畜産:JA全農畜産生産部
JA全農飼料畜産中央研究所笠間乳肉牛研究室 能力の高い牛をつくる技術を研究【JA全農の若い力】2018年9月10日
・畜産農家の経営支えるJA全農の若い力
JA全農の飼料畜産中央研究所は配合飼料の研究開発とともに、畜産酪農の現場で役立つさまざまな飼養管理技術の研究にも取り組んでいる。今回は和牛、乳牛合わせて約650頭を飼養し、畜産農家が抱える課題解決に向け日々、研究を続けている笠間乳肉牛研究室に「JA全農の若い力」を訪ねた。
◆搾乳ロボットの飼養管理
(写真)搾乳ロボットに入り飼料を食べる乳牛
わが国の酪農には、人手不足と長時間労働を解消する省力化技術が求められている。搾乳作業を自動化する搾乳ロボットはその代表的なものだ。
搾乳ロボットは牛が搾乳のためにロボットを訪問するよう、ロボット内で配合飼料を給与する。牛がその飼料を食べている間に自動的に乳頭洗浄からミルカーによる搾乳までを行うという仕組みになっている。
牛の首にはセンサーが取り付けられ、訪問した牛を搾乳ロボットが個体識別するためのデータのほか、反芻(すう)時間や活動量など牛の活動状態が記録される。また、ロボットからは乳量や乳質などのデータも得られるため、それらを活用し生産性の向上につなげることができる。笠間乳肉牛研究室は昨年11月に搾乳ロボットを導入し、飼養管理の方法を研究している。
研究の中心にいるのが石田恭平さん(31)だ。入会7年目。出身地では自宅や学校の近くに酪農家や肥育農家がいたこともあって畜産を身近に感じていたという。農学部を選択し、大学では食品残さなど副産物の飼料活用を研究していた。こうした研究が現場に活かせると思い入会した。
石田さんによれば、搾乳ロボットは省力化を実現するための機械として開発されたものの、どう飼養管理すればもっともロボットのメリットを得られるかはまだ知見が積み重なっていないという。
「ロボットの開発・普及が先行し、飼養管理の問題は後追いで出てきた課題です」と話す。
通常、朝と夕方に一斉に搾乳を行う場合は、飼料は粗飼料と配合飼料の分離給与、または混合したTMRとして給与されている。
ところが、搾乳ロボットの場合、牛に訪問させるためにロボットで配合飼料を与え、しかもそれを摂取する時間は牛によってまちまちになる。人手による一日2回の搾乳なら共通の飼料で群として管理していることになる。しかし、搾乳ロボットを導入するということは、群管理だけではなく、牛に自由に行動させる個体管理の側面を持つことでもある。
(写真)石田恭平さん
◆牛の健康維持も課題
実際、牛舎では従来どおり柵の外にある粗飼料中心の飼料とロボットが給与する配合飼料と2つに分かれる。その量の配分や中身については、今のところ、これまでの経験や限られた試験研究に基づいて行われており、それが適切かどうかはまだ十分には評価されていない部分があるという。
「現在は、TMRのなかから、一部の配合飼料をロボットで給与し、残りをPMR(Pはパーシャル、一部混合の意味)として給与しています。しかし、その2つの割合をどうするかや、そもそもロボットで与える飼料は何が適切かなど検討課題は多い」。
乳牛の健康を維持し、かつ、いかに自発的に搾乳ロボットに向かわせるか、そのための牛にとっての嗜好性の高い飼料はどのようなものか、などが研究課題となっている。
今年7月までの試験では、訪問回数を増やすにはロボットでの給与量を一定量以上にする必要があることが判明したという。ただし、問題は、牛によっては搾乳時間内に給与量全量を食べきれない牛もいることも分かったこと。設定給与量を十分に食べなければ乳量の低下も懸念される。
そこでスタッフの協力を得てロボットを訪問する際の1頭ごとの食べる量や時間などを調査し、過不足なく食べられる量を分析している。また、分娩後、乳量がピークとなるのは100日前後とされているが、そこを給与量のピークにするなど、さまざまなデータをもとに飼養管理法の検討が行われている。
今後の研究計画は牛のルーメン(第一胃)の状態変化の追跡と分析だ。
牛が飼料を食べるとルーメンは酸性となるが、反芻するとアルカリ性の唾液によって酸が中和される。石田さんによれば搾乳ロボットを訪問すれば牛は配合飼料を食べるためにルーメンは酸性に傾きやすくなる可能性があるのではないかという。
