【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】米国などの補助金漬け輸出、不利な日本の現実をどう解決するか2026年1月29日
水増しの農産物輸出額
昨年11月の農産物の輸出額が前年同月より1割増えて1450億円になったという(1月7日の日本農業新聞)。それでも、農産物輸出の政府目標額の年間2兆円の目標には遠く及ばない。
しかも、この1450億円の内訳を見てみると、農産物の生鮮品というのは473億円しかない。加工食品が503億円、水産物が411億円ということで、水産物は真珠なども含めて、もともと輸出が多いが、今回一番力を入れようとしている農産物について、この加工食品というのは、実はその原材料は非常に多くが輸入の農産物なのだ(山田優氏の一連の記事参照)。
だから、この数字自体が相当に「水増し」されているということだ。水増ししても目標の2兆円に遠く及ばないわずかな額で、「増産して輸出すればいい」という議論が勇ましく行われているが、そう簡単にはできないということを私たちは押さえなくてはいけない。
コメについても、もっと増産して1200万トン作って600万トンぐらい輸出すればいいとか机上の空論を言う人がいるが、そんなことが簡単にできるのなら、誰も苦労はしない。
日本のコメの値段は国際相場よりかなり高いし、世界のコメ貿易の主流は長粒種のインディカ米でジャポニカ米(短粒種)の市場はわずかしか占めていない。だから、おにぎりの需要が増えているのは確かに追い風としても、600万トンのコメを日本が輸出できるとか、それがいつ可能になるのかということを考えたら、いかに非現実的な話かと思う。
米国の補助金漬け輸出の強み
しかも、他の国の農産物の輸出というのは補助金漬けだ。米国の穀物などは、コメの仮数値で例示すると、60キロで4000円ぐらいと安い国際相場で売っても、農家には60キロ1万2000円とかの再生産価格との差額が全額払われる。だから農家は所得が保障されて、どんどん増産できる。安く売って輸出補助金で市場を広げているわけだ。
さらに、米国はコメ以外の例えば牛肉とか果物も日本でも一生懸命広告していて、スーパーマーケットなどでも、米国の農産物の試食会とかあるが、あのお金はどこから出ているか。それは、米国の農家の皆さんが拠出しているお金が半分。それに対して同額を連邦政府が負担している。だから米国の農産物輸出促進の費用のうち半額補助になってるわけだ。
政府がそこまでやって輸出を振興しているのが世界の当たり前の姿だから、日本は掛け声だけで何もやっていないに等しい。ただでさえ高い日本の農産物を、補助金なしで売っていくということが、いかに大変なことか。これを踏まえないと、「輸出がばら色だ」という議論はできない。
「米国から牛肉を20万トン以上輸入し、日本からの輸出は200トン+α」の不公平
日本から米国に輸出できる牛肉の低関税枠は200トンしかないのに対して、米国側から日本が輸入している牛肉の量は20数万トンで、実質、無制限なのに日本は200トンしか認められていない。
その他に6万5000トンぐらいの「複数国枠」といって、ブラジルやらEUやら日本やらが、そこから自分の国の分として米国に輸出できる分を取ることができることになっているが、そのうち、イギリスを優先して、1万3000トンはイギリス枠にすると最近発表され、日本が取れる分が減ったといわれる。
そもそもの問題はそんなレベルじゃない。200トンしか独自枠がなくて、さらに5万トンの複数国枠をみんなで分けるとしても、日本は20万トン以上米国から輸入している。しかも、輸入が増え過ぎたら制限をかける「セーフガード」も、増えた分だけ基準輸入量を増やすというザルになっていて、実質、無制限だ。
しかも、日本からの牛肉輸出が200トンを超えたら、26.4%の関税がかかるのに、日本が米国から輸入する牛肉関税を日本は最終的に9%まで下げるという約束をした。前回の第1次トランプ政権のときに、今回と同じように、自動車の25%の関税で脅されて、「何でもやります、許して下さい」ということで、牛肉と豚肉の関税の大幅削減を行った。
さらに、トランプ氏との最初の約束では、26.4%の関税は15年目に撤廃することに、200トンの枠も15年目に撤廃することになっていたのを反故にされたのだ。米国は日本に対して、量的にも関税についても制限をなくすという約束をしていたのに、それを反故にされて、その結果、200トンしかない基礎枠と、イギリスに取られて5万トンしかない複数国枠をどう分けるか、という議論になっていて、関税も26.4%のままだ。
反対に、日本は米国から、今後9%の関税で、牛肉輸入を20万トン、30万トンと無制限に増やしていかなくてはいけない。
この非対称性、いかに日本が虐げられているかということだ。こういう状況を考えると、日本が「2兆円に農産物の輸出を増やすんだ」と言っても、非常に不利な条件を飲まされていて、そんな簡単にはできないなということもよく認識して、これをどう解決するかということを根本的に議論しないといけない非常に大きな問題なのである。
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