JAの活動:未来視座 JAトップインタビュー
支え合い「協同の道」拓く JA愛知東組合長 海野文貴氏(1)【未来視座 JAトップインタビュー】2025年12月5日
中山間地域ならではの「強み」を生かした「オンリーワン戦略」を実践するJA愛知東の海野文貴組合長。職員時代から最前線で経営に携わってきた理念を聞いた。
JA愛知東組合長 海野文貴氏
中山間地の苦境 女性の力が風穴
大金 1960年の農家生まれですね。
海野 はい。子どもの頃、家では米の他に「お蚕様」と呼ばれた養蚕を営み、ミカンも作っていました。ご存じのように養蚕はその後、斜陽でみんな撤退しました。しかし、父だけは頑として続け、今では愛知県下で唯一の養蚕農家になっています。
現在も続けているのは、伊勢神宮に絹糸を奉献するためです。その絹糸は1300年前から、三河地方で育てられた蚕の糸でなければならない、ということなのです。
大金 初めて知りました!
海野 神宮に毎年奉献するうちに、日本人やその心の故郷とは、そして「持続可能」とはどういうことなのかを考えるようになり、その根底には自然から食べ物などがいただけることへの感謝の念や人の力ではどうすることもできない自然現象への「畏れ」などがあるのだなと感じるようになりました。
大金 なるほど。
海野 それと、稲作文化の中で営々と培われてきた村の結(ゆい)や脈々と受け継がれてきた助け合いの精神などがベースにあって今の農協が形成されたのだな、とも思うようになりました。
大金 「協同の原点」に遡(さかのぼ)る話です。名城大学農学部に入る時は農家を継ごうと?
海野 長くなるのですが、ちょっといいですか。ご存じの通り、愛知県には世界的な自動車メーカーがあります。私が中学生の頃は、高度経済成長期の真っ盛りで、友達の家は離農し、会社勤めが増えた時代です。
その頃、わが家の弁当はいつもご飯と野菜が中心で味付けはしょうゆで真っ黒なんです。ところが友達の弁当には、タコの形をした赤いウインナーとかがうまそうに入っている!(笑)。わざと1、2度弁当を持たずに登校し、母を悲しませたことがあります。いま思うと申し訳ないことをしたなと後悔しています。
ミカンは暴落し、畑はその頃、廃園にしています。稲作はというと、JA愛知東の会議室には「天明後米一俵価格表」という200年間の米価表があるのですが、「令和の米騒動」の前の2023年のわが農協の米価は約1万3000円でした。それと同じ価格はと遡ったら、ちょうど母の手作り弁当をボイコットした中学生の頃の1974年なんです。その間に消費者物価指数は2・5倍以上になっている。
当時の米価を消費者物価指数で換算すると「適正価格」はどのくらいになるのか。いずれにせよ米は、卵や牛乳と並んで物価の優等生として国民の胃袋を支え続けてきました。これはまさに農家の尽力の賜物(たまもの)なんです! この間の生産資材費などの上昇を踏まえれば、稲作農家にとっては「失われた半世紀」ではありませんか。
そんな事情が背景にあって、わが家では農業で食べていくのが難しいと考え、大学を出た後、農協に就職しました。友達の家の農機具が新しくなり、古い農機具で頑張るわが家の姿を見て、何とか「農家所得」を上げなければと! 長くなりましたけど。(笑)
大金 いえいえ!「個人史」を重ねた「失われた半世紀」がよく理解できました!(笑)。そうした流れを乗り越える農協の経営戦略は?
海野 そうですね! デジタル化の進行や金融事業の競争激化で、組織の事業・経営をどう回していくか。
JAあいち経済連のコミュニティー型ライブ配信講座で、「tomonity」というサービスがあります。多彩な運動や学びのオンライン講座を農協施設で受講するサービスです。組合員と農協をつなぐスマホに慣れていただき、「つながり」を強化する事業のデジタル化を進めたいと考えています。
また非常勤役員が座長になり、支店ごとの課題に取り組む活動の一環として独自のイベント企画なども実施しています。ある支店では、農協のマイクロバスを使って管内を見て回るツアーを企画し、おいしいものも食べるなど管内をよく知ることができたと好評です。新規組合員の加入にも役立っている。
農協の広報誌も1万5000戸配るのですが、職員のマンパワーが足りません。50軒とか70軒を配っていた職員とパートさんが、辞めた人の分も加わって100軒を超えると、距離的に「もう出来ない!」と言われる。そこでこの7月からは常勤役員も分担し、私も昨日配ってきました!(笑)
行く先々で組合員さんが喜んでくれ、いろいろ話を聞かせてくれます。非常勤役員や女性部員からも、「訪問配布」に手を挙げてくれる人が現れ、助けられています。本当にありがたい!
大金 組合員主体の組織・事業活動は、JA愛知東の伝統です。例えば、高齢者支援事業の「地域ささえ愛」組織は宅食や家事支援、見守りを三本柱にしている。宅食「愛ちゃん弁当」は5300食ですか!
海野 目標を上回って増えています! 中山間地域の一番の課題は「人口減少」です。管内人口は25年後の2050年に約4割減ると言われています。高齢化比率もさらに進む中で「地域ささえ愛」組織はなくてはなりません。
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