その変化を見るためにルーメンにpHセンサーを入れて分析を行う。酸性に傾く状態が続けばアシドーシスなどの疾患も懸念されることになる。それを防ぐためには飼料を見直すことも必要になるという。
搾乳ロボットは酪農の省力化に貢献するが、そのメリットを生かすための飼養管理法など、まだ研究すべきことは多い。
「研究室という現場を持っていることが私たちの強みです。畜産の現場で生きる研究をするのが使命。生産者が困っていること・期待していることは何か、常にアンテナを高く張っていたいと思っています」と石田さんは話す。
◆良質な子牛づくりめざす
大和田尚さん(28)は入会4年目。小学生時代のほとんどを家族とともにドイツの農村部で過ごした体験から、農業分野を志すようになった。大学では牛のルーメン研究を選択した。
研究室ではこれまでおもに代用乳の開発と子牛のルーメン発達を研究している。
代用乳の開発は具体的には銘柄の集約に携わった。多数あった代用乳それぞれの性能を評価し5つに集約したほか、より子牛が消化しやすい成分に更新するなど、コスト面だけでなく「生産性を維持するために、新たな知見を生産者に提供することが大事だと考えています」という。
そうした姿勢で取り組んでいるのが子牛のルーメン発達ステージの研究だ。
(写真)大和田尚さん
牛のルーメンはルーメン内の微生物が飼料を分解する、いわば栄養分を作り出す発酵タンクだ。しかし、生まれたばかりの牛はルーメンが機能しておらず、3、4か月かけて成牛と同じ器官がそろうのだという。
大和田さんが着目したのは、ルーメンの発達過程をコントロールできれば、より生産性の高い成牛として成長させられるのではないか、である。実際に草を分解するルーメン内の微生物の活性が高い牛もいれば低い牛もいるという。かりに子牛の時期にルーメンの分解能力が高い牛として育てることができれば、生産性の向上にもつなげることができる。
「いわば最初にボタンを掛け違えなければ、一生、能力の高い牛になることも考えられます」と大和田さん。
これまでの研究で子牛のルーメン内で繊維分解菌を増やすには、早い段階から草を与えることや、繊維分解菌の増殖に有用な酵母などがあることも分かってきた。現在、それらを組み合わせて研究室で子牛を飼養しているが、早い段階で草を与えられた牛は体重が大きく、より早く成長することが認められたという。大和田さんは大学と連携して研究しており、ルーメン内の微生物分析を行っている。これまでの結果では、通常の微生物叢との違いが認められたという。
今後は生育ステージを追跡し、最終的に乳量にどう影響するかを評価する。答えが明確になれば、子牛の段階からどう飼養すれば生産性の高い成牛になるか、その方法を生産現場に示すこともできる。
大和田さんはできるだけ現場作業を手伝い、牛を観察するよう心がけている。「とくに子牛ですから成長過程から新たな発見があるかもしれないという思いです。大学などの学術的研究を生産現場にメリットとなるかたちにして、橋渡しをしていくことが自分のめざしていることです」と話す。
(写真)左が藤田室長代理
◆ICTと牛の増体も課題
そのほか研究室では現在、搾乳ロボット牛舎をはじめとして牛舎にモニタリング用のカメラを設置して牛の行動観察を行っている。画像から特徴的な行動を見つけ、どの行動をしたときに、発情や、あるいは疾病の可能性があるといったことなどをパターン化する試みも行っている。とくに人がいない時間帯の牛の行動を観察し特徴をつかむ。
現在も牛の体に装着して疾病や分娩時期を知らせる機器が普及しているが、研究室がめざすのは農場にカメラを導入してもらい、画像のみで牛の状態を判断できる解析システムである。
また、和牛では遺伝的に増体する能力の高い受精卵から、枝肉重量で600~800kgの和牛を育てることにも挑戦している。増体を高めることによって値ごろな和牛として広く提供し畜産経営を支える。そのための哺育・育成管理なども研究していく。
「生産現場ではできない試験・研究に取り組み、生産者に還元していくのが私たちの役割。生産者への研修会でも自分たちで取り組んだ試験結果を解説するので説得力を持つと思います。若手研究員には、現場に研究を生かすためには現場の声を拾う努力が大事だ、と伝えています」と同研究室の藤田和政室長代理は話している。
日本の畜産を支える全農の若い力の成果に期待したい。
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