が遅れるため、収量が減少しています。
単価高にもかかわらず、生産が回復しない背景には、生産者の減少に加えてこうした「収量減」も大きく影響しています。
また、経営が改善しないのは、生産コストの上昇と、収量減の二重苦にあるといえます。
夏の高温や長引く残暑は、今後さらに常態化することが予想されます。
そのため、高温対策は日本農業全体にとって重要なテーマです。
花産業における高温対策には、2つの方法があります。
①物理的対策
これは、施設園芸全般に共通する対策です。
代表的なものはヒートポンプを利用した冷房です。
それも従来の夜間冷房(夜冷)から、昼夜を通じた「全日冷房」が必要になっています。
ヒートポンプに加えて、パッド&ファンの併用などが考えられますが、これはほぼ太陽光利用型の植物工場と同じです。
このような設備投資と膨大なランニングコストに耐えうるのは、バラやコチョウラン生産の一部に限られます。
カーネーションでは、遮光・遮熱資材や塗料の利用やヒートポンプによる夜冷が現実的ですが、冬季の暖房が精いっぱいの生産者が多く、導入は限られています。
②栽培技術的対策
「品種に勝る技術なし」と言われるように、耐暑性・多収性を備えた品種の開発が最も有効です。
しかし、現在のカーネーション育種は、ほぼオランダ系企業が独占しており、耐暑性品種の開発には期待できません。
オランダの8月の平均気温は18℃で涼しく、彼らには耐暑性育種の概念がないからです。
では、日本の酷暑にどう対応すればよいのでしょうか。
特別な技術があるわけではありません。
むしろ、いま見直すべきは、かつてあたり前だった「百姓ワザ」です。
たとえば、
・改植前の耕うん時の土壌水分の見極め
・苗を定植するときの土壌水分や畝の均平化
・かん水装置の種類により土の「硬さ」を微調整など
こうした「あたり前」のつみ重ねが初期生育を左右します。
また、国産苗と、生産国がさまざまな輸入苗が混在し、苗の形状、冷蔵庫での保管期間がさまざまな苗を植えるのですから、苗を見て、植えつける強さ、深さなどを手加減するワザが重要になります。
近年はこうしたアナログ技術を軽視し、コンピュータ制御の環境調節に頼る傾向が強まりました。
それらだけでは収量減を防ぐことができていません。
こうした「百姓ワザ」がベースにあることで、初期生育を旺盛にし、収量増が可能になります。
こうした技術は、流通や小売はもちろん、周囲の生産者からも見えにくい「ブラックボックス」であり、まさに生産者本人がもつワザそのものです。
重要な記事
最新の記事
-
【'25新組合長に聞く】JA魚沼(新潟) 久賀満氏(4/26就任) 魚沼産コシ、トップセールスに注力2025年5月22日
-
備蓄米 第4回入札公告を取り消し 農水省2025年5月22日
-
6月14日に「新潟百姓一揆」 トラクター20台先頭 主食守るためデモ2025年5月22日
-
【JA人事】JAきたそらち(北海道)柏木孝文会長と岩田清正組合長を再任(4月8日)2025年5月22日
-
【'25新組合長に聞く】JA函館市亀田(北海道) 佐藤均氏(3/27就任) 農業生産への関与も検討2025年5月22日
-
【'25新組合長に聞く】JA釧路太田(北海道) 齋藤泰広氏(5/9就任) 頼れるJAで酪農守る2025年5月22日
-
続・なぜ「ジャガイモ―ムギ―ビート」?【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第341回2025年5月22日
-
母の日のカーネーション相場は堅調──それでも生産は下げ止まらない【花づくりの現場から 宇田明】第60回2025年5月22日
-
令和7年度わかとりメイツ任命式 県産農産物をPR JA全農とっとり2025年5月22日
-
令和7年度鳥取県青果物出荷販売懇談会を開催 JA全農とっとり2025年5月22日
-
長野県産野菜ときのこキャンペーン第1弾 アンケートに答えた100人に豪華賞品 JA全農長野2025年5月22日
-
「新川きゅうり」の目揃い会を開催 ブランドの赤いシールでアピール JA全農とやま2025年5月22日
-
岐阜県農業大学校で農業機械の授業 JA全農岐阜2025年5月22日
-
「すこやか2025」に出展 野菜の摂取度を測って「3-R」を知ろう JA全農ひろしま2025年5月22日
-
「全国有数メロン産地ibaraki 旬のメロン」プレゼントキャンペーン JA全農いばらき2025年5月22日
-
ニッポンエールグミ「富山県産呉羽梨グミ」を発売 富山市長に発売を報告 JA全農とやま2025年5月22日
-
産地直送通販サイト「JAタウン」新規会員登録キャンペーン実施中 JA全農2025年5月22日
-
静岡茶や静岡グルメを紹介 根本凪の「ネモト宅配便 特別編 」配信 JAタウン2025年5月22日
-
「ゆうちょ銀行の新規業務に関する届出制の運用に係る郵政民営化委員会の方針案に対する意見募集」に対する意見 農林中金2025年5月22日
-
小泉進次郎新農水大臣就任でJA全中山野会長が談話2025年5月22日