マーケティングとは「お客様づくり」 JA全中と全農がマーケティング講習会開催2018年7月2日
JA全中JA支援部とJA全農耕種総合対策部は、6月27日から29日の3日間、千葉県船橋市で「平成30年度生産販売企画マーケティング講習会<ブランド化・販売促進>」を開催した。
この講習会は、消費者・実需者ニーズが多様化しているので、「JAグループが消費実態を十分に把握し、消費者・実需者に対して売り方・生産方法・商品の仕立て方などを組み立てる仕組みづくりやマーケティングに取りくむことは急務となっている」ことと、そして「こうした活動に基づいた品目誘導や農家への提案は、産地活性化や生産振興にとって重要」だと考え、JA全中とJA全農が共催し、JAグループの生産販売に携わる職員を対象に開催された。
会場には、JAや経済連・全農県本部の生産販売企画担当で営農経済担当部署で2年以上経験者が20名参加した。
講習会初日は、臼井JA全中JA支援部営農担い手支援課長が、「営農・経済事業をめぐる情勢とJAグループの自己改革等の取り組みについて」情勢報告したあと、マーケティングの実際についての講義・演習が3日目の29日まで行われた。
初日は、総論にあたる「マーケティングとは何か? 生活者視点でみるマーケティング論―農産物のマーケティングスキルを身につけるために―」について、南部哲弘(公財)流通経済研究所特任研究員が講義。さらに「他社マーケティング事例から読み取るマーケティング実践のポイント」と「ポジショニング演習」を南部氏と高橋千暁成蹊大学非常勤講師が、具体的に分かりやすく講義した。
南部氏の話は具体的で分かりやすいだけではなく、この講習会参加者に講師の話を聞くだけではなく、自分あるいは班単位(4名)で話し合い考え、そこから結論を導きだすもので、テーマによっては時間がかかるケースもあるが、一方通行の講義ではない、ひとつひとつのテーマが受講生の身についていく過程が取材していてよく分かった。
◆「イチバ」と「シジョウ」の違いは?
例えば「市場」を何と読むのか? 「イチバ」と「シジョウ」の二通りの読み方があるがこの二つの違いは何か? を班ごとに話し合いその結果を書きだし検証していく。この記事を読まれている方はこの二つの違いをどう考えますか?
講習会では「イチバ」は、▽荷・モノが集まり▽価格が決まり▽荷・モノが分荷していくところで▽時空間が存在するところだとされた。「大田市場」のような存在だ。
それに対して「シジョウ」は、▽お客さまの集まりで▽時空間が存在しない▽概念的なもので▽既存顧客と潜在顧客が存在する、と定義された。
英語では、「シジョウ」は「Market」、「イチバ」は「Market place」と呼ばれる。そしてこのシジョウ規模は、
単価×客数×購入回数
という簡単な式で算出される。掛け算だから、この3項目のどれが「0(ゼロ)」になっても「シジョウとして存在しない」ということになる。
そして南部氏は「消費・者」という言葉は「摩耗・すり減らす・無くす」という意味で「欲しいという気持ちがない」。「欲しいという気持ちの源泉は、生活(生き活き)・暮らし」であり、消費者ではなく「生活者」と考えるべきだとし、生活にはさまざまな顕在的・潜在的課題があり、その「生活課題を発見し、その生活課題解決づくり」をするのが「マーケティング」だとした。
それを一言で表せば「Market(お客さま)+ing(づくり)=お客さまづくり」となる。
そうした考えから導き出される「基本戦略づくり」の基本は、
Target(顧客):誰に買っていただきたいのか
Position(特色):ライバル商品との違いは何か
Concept(個性):生産者・販売者の伝えたい思いは何か
の「TPC」だ。
そしてマーケティング戦略づくりの基本は次の「4P」だという。
Product(製品):どう設計すればお客さんにとって魅力ある商品になるか
Price(販売価格):どうすれば価格競争を回避し利益の出る販売になるか
Place(販売経路):どんな販売経路ならターゲット顧客に届き手にしてもらえるか
Promotion(販売促進):どんな創意工夫をしたら、もっと買っていただけるか
◆ポジショニングで「開発ゾーン」発見
こうした考えから、他社の製品のポジショニングとコンセプトを分析した。ポジショニングとは、縦軸と横軸の2つの説明軸を考え各商品の座標を決めて分析する方法だが、この講習会では高橋千暁氏がいくつかの商品分析を行うと同時に、図のように6つの米銘柄と参加者所属のJAグループでの主力商品ブランドを、それぞれが説明軸を考え、座標を決め、自社ブランドの位置づけと方向を明確にするという演習に取りくんだ。
参加者一人ひとりがまず考えまとめたものを班(4名)で検討し、一番良いと思うポジショニングを代表として選び発表した。説明軸には品質とか価格など5班に共通するものと同時に、「冷めても旨い・温かいほうが旨い」「家庭消費向け・外食・中食向け」「産地の知名度が高い・低い」「希少性が高い・低い」など多様な説明軸が考えられ、自分の所属する地域の米をポジショニングした。例えばJA全農神奈川県本部からの参加者は、自県産「はるみ」について「食味は特Aで価格はリーズナブルだけど生産量が少なく希少性の高いお米」とポジショニングし、説明した。
同様な方法で高橋氏は、横軸左に「エコノミー」右に「プレミアム」、縦軸の上に「次世代感・サッパリ感」下に「伝統的甘味・粘り」という説明軸を設定して先の6銘柄をポジショニングすると「ぽっかりとどの銘柄も入らないゾーンが出現」する。高橋氏と南部氏は、ここを「開発ゾーン」と位置づけ、これからJAグループが開発するべき米はどのような米がいいのか「発見できる」のではないかという。読者のみなさんもこの6銘柄をポジショニングして、これから開発する米の方向性を考えてみてはどうだろうか。そのため両氏のいう開発ゾーンは伏せておくことにする。
◆個人のスキルアップと組織の課題
講習会の2日目には近隣の工場を視察しながらグループ(班)演習による「マーケティング実践による企画書の作成」とプレゼンテーションを行った。
この講習会は、マーケティングの「理論」ではなく、「実践」とそのために必要な基本的考え方を体験する研修だといえる。初めは発言しなかった参加者が、時間が経つとともに自分の意見や考えを積極的に発言し、マーケティングの実際を確実に自分のものとしてとらえているのが印象的だった。
毎年、こうした研修会の講師をしている南部氏は「参加者は確実に自分のところの農畜産物やその加工品のマーケティングについて考え、職場でも提案して成功している人がいますが、一方で、良い提案をしてもうまくいかず辞めている人もいます」という。個人のスキルアップと、それを組織がどう活かすのか、そこに目に見えない課題があるのだろうか。
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