JAの活動:農協時論
【農協時論】農村再生なるか――厳しい中山間地 売る力を蓄えて 元JA富里市常務理事 仲野隆三2024年4月25日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様などに胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は元JA富里市常務理事の仲野隆三氏に寄稿してもらった。
元JA富里市常務理事
仲野隆三
食料、農業、農村基本法の改正議論が正念場をむかえている。自給率38%の日本の農業は先進諸国の中で最下位、昭和40年はじめ私も米配給券を渡された記憶がある。米が農家経済のバロメーターであった時代、毎朝倉庫前に米が数千俵ならび検査受ける組合員の会話が弾んでいた時代である。
あれから60年が過ぎ、農業・農村は大きな曲がり角にある。中山間地の奥せまった水田は草に覆われ、その一角に土地改良記念碑が建立されていた。当時の仲間(組合員)はすでに亡くなり、その子どもたちは他産業に流れ、耕す主を失い雑草に覆われた水田は耕作放棄されている。
数年前から荒れ放題の田畑に営農型太陽光ソーラーが張りめぐらされている。最近は埼玉や静岡などソーラー発電会社が雑地や農地をあさるなど耕作放棄農地が絶好の的となっている。米を作る田畑が電力で稼ぐ農地になるなんて悲しく農業の本来の姿を失ったとしか言いようがない。
食を支える農業者の高齢化は農業統計数値で見るよりかなり早い。ひとことで言えば「ヒトとモノが古び」、農村の文化継承できなくなっている。先祖代々耕し続けてきた田畑を誰が耕すか、集落会議で借り手を探すが組合員同士顔を見合わせるだけで芳しい返事もなく、引き受ける仲間はいない。行政窓口の農地中間管理機構や農業委員に問い合わせても、一反、二反の田畑は借り手がいない。これが実態だ。
平たんで土地基盤整備された条件のよい田畑は、経営規模の大きな組合員や法人が借り手となるが機械が入らない田畑は敬遠される。借り手の悩みは分散錯ほ(飛び地)が多くなること。それは出来るだけ避けたい。対策として隣り合った畝(うね)を取りはらい大区画「70a以上」にすることで機械移動などの作業性を高めている。
水田営農経営体の課題は、経営規模の拡大による雇用安定化にある。米価格の低下は各種政策補助金があっても経営は厳しく、大規模化と省力化によるコスト低減だけでは農業従事者など雇用安定につながらない。そこで米単作から水田営農に付加価値作物を導入する野菜転換作に注目が集まる。
その一つが加工・業務用野菜の契約取引だ。野菜ビジネス協議会の(一社)日本施設園芸協会は平成17年に国産原料野菜取引を九州、中国四国、近畿、関東甲信越、北海道で普及推進してきた。
この取引の特長は作付け前にキロ当たりの取引価格を決め「定時、定量、定質」を原則として実需者に納品する。さらにコスト削減を作る側と実需者で交渉、例えばカット野菜規格を簡素化(大中などサイズ)と400㌔メッシュコンテナ(容器)などを使い農作業のコスト削減などにより双方の経営安定に結びついている。
カット野菜の国産化を推し進め、水田営農の安定を図る試みは中間事業者(JA全農や商社、卸・仲卸)により消費・流通に定着している。法人など経営安定に結びついている。
JAの取り組み事例としてJAあきた白神の水田営農と米、大豆、白ネギ「10億円プロジェクト」は水田営農に付加価値野菜を取り入れ個人、法人経営体の所得拡大を推し進めている。
富山県は水稲単作地帯だったが、JAとなみ野の水田タマネギ転換作により100haの先進的取り組みをする。JA全農とやまは県中央部(JAなのはな)に省力化機械のリースセンターを設け、水田の野菜転換作を支援している。
熊本県のJAやつしろは住宅事情の変化にともないイグサ生産面積が激減し、6000人のイグサ生産者の野菜団地化に取り組み、水田転換作としてキャベツ、レタス、ブロッコリーなど産地化を推し進めている。
そのほか山口県JAやまぐちの水田レベラー技術と加工・業務用キャベツの契約取引や、福井県の旧JA永平寺の集落組合によるタマネギの連間作の取り組みなどが記憶に新しい。
近年、水田営農は飼料用トウモロコシや米、そして大豆、小麦、ソバなど政策補助金支援があるものや、カット加工野菜(キャベツ、タマネギ、ハクサイ、ブロッコリー、レタス、カボチャ、ニンジンなど)を中間事業者を介して実需者と取引するケースが年々増え、幅広い水田営農が展開されており経営安定化に結びついている。
ただ残されているのは、水田基盤が整備されていない中山間地の水田と担い手の確保だ。農業全般に言えることだが、作ることより、売る力がなければ農業後継者は育たない。特にJA営農経済事業は委託販売から実需者との交渉力強化が強く求められる。
円安などで燃油、肥料や被覆資材などで生産資材は4割も値上がりし、このコスト転嫁が議論されているが、小売り価格に押し付ける訳にもいかないであろう。規格の簡素化や容器のコンテナ化など現場に解決のヒントがあると思うが、いかがであろうか。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(173)食料・農業・農村基本計画(15)目標等の設定の考え方2025年12月20日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(90)クロロニトリル【防除学習帖】第329回2025年12月20日 -
農薬の正しい使い方(63)除草剤の生理的選択性【今さら聞けない営農情報】第329回2025年12月20日 -
スーパーの米価 前週から10円上がり5kg4331円に 2週ぶりに価格上昇2025年12月19日 -
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
埼玉県幸手市とJA埼玉みずほ、JA全農が地域農業振興で協定締結2025年12月19日 -
国内最大級の園芸施設を設置 埼玉・幸手市で新規就農研修 全農2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
α世代の半数以上が農業を体験 農業は「社会の役に立つ」 JA共済連が調査結果公表2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日




































