(470)設計思想の違い1(牛肉:ブラジルと豪州)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2026年1月23日
世界の牛肉輸出量の上位は、1位ブラジル(375万トン)、2位米国(122万トン)、3位豪州(196万トン)です。各所で話題になる米国は別として、ここではブラジルと豪州の違いをこうした数量面ではなく「考え方」の違いから見ていきましょう。
ブラジルと豪州は、ともに世界の牛肉輸出の上位国だが、輸出に対する考え方には大きな違いがある。この違いは意外と忘れがちである。
この両国の牛肉輸出は、個別企業の牛肉輸出戦略とは異なる「国家戦略としての畜産・牛肉輸出」という特徴がある。一方、その国家戦略が全く異なる点が興味深い。残念なことに、多くの日本人は今でも「豪州産牛肉は...」とか、「ブラジル産牛肉は...」など、品質や味の面で比較をしたがる傾向にある。これらは消費者には重要な点だが、現実の輸出競争がどこで岐路に直面するかを見ると様相が異なる。
まず、現代の牛肉輸出は「牛」の品質や価格のみで決まるのではない点をしっかりと理解しておきたい。ポイントは、どこの市場をめざし、どう個体管理をするか、その手法が信頼に足るかどうか、そしてリスク回避のシステムが完備しているか、である。
まず、ブラジルは牛肉輸出量のほぼ半分を中国向けに輸出している。これは同国にとって中国が最大かつ重要な顧客であることに他ならない。その中国市場にはEUや日本とは異なる特徴がある。現在の中国市場はEUや日本レベルでの牛の個体管理を要求しているわけではない。それよりも量的・価格的に競争力ある牛肉の安定供給を求めている。そのため、過去10年の間に、安全性などの面でトラブルが生じた場合にブラジル産牛肉の一時的な輸出停止が繰り返し発生している。
ブラジルでは豪州や日本のような個体管理は、少なくとも国家規模では実施されていない。ブラジル国内で総数2億頭とも言われる放牧中心の牛の全頭管理には様々な問題がある。コストが膨大になること、最大需要国である中国がそこまで要求しておらず、むしろ価格競争力が極めて重視される点などが大きな理由と考えられる。
もちろん、ブラジルにはSISBOV(牛・水牛原産地・生産チェーン識別システム)などがあるが、対象は「全頭」ではなくRFID(無線自動識別)も必須ではない。視認によるイヤータグを主体とし、管理は農場単位・ロット管理が中心である。繰り返すが、これは優劣の問題ではなく、何を優先したかの問題である。
では、豪州はどうか。牛の総数は3千万頭程度だが、国家インフラとしてのNLIS(National Livestock Identification System、全豪家畜識別システム)により完全な全頭管理が実施されている。戦略面で見れば、価格競争力以上に、個体識別こそが輸出競争力の基盤という認識のもとに牛肉輸出の仕組みが設計されているわけだ。
その豪州産牛肉が狙っているのは、EU、日本、米国など、いずれも高付加価値・高規格市場である。
つまり、牛肉の国家戦略の目的として、豪州は中国以外の高付加価値市場を絶対に失わないことを最優先としているのに対し、ブラジルは中国向けの数量最大化を最優先していると考えることができる。
豪州のような仕組みの構築は、投資の回収期間が長く、便益をどう個別企業に帰属させるかなど様々な問題が生じるため、民間主導では難しい。さらに、牛肉は今や外交・貿易交渉の道具でもあるため、個別企業が独力で頑張ればどうにかなる問題でもない。
現代の畜産における競争力とは、特定の家畜の品質や価格の問題だけではなく、政策当局がどの市場を「理想顧客」と想定して国家の制度を設計するかという次元の問題にもなっている。それでは、日本はどこを見て畜産物の輸出制度を設計したらよいか、これは別途、考えてみたい。
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