生産と暮らしを支える協同活動発展を-集落営農サミット2017年8月2日
JA全中は7月27日に第2回全国集落営農サミットを東京都内で開いた。テーマは「集落営農の経営発展・機能強化に向けて」。集落営農組織からの実践報告と学識者による研究報告、課題提起が行われた。(詳報は近日掲載)。
サミットではJA全中の馬場利彦参事が集落営農をめぐる情勢を報告した。集落営農組織は29年で1万5136組織あり、うち法人が4694法人(31%)、任意組織が1万442組織で法人化率は年々高まっている。しかし、集落営農数の増加率は平成17-22年の年率7%から23-28年の0.7%へと低迷している。
馬場参事は農業生産の維持には組織づくりをさらに加速化する必要性があり、未組織地域での設立や、あるいは隣接する集落営農組織がカバーするなどの対策が必要で、そのための戦略として集落で農業者と話し合いを進めて将来を描くJAグループの「地域営農ビジョン」の取り組みの重要性を改めて強調した。
農山村地域経済研究所の楠本雅弘所長が課題提起。集落営農の「原点の再確認」が必要で、楠本氏は集落営農とは規模拡大した組織経営体ではなく、▽地域環境の維持・保全、▽生産の協同、▽暮らしの協同を結合した組織と定義し、非農家や商工業者も参加する地域の組織へと発展させることなどを期待した。
◆集落の広域連携も
実践報告では山口県萩市の萩アグリ株式会社、長野県JA上伊那と同JA管内の(一社)田切の里営農組合の取り組みが紹介された。萩アグリ株式会社は、これまでの集落営農を集約する形で平成28年に発足。その目的は集落営農組織の組織間連携の強化による事業の効率化、それによる構成農家の所得向上にあった。 山口県の日本海側にあって農家の高齢化が進み、単独で集落営農組織を維持することが難しくなり、それまであった農事組合法人等連絡協議会を発展させる形で、6つの法人が参加して組織した。
具体的な事業は生産資材の一括購入、機械の共同利用等によるコスト削減にある。特に農機の更新は、経営継続の見通しが立たない高齢農家にとって負担が大きい。それを共同利用でカバーし、さらに新規作物の栽培や6次産業化への取り組みも視野に入れている。
報告した同社の長尾忠敏取締役は「中山間地域では大規模な集落営農法人設立は困難で、集落単位の法人が合理的だが、集落単位の法人では若者を雇用できる経済力が不足だ。従って既存の集落営農法人は活かし、共同利用機械の整備や人材育成など〝3階法人〟で対応する必要がある」と話した。
この階層化に、JAを挙げて取り組んでいるのがJA上伊那で、「農(水田)を基盤に農地と地域を守る仕組み」づくりを基本に、勤めながら法人に参加することで営農を継続し、農地を守る「安定兼業農家」参加の生産組織をめざす。
この2階部分を担うのが、飯島町田切地区の土地持ち農家全員の264戸で構成する(一社)田切の里営農組合で、栽培から販売までの農業経営を担う。
それに加えて営農組合の組合員全員出資の(株)田切農産を設立した。ここでは農地を集積して作業配分し、個人の努力を配分に反映させる。機械は営農組合から賃借し、水稲、大豆、ソバ、ネギ、アスパラなどの作業を受託。ネギは栽培管理を従業員個人に委託し、土づくり、定植、防除などは法人が、日々の圃場管理は個人が行なう。いわば法人のなかに個人経営があるカタチで、これによって経営感覚のある従業員を育成することを狙っている。
また平成28年、田切地区住民85%が参加する(株)道の駅田切の里を設立。農産物販売のほか、加工所や農民レストラン運営による雇用創出、高齢者向けの宅配や安否サービスなども行なっている。
報告したJA上伊那の下島芳幸・元営農部長は「可能な範囲の作業を地主が行なうことで農地を守り、担い手や経営体の育成支援を通じて地域住民と連携し、農業の安定的な発展と農村機能の維持と活性化を図る」と、集落営農を基礎とした生産組織づくりの必要性を強調した。
このほか、小林元・広島大学大学院助教が「集落営農組織の広域連携・階層化の方向性」について研究報告、税理士で農業コンサルタントの森剛一氏が「集落営農組織の再編に係わる法務・税務」について講義した。
小林助教は、集落単位の営農集落組織は担い手の高齢化、米価の下落、戸別所得補償政策の廃止などで、その成立基盤が脅かされているとして、「3階建ての組織化」、つまり、小学校区・中学校区の広域連携で農業を考える「地域農業のプラットフォーム」づくりの必要性を指摘した。
森氏は、(1)集落営農法人の合併、(2)広域農業法人の設立と、既存の集落営農法人、一般社団法人へ組織変更、(3)既存の集落営農法人の広域農業法人化と一般社団法人への組織変更の3ケースで、それぞれの利点と課題を話した。
サミットでは集落営農県域組織連絡会議による以下のような「集落営農組織の経営にかかる緊急提言」を採択した。
▽ ▽
「集落営農組織の経営にかかる緊急提言」
全国の集落営農組織は、農業を通じて地域を守るため、地域を支え地域に支えられながら集落と農地を次世代に引き継ごうと、地域で努力を重ねている。
このことにより、農業生産力の基盤である農地・里山を支える水田を維持し国民食糧の持続的、安定的生産の使命を果たしている。
こうした取り組みを後押しするため、国として万全の施策を講じ、下記の政策を実現するよう提言する。
(1)需要に応じた生産とそのことに取り組み農家・集落営農組織の所得向上等を実現するため、米の直接支払交付金の財源については、水田農業政策を総合的に充実・強化する予算として確保すること。
(2)水田活用の直接支払交付金は麦・大豆・飼料用米等に対する戦略作物助成の単価を維持すること。また、地域の裁量で活用可能な産地交付金が重要な役割を担っていることをふまえ、水田活用の直接支払交付金全体として予算を確保すること。
平成29年7月27日
集落営農県域組織連絡会議。
(写真)集落営農について意見交換する参加者
(関連記事)
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