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【特集・JA全農飼料畜産中央研究所養豚研究室】養豚農家の所得向上に直結する研究をめざす2014年3月18日

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・糞処理経費を削減
・悪臭対策も実現
・業界初の人工乳
・差別化生産に貢献
・多産系種豚を開発・商品化
・販売も分析技術で支援

 畜産農家の生産性向上に貢献する飼料や優良素畜の開発、高度化する畜産技術の橋渡しなどの役割を担っているJA全農飼料畜産中央研究所。現在は多くの若手職員が研究の最前線で活躍している。今回は環境保全型飼料や多産系雌系種豚などの開発で養豚農家を下支えしている養豚研究室を訪ねた。

 

  茨城県つくば市にあるJA全農飼料畜産中央研究所養豚研究室  茨城県つくば市にあるJA全農飼料畜産中央研究所養豚研究室 

(写真)
茨城県つくば市にあるJA全農飼料畜産中央研究所養豚研究室


◆糞処理経費を削減

養豚農家の所得向上をめざして 養豚研究室の業務は▽配合飼料の商品開発、▽飼養管理技術の研究、▽豚肉の品質管理、▽優良な種豚開発などが柱だ。 このうち配合飼料の商品開発では、わが国養豚用飼料の「基本設計」を作りあげた実績がある。平成12年に開発された環境保全型飼料「eフィード飼料」がそれで、糞や尿の排泄量や窒素量を減らす。
 豚の発育にはもちろん一定のタンパク質は必要だが、従来の飼料では必要以上にタンパク質が多く、それが農家の糞尿処理の負担増や環境問題にもなってきた。そこで豚の発育を妨げず、同時に糞尿の排泄量を少なくできる最適なタンパク質の水準はどこか、すなわち低タンパク飼料の研究に同研究室は取り組んだ。その成果が「eフィード飼料」である。
 無駄なタンパク質を減らすための具体的な技術のひとつは、配合飼料全体を蒸気で加熱処理するもの。この処理によって消化吸収が良くなるため、その分、糞を減らすことにつながる。「いわば生米のまま食べさせるか、炊いた米を食べさせるかの違いです」と養豚研究室の米倉浩司室長は話す。 この「eフィード飼料」は従来の飼料(マッシュ飼料)にくらべて糞尿の量を20%削減する効果があるという。母豚200頭一貫経営の場合、年間290tの糞処理経費の低減効果を発揮する。環境問題に配慮した養豚のための新しい飼料の考え方を提起した「eフィード飼料」は、昨年6月に農水省による環境負荷低減型飼料の規格として認証もされている。

◆悪臭対策も実現

 さらに現在は、アンモニアや低級脂肪酸といった悪臭物質を低減する微生物を添加した「eフィード飼料」も開発した。 添加したのは放線菌というバクテリア。配合飼料に混ぜるが、このバクテリアは「芽胞」という状態のままで排泄され、消化液では溶けないのだという。そのため排泄された糞のなかで生存、その働きによって低級脂肪酸を分解、悪臭を軽減させる。
 担当の永岡典明さんによれば養豚農家のたい肥づくりをイメージし、試験容器の糞尿を入れて、そこから出る臭気の測定装置をつくることから取り組んだという。苦労したのはいかに確実に再現性のある評価系を構築するか。そのうえで効果が見込めそうな微生物を入れて臭気の低減度を評価、悪臭を減らす効果のある微生物を特定して商品化を実現したという。現在はさらにアンモニアの分解にも効果がある微生物を確認中だ。「今後の養豚には農場周辺の住民にも配慮が必要なことを考えると、直接の利益にはならないかも知れませんが、必ず必要になる技術だと思っています」と話す。

◆業界初の人工乳

養豚研究室の農場 人工乳の開発でも従来の考え方からの転換を実現している。
 子豚に与える人工乳とは、乳といっても人間でいえば離乳食にあたる。消化吸収がよいことはもちろん、下痢を起こして発育に影響するような成分は避けなければならない。
 そのため従来は脱脂粉乳やホエー(乳精)といった乳原料が使用されたきた。必要とされる期間は2週間ほどで与える量も少量だが、それでも1頭あたり10万円以上のコストとなる。しかも、乳製品の国際価格は新興国の経済発展などの影響で近年は上昇している。脱脂粉乳の国際価格も高騰してきた。
 このままではさらなるコスト増となることから、同研究室が平成21年に開発したのが穀物原料を使った人工乳「ヘルシーピッグ」シリーズだ。原料はトウモロコシ、大豆かす、小麦。ただ、これをそのまま人工乳としたのでは下痢を起こしてしまう。そこで開発した技術が加熱処理。特許を取得したこのHPC加工によって子豚に与える代用乳の原料を乳原料から穀物原料へと転換させることに成功したのである。
 そのうえで平成24年には飼料用米を添加した「ヘルシーピッグR」シリーズを開発した。飼料用米をHPC加工法で加熱することによって、米のでん粉質の消化率が向上した。米添加人工乳は業界初。
 人工乳は母豚200頭一貫経営では月に2トンほど使用するという。この「ヘルシーピッグR」シリーズの開発によって約90万円の飼料費削減になるといい、現在では人工乳の約8割でこのシリーズが使われているという。

