【次期酪肉近論議】畜産部会、飼料自給へ 課題噴出戸数減で経営安定対策も不十分2025年2月21日
食料・農業・農村政策審議会畜産部会は20日、農水省が示した次期酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)骨子案で議論した。将来展望を見据えたメッセージ性に欠け、離農加速の実態の中で、生産基盤維持・強化への具体策も不十分なままだ。コストの半分を占める飼料費の対応として、多様な自給飼料へ要望が相次いだ。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
■需給改善と生産性の「二兎追う」
飼料自給率の現状と目標
骨子案の全体像を見ると、前回の2020年度の酪肉近策定時との大きな違いとして生乳、牛肉ともに需給ギャップの解消が大きな課題として挙げた。今後の生産数量目標は「現状並み」としているものの、需要拡大がセットでの対応を強調している。
一方で、経営安定では自給飼料による低コスト推進とともに、経営改善の徹底で生産性を上げる必要性を指摘。需給緩和局面での生産性向上による持続可能な畜酪経営の確立という難題を同か解決するのかが課題となるという問題意識だ。
●骨子案の全体像
◇状況の変化
・情勢変化に対応するため食料・農業・農村基本法を改正
・生乳や牛肉の需給緩和による脱脂粉乳過剰在庫の発生や枝肉・子牛価格の低下
・資材やエネルギー価格の高騰、飼料費をはじめとした生産コストの上昇・高止まり
・環境や持続性に配慮した畜産物生産の必要性の高まり
◇目指す方向性
・生乳や牛肉の需要に応じた生産の推進による需給ギャップの解消
・従来の生産手法の見直しを含む、生産コストの低減・生産性の向上
・国産飼料の生産・利用の拡大を通じた輸入飼料依存度の低減
・環境負荷低減の取り組み推進
◇検討中
・生産数量目標の設定→政策効果の検証十分行う観点から中期的な5年後目標設定。参考として長期的な姿も検討(※生乳、牛肉の需給変化と対応方向)
■「総合経営力」で収益最大化
骨子案では今後の酪農経営安定に「生乳1キロ当たりの収支を最大化すべき」と明記した。乳価を基本に「総合的な経営力」を促す。
具体的には、生産性向上や経営高度化を図りつつ、国産飼料など経営資源に見合った安定的な経営体の実現が、持続可能な経営につながると指摘。①経営資源に見合った生産規模②酪農家自らの経営分析・改善の推進③多様な経営体の増加――などを政策的に推し進める。
持続的な畜酪には「総合的な経営力」を備え、規模に偏らない収益性で堅実な経営を目指す。つまりは「自助努力」と「自己研鑽」が最重要とした。一方で、食料安保強化のためには、国産農畜産物の安定供給が欠かせない。個別農家の収益性向上とともに、地域全体としての生産者の維持・生産量の確保も重要で、そこに政策的支援の必要性がある。現状の骨子案では「自助努力」が前面に出て、政策面での「国の責務」が"後景化"しているとも受け取られかねない。加工原料乳ナラシ対策拡充にも触れたが、経営支援への効果は不透明だ。
■青刈りトウモロコシ偏重
当時の畜産部会では、骨子案の飼料問題に絡め「飼料問題は食料安保の非常に大きな問題だ。はしごを外すような書きぶりにならないようにしてもらいたい」など、疑問が投げかけられた。農水省の記述が、粗飼料自給率の向上、特に青刈りトウモロコシ振興のみ明記していることへの指摘だ。
確かに、青刈りトウモロコシは、面積当たりの生産性が高く、まとまった作付け、生産すればコスト低下につながり、飼料自給率アップには適している。だが、生産者委員からは「青刈りトウモロコシの一本足にはリスクがある」(神奈川・石田牧場の石田陽一代表)などの問題点が出た。
■輸入代替の濃厚飼料自給も不可欠
課題は、リスク分散をはかるためにも多様な自給飼料の生産と、粗飼料ばかりでなく輸入依存が著しい配合飼料代替の自給濃厚飼料割合をどう高めるかだ。
2027年度からの水田農業政策見直しの中で、財政負担の関係から濃厚飼料代替の飼料用米振興に先行きも不透明さを増している。
JA北海道中央会の小椋茂敏副会長は飼料用米の明記がないことに「全く理解できない。多様な飼料を一体的に進めるべき」と注文。馬場利彦JA全中専務は書面で国産濃厚飼料を含む飼料生産の重要性を強調し「生産現場の努力を阻害する誤ったメッセージとならないよう留意すべき」と、子実用トウモロコシ、飼料用米など国産濃厚飼料自給引き上げにも具体的に言及した。
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