JAの活動:私の農協物語
【私の農協物語】熊本・JA菊池前組合長 上村幸男氏(上) "協"の道を追い続け2022年12月2日
風土と伝統が人をつくる。熊本県JA菊池の人脈を見るとそう思わせるものがある。先輩が後輩を育て、その後輩が次の世代を育てる。このサイクルが連綿と続き、今の畜産・野菜を中心とする大産地を築いてきた。青年団活動から農協青年部、そして農協・県経済連のトップとして、リーダーシップを発揮した上村幸男氏(78)もそうして育てられてきた一人だ。「JAは生産現場が出発点だ」という上村氏は、いまは一農家となってエゴマ作りに精を出す。農業は生命と食を守る原点であり、JAの役員退任後、一組合員としてそれを実践している。
JA菊池前組合長
上村幸男氏
畑作農家の長男として生まれ、将来は農業を営むことを自覚して育ちました。だが、高校に行けば農業はしないだろうと家族は思っていました。そこで祖父は中学校卒業時に県立菊池経営伝習農場に行かせることを決めていました。
伝習農場の教師陣は経験豊かな県の農業改良普及員で、実践を通じて1年間、みっちり学びました。当時、場長だった工藤正人先生からは人間的にも多くの薫陶を受けましたが、特に先生はデンマークの農業に詳しく、優れた技術による高所得の農業、豊かな食生活の話は刺激的でした。その後、農協や県連の仕事をするにあたり、地域農業ビジョンを描く上で大変参考になりました。
卒業後はすぐに就農しました。当時、わが家は葉タバコが約50a、デンプン用カンショが1ha、ラッカセイ1haほどの経営でしたが、就農してすぐに熊本空港の建設の話が出てきました。当初は、私たち青年が中心になって反対しましたが、我々は畑灌(はたかん)による野菜経営を目指していたこともあって、空港建設の条件として農地の基盤と潅水(かんすい)施設の整備を普及センターに求めていました。この結果、ほとんど自己負担なしで施設を整備することができました。
欧米農業に強い関心
私は、そのころから畑作を中心とする欧米の農業に強い関心を持っていました。生産調整が始まっていたものの、まだ米の時代が続いていました。しかしデンマークや米国の農業を勉強して、これからの農業は畑作が中心になると思っていたので、畑灌は渡りに船で、願ってもないことでした。この結果が、いまニンジンやカンショの大産地として実を結んでいます。
1975(昭和50)年、31歳の時に菊陽町農協の青年部長に推され、すぐに県の副委員長、そして九州地区の委員長に選ばれました。委員長を辞めた後、1985(昭和60)年、熊本青年県民会議議長を務め、そのとき「辛子レンコン中毒事件」がありました。被害者救済のための募金活動に取り組みましたが、その中で社会的貢献、さらには異業種の組織や人から学ぶことが多くありました。
基盤強化に奔走
1989(平成元)年、菊池地域の8農協が合併して菊池地域農協が発足し、理事に出るよう勧められました。青年部時代にヨーロッパや米国の農業について調べてきた経験から、これからの農業の国際化は避けられず、生き残るには農協の強化は欠かせないと考え、積極的に合併を働きかけてきたこともあり、断り切れず引き受けました。
合併農協の非常勤理事となり、営農と生活の委員会の副委員長として2期6年務めました。その間、1993(平成5)年の不作時は米価格が高騰したため、系統外への流出を防ぐため仮渡金を1俵3000円上積みしたり、米が確保できなくて困っていた沖縄の生協へ直接販売したりしました。
新しい農協の理事では私が一番若く、合併前からの理事が半分ほどいました。理事会後の宴席で何かの行き違いから誤解を招いたとき、その日の深夜に先輩理事の訪問を受け、これからの農協を背負う若い理事なのだから、酒の席などでの失言に注意するようにと、わざわざアドバイスをいただいたことは忘れられません。
そういう先輩に恵まれ、農協全体に理事を辞める前に次を育てるという阿吽(あうん)の合意が、菊池地域にはあります。そうした背景から、これまで組合長は選挙ではなく理事の話し合いで選ばれています。私もそうやって育てられ、選ばれてきた一人です。
多くの先輩に恵まれました。同時に協同組合は「人」の組織です。「学習なくして協同なし」を合言葉にJA熊本教育センターの所長を退任された川崎盤通氏を常勤講師として招き職員教育にあたりました。また当時、JAの武藤春喜常勤監事に教えられ、薫陶を受けた先輩や先生はたくさんいます。
特に農協の大目付役の武藤監事からは、これから確実に競争社会となり協同の道行は極めて困難となる。"協"の生きる道はいかにあるべきか、と宿題を与えられました。
そのためには経営基盤をしっかり固めることが重要です。支所の統合、事業の効率化のため人員削減にも努めましたが"協同"の生きる道はとてつもなく大きな課題で、農協役員として最後までの課題でした。
(下)は3日に掲載します。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日
-
キウイブラザーズ新CM「ラクに栄養アゲリシャス」篇公開 ゼスプリ2025年4月30日
-
インドの綿農家と子どもたちを支援「PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」に協賛 日本生協連2025年4月30日