◆差別化生産に貢献

 配合飼料の研究では、このほかにもトウモロコシの国際価格高騰に伴う代替原料の評価も課題となった。このうちDDGS(トウモロコシをエタノール用に搾った残り課かす)や飼料用米など新規原料の評価は同研究所は全国に先駆けて取り組んできた。
 DDGSについては2007、8年のトウモロコシ価格高騰で注目される以前から、同研究室は肥育豚で試験を実施。使用した場合の肉質の評価を行っている。飼料用米についてもすでに適切な配合割合や飼料用米の加工法などの評価を行った。これらを評価したうえで、新規原料を使った適切な配合飼料なら、母豚200頭一貫経営で年間約35万円の飼料費削減効果があることも示している。
 また、コストダウンだけではなく肉質を向上させる配合飼料の研究にも取り組んでいる。小麦やパン粉などを多く与えることでサシ入り豚肉ができやすいとの養豚現場からの事例をもとに、適切な栄養条件を検証した。その結果を銘柄豚肉などを生産し、商品の差別化を図ろうとしている生産者グループに技術提供している。
 肉質や発育能力向上に向けた遺伝子レベルの研究も注目される。
 それは豚の背骨(椎骨)の数から肉質などを見極めるというもの。椎骨はイノシシは19本だが、品種改良された豚のそれは20?22本とばらつきがある。一方、椎骨数が多いと枝肉が長くロース面積が細く長くなり、発育が早いことが分かってきた。
 この椎骨数は成長してみなければ分からなかったのだが、(独)農業生物資源研究所との共同研究で椎骨に関する遺伝子が解明された。それによって豚の毛根や血液を採取してDNA分析をすればいくつの椎骨を持つ豚なのかが分かる。
 この判定方法の実用化はこれからだが、椎骨数遺伝子の判定法によって、種豚場や人工授精センターで生きたままの豚の椎骨数から発育能力、肉質などを推定することができる。これも生産現場から品質向上に寄与する技術だといえる。

◆多産系種豚を開発・商品化

 今後の取り組みで注目されているのは多産系雌豚の開発・商品化だ。
 約6年前に北海道の上士幌種豚育種研究室でハイコープSPF種豚との掛け合わせから始まった研究だが、3年前からその種豚が同研究室に移され、商品化に向け品質の安定化、飼養技術の確立などの研究を行ってきた。 現在、日本の養豚農家の母豚1頭あたりの年間出荷数は20頭程度。海外では26?27頭を実現している。そこで日本の養豚農家の生産性向上をめざして開発が進められた。 開発された新品種は年間26頭の肉豚出荷を達成する母豚だ。母豚200頭一貫経営で、1母豚あたり年間4頭出荷が増える(現在年22頭出荷を前提とした場合)と約720万円の所得増となると試算されている。
 ただし、能力の高い母豚に対応した栄養水準や子豚の飼育方法などの確立も必要だ。
 担当の高林尚将さんによると、新品種の母豚がどれだけの栄養水準を必要とするのかがまずはテーマになったという。いくつかの群に分けて、異なる成分の飼料を給餌、一方で決まった時間に採血を繰り返して栄養成分の血中動態などを分析してデータを蓄積、この豚がもっとも能力を発揮する栄養水準を見出したという。
 また、出産する子豚の数が増えると乳首の数が不足して母豚の母乳にありつけない子豚が出てくることも考えられた。そのため海外の事例等も参考に代用乳の開発と、液状ミルク給餌器の開発も進めてきた。つまり、母豚代わりになる飼育方法もこの新品種導入には必要。こうしたバックアップ機能も「本格普及するまでにはめどをつけたい」と高林さんは話す。現時点では今年末からの普及開始が見込まれている。農家の所得向上に直結する技術として同研究室の取り組みに期待が高まる。

◆販売も分析技術で支援

 肉質の向上技術ともに本格的な普及が期待されている技術に豚肉中成分の迅速判定法もある。
 これは近赤外法を用いた判定法で、果樹の糖度分析に使用されている方法の応用だ。開発された機器はポータブル式で持ち運びが可能だ。現在でも肉質(タンパク、脂肪、オレイン酸など)を分析することは可能だが、1週間はかかる。
 なぜ、迅速化を追求するかといえば「枝肉の段階での品定め」が必要との考えからだ。オレイン酸の含有量によって締まった肉質なのかどうかに違いが出る。しかし、枝肉の段階では分からず、ブロックにされて冷蔵した後でないと判定できない。その前に評価できれば事前に販売する肉を判定し振り分けておくことも可能になる。流通・販売現場に役立つ技術で来年度からと畜場で試験を積み重ねていく予定だ。 担当の平田純一さんは「生産技術や飼料研究ももちろん重要だが、今後は消費者、流通業界などユーザーの求める課題もテーマしていくことが必要だと思っています」と話す。
 生産現場の課題解決から消費者のニーズへの対応まで同研究室の若い力に一層期待がかかる。

 

【養豚研究室 若手職員の一言】

toku1403180205.jpg○高林尚将さん(2011年入会)
 多産系種豚の開発を担当。栄養成分を検討するための採血などに苦労もあったがそこにやりがいも。「農家に利益につながることを意識して継続して研究していきたい」。

 

toku1403180206.jpg○永岡典明さん(2012年入会)
 飼料の悪臭低減対策を担当。「生産者だけなく近隣住民の評価も視野に入れなければ」と課題を語る。「日本の食卓を作る手助けをしていきたい」

 

toku1403180207.jpg○鵜原真理子さん(2013年東日本くみあい飼料入社、出向中)
 研修出向から戻れば営業を担当。「自分で配合飼料を作り飼育もするという研修はここでしかできないこと。一つでも多く学んで農家に役立つ知識を伝えられるようにしたい。信頼される営業マンに」。

 

toku1403180208.jpg○齋藤遼さん(2013年入会)
 多産系種豚の開発を担当。「豚の飼育は初めて。そこからの仕事でしたがあっという間の1年。自分のテーマを持つこともできました。農家になにより評価される仕事をしたい」。

 

toku1403180209.jpg○平田純一さん(2005年入会)
 「養豚の世界でも後継者、世代交代が課題だと思う。新しく養豚生産に取り組む人たちにどう新しい技術を普及し支えるかもテーマになってくると考えています」。

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