JAの活動:農業協同組合に生きる―明日への挑戦―
【菅野孝志 JAふくしま未来代表理事組合長】夢のある福島の農業をつくる2017年5月18日
地域の生産とくらしを
支える存在が総合農協
「農協改革」が国によって進められ、信用事業の代理店化を迫られるなど、長年にわたって農村地域でその経済と人びとのくらしを支えてきた「総合農協」のあり方が問われている。そこで本紙では、実際に農村で地域を支えている総合農協のトップに、今後どのような「挑戦」を考えているのかを聞いた。第1回は、東日本大震災から6年、風評被害と戦いながら、地域を守ってきたJAふくしま未来の菅野孝志組合長に聞いた。
◆ 「ひと・もの・かね」を本気でつぎ込む政策を
――ここ数年、「農協改革」が進められ、いまや、信用事業の代理店化問題を通じて、総合農協としての農協のあり方が問われているといえますが、どうお考えですか?
農業協同組合の前身である戦前の産業組合は、農家だけではなく、その地域の商工業者も含めた人たちの組織として、地域の産業をより豊かなものにしようと作られたわけです。
戦後、農協法が制定されたときも、商工業者でも田畑を持っていれば一緒に入って地域全体を豊かにしていこうと農業協同組合が発足しました。それから70年が経過しましたが、農協はずっと国と一緒になり農業政策を進め、そのことで農家のくらしを豊かにし、地域の農業生産力も上げていこうとしてきたわけです。しかし、国の産業政策で農村から労働力が第2次産業や第3次産業に吸い取られ、農業が衰退してきました。衰退の責任はすべて農協にあるかのようにいわれていますが、国が産業政策として仕向けてきた結果なのです。
――国の施策としては、農協改革ではなく、農業改革が必要だといえますね。
農業をもっと活力と競争力のあるものにする。そのために「ひと・もの・かねをつぎ込む」ということでなければ、成長産業としての農業は組み立てられませんが、本気でつぎ込もうとしているとは思えません。
国が考えているのは、家族経営とか個別経営体を育てるというよりは、ある企業が農業に進出して、いまの農家の人たちを農業労働者として取り込んでいこうという方策としか見えません。これでは、水や環境を含めた地域の農業は成り立ちません。地域の農業は単に農作物を収穫するだけではなく、歴史や地理的な条件などもろもろの条件をうまく組み合わせながら成り立ってきています。そうした農業を支えてきた人たちとタッグを組まないと日本では長続きはしません。
ヨーロッパなどでは、農地を守り農業生産を維持する、景観を維持するためにそれなりの財政支出をしています。日本もそれに近いことをいろいろやっていますが、総合的ではないので、若い人たちが農業に帰ってきて地域の核となるように育てる政策にはなっていない。育てることが大切ですし、そうあって欲しいと思います。
――農協は営農経済事業に専念し、儲けろといわれていますが...。
組織運営のトップには、赤字でいいと思っている人は一人もいません。
私は、農協の剰余金は、「節約金」だと大先輩から教えられましたが、「無理、無駄を省く」ことでみんなが節約したお金だと思っています。そのお金を改めて、農家と農協職員の人材育成、つまり地域全体をこれから動かしていく人に投資をしていく。この人たちが育っていかないと、結果として地域が成長していかないからです。
非営利規定の部分がなくなって「儲けなさい」とか、役員選出問題についても、農協は自主自立の組織ですから、他者からいちいちいわれる必要はありません。役員も、どういう地域をつくっていきたいのか。いま農家が困っていることをどうサポートしていくのかとか、農業と地域のことをきちんと考える人であれば、認定農業者にこだわる必要はないと思います。
◆所得向上には販売単価アップが一番大事
――合併して1年ですが、組合員は農協をどうみているのでしょうか。
農協では農薬や肥料で各々20銘柄程度「地域最安値」に取り組んでいますが、農家はそれだけを使っているわけではなく、段ボールをはじめいろいろな生産資材があるので、総体的に考えたら「安くなっているとは感じないよ」との声が返ってくる。一方で「農協の品物はやっぱりいいよ」とも言われます。
そして「いま農協に一番やって欲しいことは」と聞くと、「販売単価を上げる」です。「農業所得の10%アップ」などは、販売単価がアップしなければ実現しません。
販売単価を100円と仮定すると、コストは約3割で30円ですが、手取りは70円ではなく流通コストがいま35円かかっているので、35円です。この流通コストは各種の対策を講ずる必要から変わらないと思います。コスト30円が1割下がると3円、販売単価が2%上がれば2円で計5円となり、手取りが40円となり10%強アップになります。コスト低減には限界があるので、一番大事なのは、販売単価をどうやって上げるかです。
