農山村の再生の原動力 コミュニティ再生の方向探る JA‐IT研究会2019年6月19日
JA-IT研究会(代表=今村奈良臣・東京大学名誉教授)は6月14、15日、東京都内で公開研究会を開き、「地域コミュニティ再生とJA」のテーマで公開研究会を開いた。地域に根差したJAは自治・共助の組織であるコミュニティと二人三脚で地域を支えてる。この関係を、どのように維持し、強化するか、その課題と方策を探った。
地域コミュニティの再生で意見交換するJA-IT研究会
研究会では小田切徳美・明治大学農学部教授が農山村再生の新しい動きについて基調報告した。農村に移住した人が最初に突き当たるのは仕事の確保だが、同教授は、起業化(しごとを起こす)、継業化(古い仕事を新しく継ぐ)、移業化(しごとを持ち込む)、多業化(しごとを組み合わせる)の4つの就業タイプを指摘。
定住・定職にこだわらず多様な就業形態があり、小田切教授はこれを「関係人口」として、移住者などのライフスタイルに応じた支援が必要という。ただ仕事を求める移住者が接するのは商工会が多く、JAは十分に対応しきれていないことを指摘。「第28回JA全国大会の決議にもあり、JAグループは地方公共団体や他の協同組合、農林漁商工業団体と連携しながら、地域から求められる役割を発揮する必要がある」とJAへの期待を示した。
また、高知県の四万十川中流域の町村が出資した第三セクター・㈱四万十ドラマの取り組みで、同社畦地履正・代表取締役が実践報告した。同社は特産のクリなどを生産者から買い取り「四万十川に負担を掛けないものづくり」をコンセプトにパウンドケーキなど、さまざまな商品開発に挑戦。これを「地域の総合企業」として位置付け、JAなどと連携してクリの植樹など生産者支援にも力を入れている。来年度には新工場の建設も予定しており、地域の雇用拡大にもつなげる考えだ。
畦地代表取締役は「山と川のくらしと天然素材に新しい価値観をつくり、四万十川流域の新たな産業づくりに挑戦したい」と言う。この考えで地元産に限ったクリや茶の加工、古くから作られている「かおり米」、端材を使った「ひのき風呂」など、試行錯誤を重ね、さまざまなヒット商品を出している。
JAの支店協同活動から地域コミュニティづくりでJA福岡市の宗欣孝・代表理事専務が報告。同JAは協同組合講座、フレッシュミズ大学、支店行動計画、広報活動、職員教育などのよるアクティブメンバーシップの強化に力を入れている。特に協同組合講座は開講11年目を迎え、修了者は160人の達し、JAの理事や青年部の役員を務めるなど、地域のリーダー的役割を担っているという。
また准組合員に対しては、「万一食料が不足するという有事の際には、正組合員が丹精して生産した米・野菜などの農産物を優先的に供給する」ことを約束・直売所を含め、信用・共済事業の積極的な利用を呼びかけている。それを営農・経済の事業の充実につなげることを「循環型総合事業」と位置付け、今後JA福岡市が目指す方向として、宗専務は「食料農業協同組合」を強調した。
農村における地域コミュニティの維持には、農業の中核となる担い手の存在が不可欠だが、新潟上越市の(有)グリーンーンファーム清里は、5人の農業者が約120㌶の水田を管理した、耕作放棄地の拡大を防いでいる。多様な米品種の組み合わせなどによる作期のコスト削減を進めるとともに、圃(ほ)場の大規模化で、清里1農場化を目指す。
同法人保坂一八・代表取締役は「地域の農業・農地の受け皿としての核になるような安定経営を目指すとともに、各法人を下支えしながら、清里区の農地・農業・生活の場としての地域づくりを行いたい」と言う。
JA事業の基礎組織の一つに農家組合がある。JAいわて花巻はこの農家組合を支援し、集落営農や法人化、農地中間管理事業などをまとめ、地域ぐるみ農業の実現を目指す。特に農家組合が推進母体となって5年、10年後の水田農業のあるべき姿を追求しているところに特徴がある。
ただ、集落営農の担い手の高齢化は避けられず、髙橋勉代表理事副組合長は、(1)研修の機会を増やすなど次世代リーダーの育成、(2)土地持ち非農家の准組合員への資格変更の誘導と農家組合活動への参加呼びかけ、(3)くらしの活動などを通じた世代間コミュニケーションの充実等を、これから取り組むべき課題として挙げた。
◆JA総合営農研究会に改称 JA-IT研究会
営農経済活動を的に
全国のJA役職員がJAの営農経済事業についての情報交換と相互研鑽を目的とするJA-IT研究会は6月15日東京都内で2019年度の総会を開き、「JA総合営農研究会」に名称変更することを決めた。「本格的な営農経済活動に特化した研究会をめざす」(黒澤賢治・副代表)考えだ。
JA-IT研究会は2001年に発足。公開研究会やマーケティングに基づく生産・販売や、地域個性に根差した6次産業の育成に必要な人材育成をめざし、毎年「人材養成セミナー」を開いてきた。
総会では、これまでの活動を継続するとともに、JAが農業・地域の活性化にとりくむことや生協など他の協同組合組織と連携することなどを確認。またこれまで正会員をJAと会員の推薦による農業生産法人に限っていたが、これを県域の地区本部まで拡大した。なお、同研究会の事務局は(一社)農村文化協会企画政策室内。
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