【クローズアップ】中央酪農会議 酪農制度確立で国に要請 生乳目標780万トン「増産型」念頭に2024年9月25日
中央酪農会議は、酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)を踏まえた酪農制度確立を要請した。国内酪農存続への喫緊の課題を網羅したものだ。次期酪肉近生乳目標は「増産型」維持を掲げた。非系統も含めた政府主導による全国的な生乳需給調整の枠組み構築も求めた。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
中酪の酪農制度確立の要求は以下の五つ。要請は17日の理事会で決定し、菊池淳志専務ら中酪幹部が19日に坂本哲志農相宛に行った。
当面の課題である12月中旬決定見込みの2025年度畜酪政策価格・関連対策をはじめ、今後10年間の政策方向を示す次期酪肉近、改正畜安法での問題点、「みどり戦略」に基づく環境調和型酪農対応など、解決すべき項目を具体的に整理、網羅した。底流を流れるのは、酪農家の離農に歯止めがかからない中での、国内酪農存立への強い危機意識だ。
〈改正基本法を踏まえた酪農制度確立の要求〉
① 生乳生産目標は生産意欲を損なわないよう消費拡大に注力しつつ増産型水準を設定
② 2025年度補給金単価は加工向け環境整備の水準、集送乳調整金は物流コスト上昇踏まえ適切な水準、交付対象数量は国内の生乳需給の実態を踏まえ
③ 合理的価格形成は生乳生産コストの変動を反映すること。指定団体外の自主流通拡大の中で自主流通事業者等を含めた全国的な枠組みでのセーフティーネット構築を含めた需給調整対策を確立。あわせて都府県不需要期における乳製品処理脆弱(ぜいじゃく)化への支援。あわせて無脂乳固形分や国産ナチュラルチーズ需要拡大への支援策確立
④ 「みどりの食料システム戦略」対応と持続的酪農経営を担保するため直接支払いも含めた政策支援の構築。また配合飼料価格安定制度による影響緩和機能の堅持と積立財源安定確保に向けた環境整備を促進
⑤ 国産飼料の生産拡大へ耕畜連携、コントラクター強化、適地適作・転作田の活用による飼料用米・稲発酵粗飼料(WCS=ホールクロップサイレージ)生産を含めた国産飼料生産の推進
次期酪肉近論議の焦点の一つが10年後の2035年度生乳生産目標の扱い。現行は2030年度目標で780万トン。Jミルクは戦略ビジョンで最大800万トンとした。半面、生乳需要が堅調だった5年前の情勢とは一変し脱粉過剰対策が続く。こうした中で中酪は、あくまで「増産型」を維持すべきだとした。
中酪が「増産型」に固執するのも生産現場の意欲向上を踏まえた。改正基本法で食料安全保障構築が農政の柱に据えられ、持続的酪農経営を維持・強化し国産牛乳・乳製品の安定供給を進めるとの意思表示でもある。ここで重要なのは、「増産型」維持の大前提に「消費拡大に注力しつつ」として、あくまで国産生乳の需要拡大と並行した生産拡大を求めた点だ。
環境負荷軽減へ農水省が推進する「みどり戦略」を踏まえ、中酪は酪農経営の持続的な維持・発展を担保するため直接支払いも含めた政策支援を求めた。ふん尿処理、牛のげっぷ対策など環境調和型農業を進めるにあたり、酪農経営のコスト増加が避けられないためだ。
年間5%以上の離農が続き、指定団体の受託戸数が1万戸の大台割れになったとみられる酪農制度の安定的運用には、変動する生乳需給の対応が欠かせない。
こうした中で、中酪要請の柱の一つが非系統の自主流通業者も含めた全国的な生乳需給調整の枠組み構築だ。
中酪は、要請の中で国内酪農の状況をコスト高止まりで厳しい経営環境を続いていると訴えた。指定生乳生産者団体傘下の受託農家は高水準での減少が続く。ここで「指定団体外の自主生乳流通量の拡大が、指定団体への需給調整リスク・コストの偏在化や小売価格の引き下げ圧力の増加、適正な価格形成への阻害要因ともなっている」と改正畜安法の問題点を具体的に指摘したことが重要だ。
特に注目したいのは「小売価格の引き下げ圧力の増加」。つまり数度の飲用乳価引き上げで、牛乳小売価格が上がったものの、下げ圧力が増しているというのだ。19日発表の最新のJミルク需給短信を見ると牛乳販売単価は1000ミリリットル当たり225・6円。だが、これはあくまで平均価格。改正畜安法に伴う生乳流通自由化で現在、スーパー店頭価格は同じ牛乳でありながら250円以上の牛乳と200円以下に両極化している。
一見、牛乳価格市場での販売競争に見えるが、この状況が続けばしわ寄せは生産現場に及ぶ。乳業メーカーの飲用乳価引き上げ余力がなくなり、いくら酪農家がコストの乳価反映を求めても、乳業が応じなくなりかねない。それは「適正な価格形成の阻害要因」とも結びつく。規制緩和を突き詰めた改正畜安法が、いま政策的課題になっている価格形成に悪影響を及ぼす〈政策矛盾〉に陥っている。その具体的是正措置が急がれる。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(113) -みどりの食料システム戦略対応 現場はどう動くべきか(23)2024年10月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(30)【防除学習帖】第269回2024年10月12日
-
農薬の正しい使い方(3)【今さら聞けない営農情報】第269回2024年10月12日
-
女性の農園経営者【イタリア通信】2024年10月12日
-
JA全農あきた 24年産米の仮渡金(JA概算金)、追加で2000円引き上げ 収量減に対応2024年10月11日
-
農場へのウイルス侵入防止強化へ 衛生管理徹底を 鳥インフルエンザ対策2024年10月11日
-
(405)寄付【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年10月11日
-
外国産農産物の調達 価格面で「懸念あり」円安も影響 食品産業対象調査 日本公庫2024年10月11日
-
JA全農みやぎ 24年産米の仮渡金(JA概算金)、3品種で3000円引き上げ 集荷力強化2024年10月11日
-
冬の床冷え対策に「くらしと生協」人気の「アルミシート入りラグ」に新商品登場2024年10月11日
-
大阪産「夢シルク」のさつまいもあんぱん新発売 クックハウス2024年10月11日
-
障がい者が活躍を応援「エイブル・アートSDGsプロジェクト」開催 近畿ろうきん2024年10月11日
-
「第11回豆乳レシピ甲子園」2200件の応募から最優秀賞を決定 日本豆乳協会2024年10月11日
-
サヤインゲン目揃い会で出荷規格確認 JA鶴岡2024年10月11日
-
くん煙剤やナブ乳剤を展示 「第14回農業WEEK」に出展 日本曹達2024年10月11日
-
和の技と肉の魅力を融合 新感覚「肉おせち(二段重)」数量限定発売 小川畜産食品2024年10月11日
-
青森県産青りんご「王林」使用「J-CRAFT TRIP 王林サワー」再発売 三菱食品2024年10月11日
-
持続可能な農食産業発展へ 名大と「未来作物ラボ」開講 グランドグリーン2024年10月11日
-
山形県のブランド米「つや姫」使用の乾麺「つや姫麺」新発売 城北麺工2024年10月11日
-
茨城県産レタス使用「モスの産直レタス祭り」茨城県で開催 モスバーガー2024年10月11日