【クローズアップ】週後半に大型経済対策 生乳過剰是正も焦点に 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年11月15日
岸田首相は今週後半にも、補正予算案骨子、TPP関連対策も含めた30兆円台の大型経済対策を示す。農業関連では、コメ需給対策と共に大きな焦点となっているのが生乳過剰対応だ。酪農家、乳業の需給対応への国の具体的支援策が課題となる。
緊急全国大会で乳製品過剰問題を訴える小野寺俊幸JA全中酪農対策委員長
■大手乳業トップも危機感
11月上旬の大手企業2021度上期決算会見で、質問が集中したのが新型コロナ感染縮小に伴う業績見通しと共に直近の燃油高への影響だ。だが、乳業メーカーの会見では、膨らむ乳製品在庫問題と経営対応も相次いで問われた。
最大手・明治HDの川村和夫社長は「年末年始の処理不可能乳は何としても避けなければならない。酪農・乳業界挙げて対応する」と決意を述べた。北海道にいくつものバター、脱脂粉乳の大型乳製品工場を有する雪印メグミルクはさらに事態を深刻に受け止めている。3大メーカーのうち明治、森永乳業は乳製品の社内処理で製品化する比率が高い。一方で雪メグは実需者への原料供給の側面が強い。積み上がる乳製品在庫は、経営問題にも直結しかねない。
西尾啓治雪メグ社長は、年末年始の生乳廃棄の懸念が高まっていると危機感を示した上で、「乳製品工場のフル稼働、業界挙げてあらゆる手を尽くして需要拡大に努める」とした。
■年末年始に緊急出荷抑制
年末年始は例年、生乳不需要期で学校給食牛乳も停止となることから需給緩和がピークとなる。だが、今年はこれまで以上に乳製品工場に持ち込まれた原料乳が処理しきれず生乳廃棄の懸念が高まっている。乳製品、特に脱粉が年度末で適正在庫の2倍以上の10カ月分に積み上がりかねない。試算では年末年始に5000トン程度の生乳廃棄が生じかねない。
業界団体で構成するJミルクは10月26日、全国オンライン会議で現在の生乳過剰の危機的状況を示し、生乳廃棄回避へ酪農家の一時的な生乳出荷抑制、乳業メーカーの万全な乳製品処理対応、合わせて業界挙げた牛乳消費拡大などを呼び掛けた。
■指定団体以外はどうするのか
出荷抑制は大方の理解を得たが、問題は具体的にどう対応するかだ。生乳需給改善には、「出口」対策と「入り口」対策の二つがある。
コロナ禍の業務用需要低迷で、国は牛乳消費拡大、輸入品の国産代替、食用から飼料用脱粉への切り替えなどで、生乳需要を喚起しそれなりの需給改善効果を挙げてきた。これは、積み上がった乳製品在庫の山を崩す「出口」対策だ。今回の出荷抑制は、酪農家の生産者段階の出荷に一時的なブレーキを効かせる「入り口」対策で、究極の需給調整手段と言っていい。あまり抑制が効かすと、その後の需要回復時に生産が戻らない懸念も強い。
ここで注目すべきは、Jミルクの出荷抑制呼び掛け時に相次ぎ生産現場から出た疑問だ。典型的なのは「指定生乳生産者団体以外の対応はどうするのか」「酪農・乳業の自主的な取り組みは理解できるが、国はどんな支援をするのか」の二つの問いだろう。
先の疑問は、官邸主導農政による規制改革推進の中で制定された改正畜産経営安定法と絡む。生乳改革論議で、生乳一元集荷、原則全量委託の現行指定団体制度を抜本見直し、生乳流通自由化を決めた。指定団体以外も一定の条件を満たせば加工原料乳補給金対象とした。今回の出荷抑制で生乳全体の9割を超す指定団体傘下の酪農家は需給調整で対応するにしても、それ以外の生乳集荷業者、酪農家が対応しなければ、不公平感が残り、需給調整効果は薄らぐ。まさに改正畜安法で再三指摘されてきた「いいとこ取り」の象徴だ。
■全中緊急大会でも前面に
今年は、11月中旬の大型経済対策実施に伴い補正予算も含め、農業団体の予算運動も〈異例〉の前倒しとなった。こうした状況でJA全中は11日、与党農政責任者を招きJAグループ農政推進緊急全国大会を開いた。むろん、自公政権勝利となった総選挙直後の政治的なタイミングで、農業団体の意思反映を行う狙いもある。
主眼は、過剰在庫で米価低迷が顕著なコメ関連対策、人・農地関連施策見直しに伴う政策提案だが、主要な柱の一つに畜酪対策も据えた。
畜酪対策でも乳製品過剰に関連し「生産者団体・乳業が一体となった取り組みへの支援」を訴えた。要請では、北海道中央会会長で全中酪農対策委員長を務める小野寺俊幸会長が、深刻な生乳需給緩和を念頭に「この難局を乗り越えるため業界一丸の取り組みに、国の支援が何としても必要だ」と訴えた。配合飼料高騰での基金枯渇の懸念も示した。
■与党幹部も対策約束
大会では、農業団体要請を受け農政責任者の自民党農林・食料戦略調査会の塩谷立会長が「酪農経営安定が図られるよう支援策を検討する」と約束した。
問題は支援策の中身だ。今週後半で示す30兆円台から40兆円ともされる大型経済対策でのTPP関連対策、補正予算案骨子、あるいは12月中旬にも決定する2022年度畜産酪農政策価格・関連対策の中で明らかになる。当面は年末年始の業界対応への国の支援策が問われる。
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