金融共済:JA共済の今日的意義
【第3回】共済は協同組合にもっともふさわしい事業 2015年11月26日
個人保険の中心である近代的な火災・生命保険は16、7世紀にかけて英国、ドイツ等ヨーロッパで誕生した。
その担い手の多くが、相互組合(協同組合を含む)もしくは相互会社であった。個人の経済的なリスク保障を目的として、加入者が保険料(掛金)を支払い、保険の担い手が保険金(共済金)を支払うという営みにおいて、直接的に関係ない営利のみを目的とする出資者が介在する必然性は少なかった。
◆生命保険と損害保険は成り立ちが異なる
損害保険の始まりとなった「海上保険」の担い手が当初から株式会社であったことと対照的な特徴となっている。個人保険と異なる事業保険としての「海上保険」は営利を目的とする貿易事業に付随して発展した。また、資本主義の発展につれて、個人保険分野においても株式会社が有力な担い手として登場することとなる。
別表に作成した相互保険・共済と株式会社保険の比較を参照されたい。
協同組合の保険(共済)の場合、組織の所有者は組合員(会員)であり、運営は総会など組合員の自治である(全共連の場合、会員農協の自治)。相互保険会社も会社の所有は社員である契約者であり、運営も社員総会が基本になっている。
これに対し株式会社は会社の所有も運営権もすべて株主、株主総会であり、保険契約者の権限は一切ないし、契約者相互の結びつきもない。契約者は保険を会社から買うという行為のみである。
◆共済と相互保険の大きな違い
この表では株式会社との対比上相互保険と協同組合保険(共済)を一つの区分にしているが、協同組合保険(共済)と相互保険の違いが二つある。
その1は、同じ相互扶助といっても協同組合の組合員は協同事業を通じた結びつきであり、契約関係が終了しても組合員相互のつながりがある。
これに対し、相互保険の契約者は契約関係がなくなれば、社員相互のつながりもなくなるということである。つまり「相互扶助」といっても相互会社のそれは保険制度の観念の世界ともいえる。
これにひきかえ、協同組合の行う事業そのものが実態のある「協同」であり、協同組合保険(共済)は本質的に「相互扶助」である。
その2は、協同組合には組合員の出資金という組合資本があり、そのことを根拠にした組合員の総会での議決権や役員選任権といった経営権がある。これに対し、相互会社の場合、契約者による社員総会(総代会)はあるが、保険料を支払っていることのみを社員資格の要件とするその経営権は極めて弱いといえる。そして基金拠出者の基金はあるが、その拠出者には経営の権限はないのである。
賀川豊彦が「保険事業こそ協同組合が担うにふさわしい。保険は協同組合が担うべきである」といった根拠はこのことからも明確にある。
◆グローバル化で相互会社も株式会社へ
保険支払いリスクにおける財務的諸準備として、一定の財産を持つことが法律上義務化されるようになったのは、米国の19世紀における州法からと思われる。
株式会社は出資者からの資本で、相互会社は拠出者からの基金で準備するようになり、株式会社が担い手の主体となった。とはいえ、米国の大手生命保険のプルデンシャル、エクイタブルといった会社もつい先ごろまでは相互保険会社であり、株式会社転換をしたのは最近である。
我が国においては1900年代はじめに誕生した生命保険の多くは株式会社であったが、戦後財閥解体や民主化の流れの中で、その多くが相互保険会社として再出発を図った。近年第一生命保険(我が国初の相互保険会社であったことを考えると隔世の感がある)、三井生命保険などが株式会社に転換している。
日本における少子化・人口減少が進む中、保険会社の合併や海外展開が進んでいる。保険のグローバル展開は資本政策がその中心であることから、我が国の保険会社が株式会社化していくのは時代の趨勢かもしれない。
◆総合農協だからこそできる事業
しかし、組合員の保障を事業目的とする協同組合にとって、「協同組合こそが保険事業を担うにふさわしい」という意味を、今こそ吟味するときである。
JA共済の特長・意義を挙げれば、
1.保障を全国展開していること(かつ、農協は地域社会に根差して活動している)
2.建物保障の掛け金率にみるとおり、全国一律料率の志向をもっていること(相互扶助の具現化)
3.農協の総合事業と連携し、共済事故の未然防止活動、農村医療の向上・組合員の健康増進活動、リハビリテーション等に幅広く取り組んでいること
4.災害時の被災者救援・支援活動を実施してきたこと
5.農協と全共連による共同元受けにより危険分散と効率的な機能分担を行っていること
など他の民間保険では実施できない幅広い取り組みを行っている。
これも総合農協というすぐれた組織、制度に依拠した事業で、組合員の支持があるからこそ実現できていることであり、そのことに誇りと自信をもって対処してきた系統役職員の努力の賜物である。(この連載は今回が最終回)
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