そのためには、従来の市場流通だけではなく、いかに営業開拓するかです。しかしこれはリスクを伴いますから、流通経費は削減できないと考えています。
簡単に販売単価が上がるわけではないので、いまは農協の直売所などを活力あるものにしていくこと。そして地域内の人たちに支えてもらうことが大事だと考えています。直売所の売上げは昨年より10%アップしていますが、これは震災から6年経ち、福島の農産物は安全・安心だということを理解してきていただいている結果だと思います。
市場流通も農家が出してきたからではなく、自分たちがこの農産物はこう売りたいという企画力・提案力を持たないと評価されません。良い農産物は買取り販売して、付加価値をつけた商品づくりをしたり、機能的な要素はないのかとか、野菜の料理の仕方とかを考えて提案をしています。まだ少ないのですが「出来ることはなんでもやる」他の農産物に広げていければいいと考えています。
◆共通認識基に「一歩、確実に踏み出す」
――風評被害で販売高が減少したと聞きますが、だいぶ回復してきましたか。
合併前に273億円だった販売高が、28年度277億円になり、今年度は280億円を目標にしています。そして震災前の368億円にどう近づけていくかを考えていますが、いままでと同じではダメなので「一歩、確実に踏み出そう」と考えています。具体的には、自然・水・農地そして食を守るために、法人の核をつくるとか、畜産団地を全農と一緒になってつくるとか、園芸団地をつくる。そのために、ひと・もの・かねを集中させるためのどういう組み立て方をするか。国からの交付金の使い方の提案をこちら側から出さないと、農協と関係のない人たちが提案をし、最初だけちょこちょこと儲けて、後は「さようなら」になってしまう可能性があるので、本気になって検討しています。
そのためにも、代表理事が1月から月に1日5~6件の認定農業者を回って話を聞き、報告会を開いて、問題ごとに対応の仕方を整理し共通の認識をもち、「何を踏み出させるのか」をお互いに確認しています。5月からは、常勤役員が15班編成で月1回生産現場へ行き、時には一緒に作業を手伝いながら、本音の話を聞いてくることにしています。そのことで自分の育った地域だけではなく、他の地域の農家の思いをも共通の認識とすることが大切です。
◆ 農業の豊かさ社会性を本気になって考える
――グローバルGAP(G―GAP)の学習会を開いたそうですね。
はい。具体的な話を聞く中で「夢のある農業をつくるための仕組みが、G―GAPだ」と感じました。
生産工程を検証して、この基準をクリアしているからいいという問題だけではなく、福島の農業で働く人たちが喜んで働き、安全性も確保でき、農薬などの使用基準も守られ自分たちの健康管理もできるなど、地域の農業が形つくられたときに初めて「JAふくしま未来は、農業の豊かさや社会性を本気になって考える地域だから、私はここの農産物を食べます」と消費者に応援してもらえる。
基準をクリアすることではなく、心の部分、哲学的な部分として、「ほんとうの空の下にある福島の農業がより豊かになってみんなのくらしにも貢献できるようになる」。そのことをG―GAPのなかで追求していったら「福島の農業って魅力的だよな」といわれるのではないかと思いました。
◆可能性あることに挑戦し続ける
――最後に、信用共済分離がいろいろ言われていますが...。
農協は、冒頭でも言いましたが「地域全体」のものです。農家のつくった農産物が、地産地消といわれるように、地域の農業を取り巻く人たちが地域の農業を支えているわけです。支えている地域の人にも農家にも、生産とくらしがある。それを一つのものとしてとらえ、そのための必要な事業として、信用事業も共済事業も生まれ、地域の人たちに利用していただくことで、地域全体が成り立ってきた。金融機関や株式会社のように「儲け」を得るために始まった事業ではありません。
信用・共済を含めて営農とくらしを一つの事業としてとらえた、総合事業を絶対に崩してはならないと考えています。
苦しくても営農経済事業の効率化つまり質を高め、無理・無駄を省き節約をして、組合員との協同の下に蓄積し再投資をし、新たな事業分野を開いていくことだと考えています。そして、可能性のあることにはちょっと背伸びした目標を掲げ、挑戦し続けることだと思います。
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