JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
総合農協の強み発揮へ 農業金融で重要な役割2017年6月1日
農林中金総合研究所基礎研究部長清水徹朗氏
2012年12月に自民党が政権を奪還して以降、安倍政権は農政・農協改革の歩みを加速させており、14年に中央会改革、監査制度等を主内容する農協法改正が行われ、その後、全農や農協信用事業の改革が進められようとしている。
14年6月に決定した規制改革実施計画において、「単協はその行う信用事業に関して、不要なリスクや事務負担の軽減を図るため、JAバンク法に規定されている方式(信用事業譲渡・代理店化)の活用の推進を図る」という内容が盛り込まれたが、規制改革推進会議農業WGは16年11月に、「農林中金は、地域農協の信用事業の農林中金等への譲渡を積極的に推進し、自らの名義で信用事業を営む地域農協を3年後を目途に半減させるべきである」という「意見」を発表し、全国の農協に激震が走った。この信用事業譲渡・代理店化をどう考えたらよいのであろうか。
◆日本における「総合農協」の形成
日本の農協は「総合農協」であることが大きな特色である。この場合、総合農協とは信用事業のみならず経済事業、共済事業など他の事業を兼営しているということであり、特定品目を対象とした「専門農協」に対する概念でもある。信用事業譲渡・代理店化とは、この総合農協から信用事業を切り離す(「信用事業分離」)ことである。
一般に、金融機関は預金を預かるという公益的機能を有しているため他の業務との兼営は禁止されており、農協の前身である産業組合法が制定された当初(1900年)は信用組合と他事業の兼営は認めていなかった。
しかし、当時の農村の実態からは、各種の組合を別々に設立するのは非効率であるとして1906年に信用事業と他事業の兼営が認められ、戦後の農協法制定時も兼営形態が残され、今日に至っている。
◆財務処理基準令と農業団体再編成
農協法に基づいて全国に農協が設立されたが、農協は設立直後に経営難に直面し、政府は財務処理基準令(50年)によって自己資本、資金運用、貸付、他部門運用の基準を示すとともに信用事業の区分経理を義務付け、農協信用事業の健全性を確保するための仕組みが設けられた。
一方、農地改革後に農業委員会が発足すると、農業団体のあり方や営農指導事業の位置づけ等を巡って50年代半ばに農業団体再編成問題が起き、この論争の結果、今日に至る農業団体と系統農協の体制が確立した。
金融自由化への対応と事業・組織再編
日本農業は55年ころから始まった高度経済成長によって大きく変貌し、農家所得向上に伴って農協事業も順調に拡大した。しかし70年代後半以降、貿易自由化や円高への対応が迫られ、また80年代以降、情報通信技術や交通手段の発展、金融自由化が進展する中で、農協系統は88年に農協合併方針(1000JA構想)を決定し、91年に事業・組織二段階制の方針を打ち出した。
◆住専問題の発生とJAバンクシステムの発足
80年代後半のバブル経済のなかで株価や不動産価格が高騰し、銀行等による不動産融資が急拡大したが、バブル経済が崩壊するとこれらの融資が不良債権化した。特に住宅金融専門会社(「住専」)に対する農林中金と信連の融資が問題になり、96年に信連と農林中金の統合法が成立し、その後一部の県で両者の統合が進められた。
さらにBIS規制(自己資本比率規制)、ペイオフ解禁など金融システム安定化に備えるため、2001年にJAバンク法(再編強化法)が成立し、02年から農林中金、信連、農協が一体的に信用事業を実施するJAバンクスステムが開始され、リスク管理強化やシステム共通化が進んだ。
◆農協信用事業の今後のあり方
農協信用事業はこれまで順調に拡大し、貯金量は90兆円を超えている。JAバンクで働く農協職員は5万1000人おり、金融店舗は8147、ATMは1万2000あり、全国のコンビニでJAのカードが使えるようになっている。また、農協は農業金融においても重要な機能を果たしており、こうした金融サービスをJA利用者に今後も提供し続けることがJAバンクの使命である。
農協経営は信用事業と共済事業の収益に多く依存しているが、農林中金は国際的な投資業務を行っているためBIS規制の影響を受け、今後の規制強化や昨今のマイナス金利の影響によって収益が減少する可能性もある。フィンテック、インターネットバンキングへの対応も今後の重要な課題である。また現在、農家戸数は215万戸(15年)であるが、今後も農家の減少が続き、その一方で法人経営や集落営農への農地集積が見込まれており、農協はこうした環境変化に的確に対応していく必要がある。
農協は総合農協であることが強みの一つであり、営農指導事業や経済事業を通じて農家との関係を保っていることが貯金や共済の維持・確保につながっている。信用事業分離は農協のこの重要な機能を失うことになり、代理店化に対しては慎重な対応が必要である。代理店化は一つの手段に過ぎず、その選択は政府が押し付けるのではなく各農協と組合員が判断すべきものであろう。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
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