食料安全保障を支えるのはどこのだれ【小松泰信・地方の眼力】2026年1月21日
「食料安全保障と農業協同組合 どうする? この国の進路」を問うた農業協同組合新聞(新年特集号・1月15日号)は読み応えあり。兎にも角にもご一読いただきたい。

確実かつ最強の「食料安全保障」
食料安全保障といえば、信濃毎日新聞(1月16日付)に掲載された古池 季氏(コイケミノル・農業・66歳)の「農業 私にできる『安全保障』」は秀逸な読者投稿。退職して久しい氏は、現役時代から始めていた農業に精を出す毎日。「寒い朝も、日々畑に赴き、掘り出した野菜がわが家の食卓を潤す」とのこと。「肥料や資材の高騰、不安定な国際情勢など、農家を取り巻く環境は厳しい」が、「世界がどう揺れようと、土を耕し、種をまけば芽が出るという自然のことわりはうそをつかない」と「農」の真髄を記す。その上で、「齢90を超える両親、そして育ち盛りの孫たちに、自分の手で作った安全なコメや野菜をおなかいっぱい食べさせる。これこそ私にできる確実かつ最強の『安全保障』」と断言。この心意気で、「この地でどっしりと根を張って生きていく」と、心強い宣言。
氏のような存在を抜きにして、「食料安全保障」や「農ある世界」の未来は語れない。
長野県佐久穂町議会の意見書
長野県佐久穂町議会は、衆議院議長、参議院議長、内閣総理大臣、財務大臣、農林水産大臣、内閣府特命担当大臣(こども政策)を宛先とする『農業生産者の所得補償に係る制度創設と農業予算の確保を求める意見書』(令和7年9月10日)を、同年9月18日の議会において賛成多数で可決した。(小松注;原文で主食を意味する「食糧」が用いられているのでそれに従う)
国が進める農業政策が、「効率的で経営感覚豊かな農業経営体を育成するという方向性」で進められてきた結果、小規模農家や兼業農家などの多様な担い手農家が実質的には切り捨てられたことや、中山間地域における水稲農家は赤字経営を余儀なくされ、受託農家も高齢化により離農の危機を迎えており、農地の荒廃化が加速化していることを指摘し、「再生産のできない壊滅的な状況が切迫」しているとする。
このような危機的状況を背景として、「『食糧安全保障』を確かなものとするため、市場動向に左右されず、小規模農家も含めたすべての生産者が、いかなる状況においても安心して食糧増産」が図れるよう5項目を要求している。概要は次の通り。
要求項目1.農業予算の十分な確保・倍増
農林業に係る2025年度の当初予算が2兆2703億円で、国家予算115兆5415億円の1.96%。「食糧安全保障の確立と謳いながら、十分な予算とは言えません」と指摘し、「産業創出に係る予算は、地域資源を活用した持続可能な地方経済の基盤をつくる、まさにわが国の未来を創出する投資的支出」と位置付ける。その上で、「現に農業を担っている全ての生産者が安定的な営農継続と十分な所得が確保できるよう、また新たに農業を志す就農者が安心して就農できるよう、必要かつ十分な予算の確保・倍増」を求めている。
要求項目2.直接支払を基本とした所得補償制度の創設
「消費者の求める適正価格と生産者の求める適正価格には乖離があり、もはや市場原理により生産者の所得確保を実現することは難しい」として、「小規模農業者も含むすべての農業生産者が安定的に営農継続できるよう、直接支払いを基本とした欧州並みの所得補償制度の創設」を求めている。
要求項目3.多様な担い手農家支援に向けた国庫補助の大幅拡充および補助要件の緩和
国庫補助事業に関しては、「採択要件が年々厳しくなっており、小規模農業者、兼業農業者などが活用できる補助金はほとんど無い」「申請書類の作成に係る事務負担は大きく、知識やノウハウのない農業者には独力での作成は大変な困難」などの実態が、「小規模農業者をはじめとする多様な担い手の減少を加速」させているとの指摘。さらに、機械や施設の取得費用も高騰し、再購入が不可能に近く、「機械の寿命とともに離農を検討せざるを得ない状況」と記す。
このような状況から脱却するために、「農業機械・施設の更新に必要な補助金の拡充および、補助要件、申請手続きのハードルを下げ、より多くの担い手農家が活用しやすい補助制度への改善と補助金の大幅な拡充」を求めている。
要求項目4.水田政策の見直しとコメの増産体制の確立
「令和の米騒動」の反省に立ち、「生産調整をベースとした現在の水田政策を改め、コメの増産体制への転換をはかり、需要を上回る供給分については、備蓄米での買取の拡充、輸出米の販路拡大等によって市場における需給を調整し、米価を安定させるべき」との意見を示し、「すべてのコメ農家が、安定的に営農継続が図れ、安心してコメ増産が図れるよう水田政策の早急かつ大幅な見直し」を求めている。
要求項目5.主食米の増産に伴う生産過剰分のセイフティネットへの活用について
増産に伴う価格安定化対策は、「備蓄米の買取拡充」による調整を基本とする。なお、備蓄米の余剰分については、「フードバンク、子ども食堂、ひとり親世帯、あるいは生活保護世帯への支援などセイフティネット活用を進める」ことを求めている。
なお、「困窮家庭も含めれば、生産量が絶対量として足りていないのは明らか」とも記している。
どっしりと根を張って生きていく
当コラム、佐久穂町議会の意見書に完全同意。この意見書に真正面から向き合わない限り、「食料安全保障」は夢物語。
衆院解散を表明した1月19日の記者会見で高市首相は「食料安全保障の確立により、何があっても食べ物に困らない日本をつくる。全ての農地をフル活用できる環境を整え、農業にも、林業にも、漁業にも、最新の技術を活用し、日本の食品を広く世界市場に展開することによって、国内外で需要を増やしながら、供給力も強くします」と力んで語った。
空虚の一語に尽きる。食料安全保障を支える現場の、危機的状況を真面目に受け止めていれば、絵空事の発言はできないはず。
しばらくの間続く、絵空事の空中戦に振り回されないよう、古池氏にならって「どっしりと根を張って生きていく」しかない。
「地方の眼力」なめんなよ
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