JA沖縄中央会会長 普天間朝重さんの逝去を悼んで 東京大学名誉教授 谷口信和氏2023年12月19日
12月17日にJA沖縄中央会の普天間朝重会長が逝去した。農協運動の現役のリーダーとして、これからもっと活躍が期待される存在だった。東京大学名誉教授の谷口信和氏が追悼文を寄せた。
写真は2023年2月15日、農協協会会議室で行われた座談会「揺らぐ世界の食料安保」で司会を務めた普天間氏
「県単一農協での取り組みからみた基本法見直しの課題」と題された文章は次のような書き出しで始まる。
"JAおきなわは平成14年4月1日に誕生した全国で奈良県についで2番目の県単一JAである。その間に香川県も県単一JAという位置付けであったが、1JAが合併に参加していないこと...、完全な県単一JAとしてはJAおきなわを2番目としている。...沖縄県の合併構想はもともと5JA構想であったが、不良債権を調査してみるとあまりにも多額にのぼりもはや県域で処理することは不可能だとして、県単一JA合併を前提に全国支援を受け入れての合併となった。"
これは来年3月の発刊を目指して企画された『日本農業年報69 基本法見直しは日本農業再生の救世主たりうるか』筑波書房、への普天間朝重氏の執筆論文の冒頭部分である。くしくも普天間さんが亡くなった17日に全部の原稿の集稿の目途がたち、この追悼文を執筆している直前に編集作業が始まった。普天間さんは私の執筆依頼に対して一つ返事で引き受けてくれたが、それには背景がある。
実は私が会長を務めている農業協同組合研究会が今年の9月に実施した基本法見直しに関する2回目の研究会での司会をお願いした。すると、こうした研究会の司会はこれまでに経験がない。しかし、「谷口が指導してくれる」ならばという条件つきでぜひ挑戦してみたいとの答えであった。私はJA沖縄中央会代表理事会長のような方なら簡単なことだろうと思って頼んだのだが、後にそうした自分の軽薄さを恥じることになった。
なぜなら、研究会と4人の報告テーマくらいしか示されていないなかで、普天間さんはA4で10ページにも達する進行シナリオ案を送ってこられたからである。さすがに私はびっくりした。依頼された仕事にここまで誠実に対応した人にこれまで出会ったことがなかっただけでなく、おそらく相当に勉強された上で執筆されたことが随所に垣間見える内容だったからである。後に、上述の年報の執筆者探しで困難を抱えたときにすぐに連絡をとったのが普天間さんだったが、ここでも司会依頼の時と全く同様の経過をたどって原稿を執筆していただいた。
普天間さんとのお付き合いの歴史は長くはないが、農協協会を「媒酌人」として短期間に濃密な関係をもつことになった。農業協同組合研究会では常任理事、昨年からは農協人文化賞の選考委員にもなっていただき、色々と意見交換してきた。今回、訃報に接して初めて気がついたのだが、去る10月16日に農協人文化賞の選考委員会でお会いしたのが最後だった。その実感がなかったのは上述の執筆原稿のチェックで11月の中旬にはご本人との間で、11月末には秘書の方を介してメールのやり取りをしていたからである。入院・退院・再入院となっていたようなので、大変に心配してはいたがまさかこうなるとは思っていなかった。本当に残念である。
選考委員会ではいつものように論理的で明快な御意見を率直に言って頂き、私を含めて委員の方々は背筋がピッと伸びるような思いを強くしたことが今でも鮮明に脳裏に浮かぶ。先の論文ではさらりと書いてある「不良債権を調査してみると...県単一JA合併を前提に全国支援を受け入れての合併」を決断した当時、普天間さんはJAおきなわ県信連企画管理部長代理であり、JA合併とともにJAおきなわ改革推進室長になっている。もとより詳細は存じ上げないが、この合併に多大の貢献をされ、その後の沖縄農業とJAおきなわの発展に大きな足跡を残されたことが学識経験者としてJA沖縄中央会代表理事会長にまで上り詰めた最大の理由であろう。
先の論文の最後は次のような文章で締めくくられている。"食料自給率向上や農畜産物の適正価格の形成は本当に可能なのだろうか。ガダルカナル島の戦いや黒田前日銀総裁の失敗を学習したのか。とはいえ、食料をめぐる世界情勢が大きく変化する中で、我が国農業が大きな転換点に来ていることだけは確かである。であれば、いくらかの不安はあるにしても、とにかく前進しなければならない。"
8月には全中理事にもなられていましたので、農協運動の現役のリーダーとして、さらには農協運動や農政のご意見番として、もっともっと活躍して頂きたかっただけに残念でなりません。ご本人もさぞかし無念だったことでしょう。残された私たちがぽっかりと空いた穴を少しでも埋めるべく尽力することをお誓いして追悼の言葉と致します。
普天間朝重さん、安らかにお眠りください。
2023年12月19日
東京大学名誉教授 谷口信和
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