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シリーズ:新世紀JA研究会 課題別セミナー

2019.04.12 
農業を買い支えて「生産する消費者」に【辻村英之・京都大学農学研究科 教授】一覧へ

フェアトレードと産消提携

 新世紀JA研究会(代表=八木岡努JA水戸組合長)が3月15日開いた第24回の課題別セミナーで 京都大学農学研究科の辻村英之教授が、フェアトレードによる生産者・消費者の提携のあり方について報告した。JAの准組合員をどう位置づけるかという課題を抱えたJAグループへ、示唆的な問題提起となった。

京都大学農学研究科の辻村英之教授 タンザニアのキリマンジャロ山・西斜面にあるルカニ村。日本において高い人気を誇るキリマンジャロ・コーヒーの産地である。森林保全的な農法として注目されているアグロフォレストリーが、キリマンジャロ・コーヒーの生産にも適用されている。コーヒーの木は直射日光に弱く、木陰を好む。そのための日陰樹として、森林の林木や村民の主食であるバナナの木が活用されている。ここにさらに畜産が結合され、経営内部の資源循環性「バナナの茎・葉→家畜(飼料)→家畜糞尿→バナナ・コーヒー(堆肥)」が高い(高価な肥料・飼料を購入しない低費用の)、農林畜複合経営が確立されている。

(写真)京都大学農学研究科 辻村英之教授

 

 2011年にFAOの世界農業遺産(GIAHS)に認定された、この魅力的なキリマンジャロ山中の伝統的な農法が、2001~02年度の「コーヒー危機」(コーヒーの国際価格の史上最安値水準への暴落)を主因とし、ルカニ村において崩壊しはじめた。コーヒーとは対照的に直射日光を好む(それゆえ邪魔になる林木の伐採を促す)トウモロコシへの転作、コーヒーに代わる現金収入源としての林木の過剰伐採・販売が進んでしまったのである。これをくい止めるため著者は、ルカニ村・フェアトレード・プロジェクトを企画した。
 フェアトレードは、(1)生産者が費やした生産コストと、生産者の一定の利益(→生活水準)を保障する最低(輸出)価格の保障、(2)産地の社会開発プロジェクトの経費とするフェアトレード・プレミアム(還元金)の支払い、の二つの買い支え方で、農業者・産地を支援するものである。ルカニ村・フェアトレード・プロジェクトは、(2)の支え方で、図書室の完成、中学校の建設、耐病性が高い(無農薬栽培を可能とする)コーヒー苗木の普及などを実現した。さらに(1)の支え方で、コーヒーの生産意欲を回復させ、コーヒー産業の復興や森林再生を後押ししている。
 しかしフェアトレードは、この二つの買い支え方がゆえに、小売価格が高くなってしまう(消費者への販売が困難になる)弱点を持つ。従来のコーヒーの品質(香味)に、「生産者支援できる」新たな品質が上乗せされているのがフェアトレード・コーヒーである。小売価格の高い部分は、この「生産者支援できる」品質に対する支払いとなる。「生産者支援できる」ことがうれしく、積極的にその代金を支払う消費者が増えるよう、同プロジェクトは、毎年夏にコーヒー・スタディツアーを実施し、消費者にルカニ村に来てもらっている。新たな品質(生産者支援する力)の成果を自ら確認してもらい、また生産者との交流を深めて、「友人を支えたい」気持ちを育んで欲しいからである。

 

◆産消提携の買い支え方

 最低「価格」を保障するだけのフェアトレードには、収入「価格×販売(収穫)量」リスクまでを軽減できないという弱点もある。言うまでもなく、自然に依存する収穫量の変動を抑えられないからである。その一方で、欧米で普及が進むCSA(Community Supported Agriculture・コミュニティが支える農業。フランスではAMAP)は、地元の有機農業を支えるために、生産・生活を持続できる最低収入「販売代金(価格×数量)」を保障する。
 最低「収入」を生産前に決めて「コミュニティ」(消費者グループ)が前払いし、農業者はこの支払いの一部を利用して契約数量の収穫をめざす。収穫できた全量を生産者が集荷所まで運び、消費者はその集荷所に集まって野菜ボックスなどに入った有機農産物を受け取る。消費者が要望する有機農産物を自ら生産できないため、持続的生産の費用を先払いして、代わりに地元の農業者に生産してもらう。この生産委託がCSAの原理的事例である。
 以上のフェアトレードによる「(1)価格保障」「(2)還元金」、CSAによる「(3)前決・前払い」「(4)全量買い取り」の4つを、農業が直面する大き過ぎる価格・収穫量(および両者を掛け合わせた収入)の変動リスクに対応できる、望ましい買い支えの仕組みと考える。
 ところでCSAは、日本の産消提携を元祖にすると言われている。実際、産消提携の1事例「共同開発米事業」(JA庄内みどり遊佐支店・共同開発米部会と生活クラブ生協による減農薬・無農薬米をめぐる生産・消費の支え合い事業)においては、(1)市場価格より29%(3,434円/60kg)高い生産者価格、(4)豊作のため契約量10万俵を超える10万6000俵の購入、(3)価格・数量を3月末(生産前)に確定(その契約量の6割を生協組合員が年間予約登録)、(2)生産者価格の0.5%分(1.6円/kg)を組合員が「共同開発米基金」として積み立て(同年の総額891万円)など、4つの買い支えのどれも度合が高い(2009年度)。

 

◆競争から「共創」へ

 消費者にとっての品質・価格の「競争」メカニズムは、「よりよいものをより安く」の追求である。一方で生活クラブ組合員が、上記の高度な買い支えを実現できている背景には、「消費者が要望する品質の食料を食卓に供給してくれる農業者を消費者が買い支えたい」あるいは「買い支えるのが当然」という理念・規範がある。
 この「産消提携の理念・規範」は、支えたい気持ちを芽生えさす「活発な農業者との交流」に加え、品質や価格を生産者と消費者が共に創るという「共創」メカニズムへの参画で、生活クラブ組合員が農業に対する高い当事者意識を持ち、確立されている。その当事者意識を、生活クラブは「生産する消費者」(生産者と共に食品を創り上げる消費者)と呼称している。
(1)消費者による品質の要望→(2)生産者による新たな品種・栽培方法の実験→(3)消費者による新たな品質の評価→(4)新たな品質の確立、という手順での品質形成が、品質の「共創」メカニズムである。(1)生産者による「生産原価」の提示→(2)「市場価格」の参照→(3)生産者と消費者の討議→(4)「妥結価格」に到達、という手順での価格形成が、価格の「共創」メカニズムである。 

 

◆准組合員と共創する地域農業

 JAの自己改革において、准組合員を「農業振興の応援団」と位置付けるとともに、「マーケットインに基づく生産・販売事業方式への転換」を強調している。
 マーケットイン(消費者ニーズ)に基づく方式であればまさに、准組合員制度という日本農協の特質がゆえに、「消費者ニーズ」(消費者が求めている農産物・食材の品質・価格)をこの上なく近いところで捉えられるJAの強みが生じる。
 地域農業の応援団(あるいは支援団)として准組合員を実質的、本格的に位置付けるためには、上記のCSAに類似の(たとえば「コミュニティ」を准組合員グループとし、集荷所を農産物直売所とするような)取り組みが求められるのではないか。そこには、地域農業に対する支えたい気持ちや当事者意識を准組合員が持てるよう、上記の「活発な農業者との交流」や「共創」メカニズムをそなえるべきである。

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