【クローズアップ・副業としての農業従事】働き方改革下の職員教育<下>JA全中教育企画課・高山靖弘氏2022年6月28日
国の「働き方改革」の流れのなかで、従業員の副業・兼業を認める動きが出ている。多様な働き方によって、意欲や能力の発揮を促す。特にJAでは副業として農業に従事することを、協同組合の運動者としての職員教育につなげることができる。その意義を2回にわたって考える。
副業について就業規則などで実践事例を一つ挙げる。静岡県のJA遠州中央においては、就業規則で「組合の許可を得なければ、報酬を受ける他の業務に従事してはならない」「許可を得ようとする者は、文書により願い出なければならない」としています。就業規則はそのままに、「職員による農業支援要領」を定めています。
この中で「対象職員」の要件を定めます。「就業規則では、『組合の許可を得なければ、報酬を受ける他の業務に従事してはならない』とあるが、次の条件を満たした職員は許可対象とする」といった書きぶりです。あわせて、運用基準や申請書式などを整えています。
なお、労働者側である職員に視点を移せば、JAのこうしたルールを確認して適切な副業としての農業を選択し、自ら業務量や進捗(しんちょく)状況、時間や健康状態を管理する必要があります。また、普段からの管理に加え、その状況などを報告することは、JAによる健康確保措置を実効あるものとする点からも有効です。
いずれにしても、職場のルールですので、JA側と職員側の双方が納得感を持てるよう、コミュニケーションを十分取った上で、取り組みを進めることが大切です。
さて、就業規則に続き、副業としての農業従事の仕組みづくりとして、職員の副業農業の意思と管内農家の求人情報とのマッチングを考えます。JA営農部門で開設の「無料職業紹介事業」を活用する例があります。営農部門に視点を移せば、担い手対策としてマッチングの向上が求められます。
副業としての農業従事の実践にあたっては、こうした人事・営農部署の連携とJAを取り巻く状況を俯瞰(ふかん)し、後押しする企画管理部署との組織横断的な取り組みもポイントと思われます。秋田県のJA秋田しんせいおいては、経営管理部、農業経営支援室、総務部(人事課)、営農経済部が連携して検討・実践しています。
協同組合運動者としての職員教育という視点から、農業従事をいま一度考えると、職員研修の一環としての農作業や、繁忙期の農業施設応援、農業ボランティアなどがあります。それぞれもちろん大切な取り組みです。一方、農家も職員もやらされ感があったり気遣いがあったり、この程度の作業で仕方がないと一線を引いてしまうことはないでしょうか。職員のできる作業が限られることや、教える時間や手間から、ちゅうちょされる農家もおられます。
こうした点を解消するためにも、副業としての農業の出番かもしれません。空いた時間に自らの意思で動いてみる。対価を得ながら、体も動かしてみる。作業を実体験してみて、農家の大変さを本当の意味で理解してみる。地域の農産物を食べて応援することはもちろん、「作って」農家の応援をしたい、地域の組合員をもっと知りたい、もっと農業の勉強をしたい、そして何より地域にしっかり根差し、組合員に寄り添う職員になりたいという思いは、全国どのJAでも共通のことではないでしょうか。
公務員の職員副業としても、青森県の弘前市など、市町村段階で管内農業を支援する取り組みが進められています。また、県段階においても、長野県など、副業として職員が農作業を通じて地域貢献できる仕組みづくりが運用され始めました。
なお、JA職員の副業農業に関して、本会では、3月に全国説明会をオンラインで開催しました。その際の資料を「JA全中人づくりホームページ」に掲載していますので、ぜひご覧ください(閲覧はJAグループ役職員限り)。
コロナ禍で雇用のありようや働く人の意識が変化し、また、今後とも大規模・広域JAの合併が想定され、経営は大きな変化が求められています。農業協同組合としての職員教育、農家との血の通ったコミュニケーションに向け、背景や狙いなどJAの実情に応じて、ぜひ検討をお願いいたします。
(JA全中教育部教育企画課人事労務チーム・高山靖弘)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日