JAの活動:農協改革元年
家族農業の協同が原点 総合事業の維持不可欠2015年3月24日
インタビュー加藤好一生活クラブ連合会会長
今回は生協の生活クラブ連合会加藤好一会長にインタビュー。産直運動で提携してきたのは日本各地の家族農業であり「家族農業の協同のかたち」が総合農協だと加藤会長は強調する。その総合農協の解体につながるような改革はまさに自分たちの産直を軸にした生協運動にも直結するものと指摘した。農協改革にそもそも求められている課題とは何かを改めて考える必要がある。

――今回の農協改革については、昨年の5月に規制改革会議の農業改革案が契機となって議論が始まり、今年2月に改正法案の骨格が決まりました。まず、この一連の農協改革の議論をどうお考えですか。
昨年は国連が定めた国際家族農業年でした。しかし、その意味をまるで受け止めないかたちで、日本では「強い農業」、「攻めの農業」といった議論が行われていきました。
しかも、農業関係者からそうした議論が起きるのであればまだしも、規制改革会議なる機関で、しかも農業関係者でもない民間委員から改革が提起された。そしてそれが日本の農業政策になっていくような経過をたどった。日本は本当に民主主義なのかという思いも持ちました。
そこに農協改革も提起されて、とりあえずは中央会問題など、ある種限定的な装いをもって改革が行われようとしていますが、これは農協解体への"さわり"でしかないという印象を強く持っています。
准組合員問題については5年間の調査を行い慎重に決定するということですが、大妻女子大の田代教授は他の改革も含めて「これは5年戦争だ」と指摘されています。まさに私もそう思います。徐々に徐々に協同組合としての農協というものが浸食されていきはしないか、そしてこれは生協をはじめ協同組合の問題だと感じています。
(写真)
加藤好一・生活クラブ連合会会長
――国際協同組合同盟(ICA)のグリーン会長も来日し、今回の日本の農協改革について協同組合の原則である自主・自立を脅かすものだと危機感を表明しました。国際的な動きについてはどうお感じになっていますか。
実は、グリーン会長が2月に来日されたとき、私はICAのある会合でアメリカに行っていました。その会合の関係者からもやはり日本の農協改革の件は心配事として話題になり、たとえば政府の農協への攻撃はTPP交渉と関係するのか? などと質問を受けました。ことほどさようにICAの関係者も日本の農協改革について質問するぐらいの関心があるということです。
出席したこのICAの会合とは持続可能な社会に向けてもっと協同組合が貢献できないかという問題意識から組織されたものです。国連は今世紀の初めにミレニアム開発目標を立てましたが、これは2015年で一区切りして、次の15年のステップに行くということです。
そこで、協同組合陣営がもっと役に立つ、あるいはリーダーシップを発揮できるようにとICAが世界から10組織ほど選び、そこに生活クラブ連合会も選ばれたということです。
もともとミレニアム開発目標の話はおもに南、つまり途上国の持続可能な開発がテーマでしたよね。ところが世界中で新自由主義がかなり露骨になってきてリーマンショック以降は、南だ北だとは言っていられない状況になってきたと思います。程度の差はあるかもしれないけれど、新自由主義は世界全体の課題になっていて、そのときに協同組合はもっとこの問題に貢献できるのではないかという問題意識で始まったのがこの会合でした。ところが、日本はまさに世界と逆行しているのではと思われ、日本の農協改革が話題になったというわけで、こうした世界の動きも知っておく必要があると思います。
――農協法の改革は生協をはじめとする協同組合全体の問題にも関わってきかねないという指摘もあります。その点で今度の農協法改正のいちばん問題だと思われる点はどこだとお考えですか。
やはり理事の構成員問題こそがわれわれが警戒すべき問題で、協同組合原則に照らしたときに最大のテーマではないかと思います。全中の一般社団法人化も大変な問題だろうと思いますが、組織の結集力などで対応のしようがあると思います。しかし、単協の役員構成に販売・経営のプロなどを過半数入れるよう求めるのは、地域と関係のない人が農協の理事になるということではないですか。これは地域に根ざした協同組合の否定だと思います。
同時に危惧されるのは日本の農協の総合性が否定されないかということです。強い農業づくりが大事だと言いながら、結局は株式会社の農業参入などを視野に入れて、農協には農業振興という専門性を強めさせれば農業が生き残れると想定していると思います。
しかし、冒頭に話した家族農業という観点からしても、日本の農業はまさに地域で家族農業が集まって切磋琢磨し努力してきたわけです。要するに生産と生活が一体になって地域も支えてきた。
総合農協とはそのように生産と生活が一体化していることを理屈ではなく、その実態を反映して作ってきた協同組合のかたちではないですか。しかも、日本は稲作が中心で共同作業を必要とし、良い意味でお互いが寄り掛かりながら、その地域全体を維持しているというのが日本の農業ではないですか。それを解体するような改革の議論は農業をやめろというようなものだし、地域の否定だと思います。
――自己改革に取り組むにしても、出発点は「地域」であり、そこで総合事業を展開してきているということを強めることが必要だということですね。
その理念はいささかも転換する必要はないと思います。全中をはじめとした中央会・連合会の組織のあり方は見直しが必要な部分があるかもしれませんが、個々の農業者は地域で生産と生活が一体となった生業として農業をやっているわけで、それは変えようがない。
それを前提としているのがわれわれの産直提携なんです。
私たちの産直は組織としては農協と生協の提携というかたちですが、その農協とは個々の家族農業者たちが、自分たちの生産と生活を支えるために必要な事業に自ら出資し総合農協として展開してきたものです。改めていえば、われわれの産直とは家族農業のそうした協同のありようと結びついてきたということです。だから、総合農協を否定するような農協改革とは、われわれの産直運動の問題でもあるということです。
――今回の農協改革を自らの問題としてどう捉えるかが重要だということになりますか。
改革の取り組みの原則は当然、自主・自立の協同組合ということだと思います。ただ、今までの農協のあり方はどうだったかについてはある程度は見なければならないと思います。政治との関係を振り返っても、本当に文字通りに自主・自立の協同組合として事業・運動をしていくにはどうしたらいいか。今は足下の改革で精一杯かもしれませんが、本来は単独では難しいだろうから、われわれのような生協などとの連携も含めて改革を考えていくことも必要ではないかと思います。
そういう意味では生協サイドも今起きている農協をめぐる問題を、これは協同組合の問題であり、日本農業に関わる問題だと深刻に受け止める必要があります。
――JAグループの取り組みにどう期待しますか。
やはり主役は地域の農協、ということに期待します。中央会・連合会の改革も地域を主体とした総合事業を展開している農協をサポートする全国組織の機能として取り組んでほしいと思います。
私も政府が言うような強い農業をめざしてがんばる農業者を否定するつもりはありません。しかし、地域に根ざした農業者とその組織が台なしにされたうえで、企業的な農業だけが残るというのはあり得ない。改革といってもこういう根っこの部分を忘れてはいけないと考えています。
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