JAの活動:JAトップに聞く 農協が目指すもの
「農協改革」は憲法第22条違反【畠山勝一・JA秋田しんせい代表理事組合長】2017年3月17日
地方の農協が声あげ行動を
「農業改革」に名を借りた「農協攻撃」が続いている。「農業競争力強化支援」というもっともらしい法律案も国会に提出され、農協攻撃はさまざまな衣装をまとって登場してくる。こうした情勢に、地域でしっかりと、家族農家を含めた農業振興とそれをベースにした地域を守る活動を地道に展開している農協の組合長に、いまそしてこれから「農協がめざすもの」について聞いていく。第1回目は、農協攻撃は民主主義の基本を侵すもので「憲法違反」だと言い切るJA秋田しんせい畠山勝一組合長に聞いた。
◆農家所得上げるため懸命に努力
インタビュー冒頭で畠山組合長は、政府・与党や規制改革推進会議が押し進める「農協改革」について、「農協を弱体化するような異常ともいえる内容になっている」。それは「日本国憲法第22条が保障する『職業の自由な選択』という民主主義の基本に反する」ものだから、「憲法違反で訴訟を起こすべき」だと、強い口調で語った。
そして、農協や農協グループが「農家の所得向上の弊害になっているというが、私たちが農家所得はどうでもいいなどと一言もいったことはない。反対に、農家所得を上げるために懸命に努力をしてきた」。「私たちは不満を持ちながらも、これまで政府のいうことを聞いてきたが、そうした戦後農政の失敗を棚に上げて、いまになって、民間団体であり世界からも認められている日本の農業協同組合に対して行っている『農業競争力強化』などと称した異常ともいえる介入は、まさしく民主主義に対する弾圧だと私は思う」とも。
さらに、畠山組合長のお父さんの時代である戦後の食料難のなかで、農家は懸命に食料増産に取組み、強制的に米を供出させられたが、農家は協力してきた。その後「ある日から減反だといわれた。これはしょうがないことだと思うから、ここまではまだいい」。しかし、それまでの食管法に変わる新食糧法では「米の需給バランスと価格の安定をはかる」と法律で謳っているにも関わらず、政府は「30年産米から減反政策は廃止するので、農家が自由に判断して生産しろ」という。これは問題だ。
「安保問題で憲法を破って、自分の都合のいいように解釈する」のと同じやり方であり、「そういう政府のやり方には本当に腹が立つ」と怒りを顕わにした。
◆県内有数の野菜・花・和牛の産地
JA秋田しんせいは、秋田県南西部に位置し、平成9年に旧本荘市・岩城町・大内町・東由利町・由利町・矢島町・鳥海町・西目町・仁賀保町・金浦町・象潟町の11JAが合併して誕生した広域JAだ。現在は市町村合併が進み、由利本荘市とにかほ市が事業管内ということになる。
東は出羽山地、西は日本海、南に鳥海山という海と山がもたらす穏やかな気候と自然に恵まれ、農協の販売取扱高100億円の67%が米だというように、古くから知られた「米どころ」で、米が主力の農業地域だ。
しかし近年、米価が低迷する中で、農業所得を確保するために、0mから400mの標高差や地域によって異なる気候条件を活かした適地適作による、野菜や花きなどの農産物や畜産物など多彩な農業生産も盛んに行われてきている地域でもある。
例えば、鳥海山麓の標高の高い地域で栽培されている「秋田鳥海りんどう」は、生産を開始してから10年だが、販売金額が27年度には「念願の2億円を達成し、品質・量・金額ともに県内トップの産地に成長した」と畠山組合長は嬉しそうに語る。
このほかにも、標高200~300m地域で生産されているアスパラガスは、販売高1億9400万円で県内第2位だ。アスパラを含めて「県内第2位」の品目が5品目あるので、「これを第1位にしようと、農協も生産者も努力をしているところだ」という。
また、黒毛和牛子牛生産も盛んで(県内第1位)、県内外に出荷された子牛が数々の和牛ブランドを支えていることも自慢だ。
農協が農業を振興することは、「農業だけでなく、地域を守っていくこと」であり、「農協が撤退したら、農地は荒れ、農家も地域の人たちも途方にくれる」ことになる。農協が合併した当時、Aコープやガソリンスタンド、LPガスなどの事業は80億円程度あったという。それがいまでは人口減少もあって50億円を切る状態になっている。子会社化して効率化・合理化をはかってやってきたが、店舗を閉鎖したりすれば、その地区は「限界集落」となり住民は「買い物難民」となってしまう。どうすればいいのか「頭が痛い問題」だ。
「地域の活性化」も農協の仕事だという。だが、これまで「国はそうした地域に対して何をやってきたのか?」。そこに人が住んで暮しているのだから、経済的な論理だけではいかないにもかかわらず、そのこと触れず経済的な合理性だけをいう政府・与党や規制改革推進会議への不信感は高まる。
「地方の人口が減るということは、日本が栄えなくなる」ことであり、その地方を支えているのは農業だ。その農業を振興するために、小規模な農家でも安心して営農できるように、農協は選果場などの施設に投資をする。国からの助成は減っているので経済効率だけで考えれば「農協の負担は大きく、償却には長い年月が必要だ」。経済合理性に合わない投資だと反対する組合員もいるので、総代会を開催して審議をした。
そのときに畠山組合長は「選果施設があることで、小さな農家でも生産し出荷することができる。そのことで若い後継者も育つ。それが『一人は万人のために、万人は一人のために』という協同組合精神である」。「これがなくなれば、この地域から農業がなくなる。これが農協の原点」と話し、一人ひとりの組合員に理解してもらったという。
そこには、国などがいうような「大規模農家」だけが地域農業を支えているのではない。兼業農家を含めた家族経営農家がしっかりと営農できることで、地域農業が元気になるのだという日本の農協の原点がしっかりと理解されていることが分かる。
そして「もし農協が必要ないというなら、解散してもいい。いまは農協の価格があるからそれを基準にして資材も農畜産物も価格設定されているが、農協がなくなれば、誰かが思い通りに操作する。それで農家の所得が向上するわけがない」。改めて「農協が地域にとってなくてはならない組織だということを、見直し認めてもらうよい機会」ではないかとも畠山組合長は考えている。
◆過去の歴史踏まえ未来へ向かう
そして「戦後、秋田などの田舎から優秀な頭脳と労働力が出て行って、今日の日本経済の発展になった。そうした歴史を、安倍首相たちは、きちんと踏まえていない。『瑞穂の国は日本の国の基』などといっているが、農業政策など全然わかっていない」。
さらに「過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる」というヴァイツゼッカー・ドイツ第6代連邦大統領の演説の一説を思い出す(『荒れ野の40年』岩波ブックレット)。それは、「過去の歴史をしっかりとらえて未来に向かうことが、未来への展望が開けることになる」ということで、いまの「総理にはそんなものは、何もないべや」と手厳しい。
そしてインタビューの最後に、冒頭の「憲法違反」について再度ふれ、「いまこそ危機を感じて行動しなければならない。裁判所がどのような判断をするかは分からないが、地方の農協が声を上げていかなければいけない」と結んだ。
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