JAの活動:米価高騰 今こそ果たす農協の役割を考える
【米価高騰とJAの役割】米増産 政策的な裏付けを JAいわて平泉・佐藤一則組合長に聞く2025年8月29日
岩手県南の一関市と平泉町を管内とするJAいわて平泉。2024(令和6)年度の組合員数は約2万人(正組合員約1万3000人、准組合員約6500人)、販売事業取扱高は約108億円で米・園芸・畜産がその柱をなしている。米価高騰を受けて石破茂首相が米増産方針を打ち出した中、生産現場の状況を踏まえた農政こそが必要であるとするJAいわて平泉の佐藤一則代表理事組合長にお話を伺った。(聞き手・構成=横山英信・岩手大学教授)
JAいわて平泉代表理事組合長 佐藤一則氏
米増産にあたっては失政への反省が必要
8月5日に石破茂首相は米高騰の原因は米不足にあると認め、米増産に舵を切る方針を表明しました。当JA管内でも、2024(令和6)年産米の価格高騰を受けて、2025(令和7)年産水稲の作付けは飼料用米が昨年よりも300ha減少し、主食用米が300ha増えました。各方面から主食用米の買入れについて問い合わせも来ています。
しかし、今後の米増産については、確固たるビジョンが政府から示されなければ農協として自信を持って推進はできません。今回の方針表明に当たって、政府の中で米不足を招いた失政の反省・総括はきちんと行われたのでしょうか。なぜ、米不足が生じ、米価が高騰したのかについて、政府にはもっと深掘りをしてその要因を明確にすることが求められているのではないでしょうか。
ただし、高騰とは言うものの、価格が昔の水準に戻っただけとも言えます。農業生産資材が高騰している中で、今回の米価上昇で米生産の採算性がある程度回復し、米農家の皆さんが一息つけたのも事実です。ここを見ないで、米価の引き下げだけを目的にしてやみくもに増産を行えば、米価は下落して米農家は再び苦境に陥ってしまいます。そうならないようにするためにも、今回の失政に関する政府の反省・総括は不可欠です。
農業生産の現場を踏まえた政策を
全国的な動向と同様、当JA管内でも農業者の減少・高齢化が進んでいます。このような中で米増産にすぐに対応できるかというとそう簡単にはいきません。また、当JAでは食用米の増産に際して種もみ乾燥施設の再編・再構築も必要になります。
今年4月に策定された食料・農業・農村基本計画では国産飼料の中心を飼料用米から青刈りトウモロコシにするとされていますが、飼料用米から青刈りトウモロコシに作付け転換することは土壌の関係で簡単にはいきません。また、作付け転換には新たな機械が必要となり、そのための投資も必要です。
現場が米増産や国産飼料の転換に協力したいと思っていても、それを可能にする条件がなければ取り組むことは困難です。政策の策定に当たっては現場の状況をしっかりと把握することが求められます。
地域農業の維持は家族経営を軸とし、その再生産を支える価格保障・所得補償の充実によって農業者の高齢化と離農者の増加にどう対応するかが地域農業の喫緊の課題です。集落営農は地域農業の維持に重要な役割を果たしており、管内でも基盤整備・ほ場整備を契機に新たな集落営農が立ち上がっています。ただし、地域は人がそこに住み続けてこそ維持できるのですから、集落営農にはいかに農地集積を進めるかよりも、兼業農家を含めた地域の家族経営をどう支えるかという観点の方が求められます。兼業農家を含めて農業に意欲を持つ人々をいかに伸ばしていくか、行政も農協もこれに全力で取り組むことが必要です。
そのためにも農業の再生産を支える価格保障・所得補償の充実が不可欠です。再生産が保障されないような価格水準・所得水準では地域農業はさらに衰退していくでしょう。
岩手大学教授 横山英信氏
国民各層との協同を
7月に行われた参議院選挙では、農業について与党は収入保険の拡充、野党の多くは所得補償制度の充実を公約に掲げました。各政党にはこれらを早急に国会の場で審議してもらう必要があります。
世界的に食料事情が悪化して日本の食料自給率を向上させることがますます重要性を帯びる中、日本の米・農業を守る運動を大きく広げることが求められています。それを農協だけで担うのでは不十分です。地域農業の重要性を訴え、地方自治体、消費者団体、労働組合、諸団体など国民各層との協同をさらに進めていきましょう。
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