JAの活動:JA全農部長インタビュー「全力結集で挑戦 未来を創る-2021年度事業計画」
【JA全農 部長インタビュー 2021年度事業計画】土屋敦 総合エネルギー部長 電力事業も加え地域のインフラを担う2021年6月10日
脱炭素化の流れが加速しエネルギー事業を取り巻く環境が大きく変化するなか、「JAでんき」の本格普及に取り組む。土屋敦部長に聞いた。
土屋敦 総合エネルギー部長
加速する脱炭素化
--事業を取り巻く情勢をお聞かせください。
エネルギーを取り巻く情勢は、昨年10月に発表された菅首相の2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現宣言により一変した印象を持っています。
産業界においては、経産省が示す2050年カーボンニュートラルにともなうグリーン成長戦略により脱炭素化が強く進められるでしょう。そのなかでも、自動車のEV化も今まで以上のスピード感で進展すると見ています。
一方、農業分野においても、農水省のみどりの食料システム戦略が策定され、調達から生産、流通・加工、消費までサプライチェーン全体でのゼロエミッションを目指すことが示されており、このなかで持続可能な生産資材、エネルギー調達、地産地消型のエネルギーシステムの構築や、機械の電動化も描かれています。
私ども総合エネルギー部が長年取り組みを進めてきた石油事業、LPガス事業は大きな転換点にあると考えております。しかし一方で大きなチャンスともとらえており、往来の品目以外のエネルギーへの取り組みを進めてきました。
その象徴が太陽光発電事業です。現在はおもに農業用施設の屋根を有効活用した比較的大規模な太陽光発電ですが、今後は各組合員家庭における自家消費型モデルの普及が課題となります。また、今後、増加する荒廃農地を利用した太陽光発電事業も検討し、地域農業の健全な発展と調和のとれた再エネ活用を実現したいと考えております。
一方、今後の電気自動車の普及や、オール電化住宅の増加、農業分野では草刈機やチェーンソーといった比較的出力の小さい小型機械はすでに電化が進んでいる状況を考えると、農家組合員の家庭でも電気需要が増加することが容易に想像されます。
このように考えると、各家庭では電力会社から電力を買うことをできるだけ減らし、各家庭や地域で発電して、それを家庭や地域で使うという電力の地産地消といったニーズも増えてくると思われます。それに対する解決策や提案が期待されていると考えており、将来を見据え「JAでんき」の家庭向けの普及拡大に取り組んでいます。
とはいえ、化石燃料が一朝一夕になくなるわけではありません。自動車でも当面はガソリン車が主流であり、大型農業機械の電化には時間がかかります。各農家の家庭における給湯と暖房も当面はまだ燃料が主力で、特に災害時にはエネルギーの最後の砦である石油・LPガスが必要不可欠であり、これらのライフラインを支える責任があります。
社会環境に柔軟に対応できる事業者でありたいと考えており、全農の経営理念である「営農と生活を支援して元気な産地づくりに取り組む」ことに貢献していきます。
地産地消型の事業を構築
--「JAでんき」の事業はどのように進めてきたのでしょうか。
平成28年8月からJAグループの営農施設のコスト削減の提案として、電力診断と電力供給を進めてきました。令和3年3月末時点で5,361契約となり、施設園芸や畜産施設を中心に「JAでんき」への切り替えをすすめ、生産コストの低減に貢献しています。
令和元年度からは組合員の家庭向けの電力供給を開始しました。令和3年3月末で34府県の94JA・会社で「JAでんき」の取り組みを決定しました。一方、令和元年11月から家庭用太陽光パネルで発電した電力の固定価格買取制度(FIT制度)が期間満了を迎えており、組合員家庭からの余剰電力買い取りも開始しています。
令和3年度は、組合員家庭向け電力供給の拡大に向けて、JAや各会社に対して研修会を継続的に実施し、また、契約獲得件数に応じた奨励措置、全国統一顧客特典キャンペーンなどにも取り組みます。組合員に対する「JAでんき」の認知度向上も重要と考えており、JA-SSのセルフスタンドでの宣伝や、各種展示会で紹介DVDの活用も進めます。
また、再生可能エネルギーを活用した新しいビジネスモデルである自家消費型太陽光発電サービスの構築にも取り組んでいます。
令和2年度はAコープ東日本が運営する群馬県のJAファーマーズ型3店舗でモデル事業を開始しました。
全農が設備を所有し、維持費を負担、Aコープ東日本には太陽光で発電した電力を販売します。利用者側のメリットは再エネ利用による企業価値向上、断熱による省エネ効果、BCP対策が挙げられます。
特にBCPについては、太陽光で発電した電気を蓄電池等に充電し、その電力を使用して事業継続に不可欠なPOSレジや店内照明の機能維持が可能となり、非常時に地域を支える拠点となります。こうした実証を通じて、今後は全農グループ施設への自家消費型太陽光発電サービスの拡大を目指します。
地域の生活を守る
--石油事業は何が重点となりますか。
脱炭素化の取り組みが進む一方で現状では石油が主流であり、農家組合員や中山間地域の住民の重要なライフラインとして維持していかなければなりません。
そのためにSSの集約や統廃合による最適な拠点配置、施設園芸向けA重油の配送拠点の広域化なども進めてコスト削減につなげていきます。
令和3年3月末時点でセルフSSの比率は業界平均を上回る40%となり、令和3年度もセルフ化の促進および機器類のリニューアルをすすめJA-SSの競争力強化に取り組みます。また、今夏にはセルフのJA-SSにQRコード決済を導入し販売力強化の取り組みも進めます。
営農用燃料の取り組みについても、営農用軽油やA重油にかかる税金の還付措置の啓蒙を継続します。また、3年度はクレジット会社の仕組を利用した収穫期払いのスキームを導入します。JAの債権管理リスクを低減し、組合員の営農の安定にも寄与します。
--エネルギーが大きな転換点を迎えているなかで改めて部としてめざすところは何でしょうか。
脱炭素化社会の実現に向け、既存の石油とガスだけでなく、電力事業の拡大を進め、地域社会におけるエネルギー供給責任を果たしていきます。
社会環境の変化に柔軟に対応できる事業者となり、JAグループのエネルギー事業が将来に渡って農家組合員、地域から必要とされるように、また世界的な潮流であるカーボンニュートラルの実現にも貢献できるような事業運営に努めていきます。
(つちや・あつし)
1970年7月生まれ。埼玉県出身。明治学院大学社会学部卒。1993年入会、燃料部総合課長、全農エネルギー常務取締役、総合エネルギー部次長などを経て2021年4月から現職。
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