JAの活動:協同組合への思いを語る
【協同組合への思いを語る】JA愛知東代表理事組合長 河合勝正氏2015年12月24日
農協は生産者の組織であると同時に、地域の農業とそこに住む人々の生活の拠点である。いまや農山村は農協なくして成り立たない。そして美しい日本の農村風景は、そこで農業が行われ、人々が生活することで成り立っているのだ。JA愛知東のある愛知県東部、奥三河地方は、まさにそのような農山村地帯といえる。同JAの河合勝正組合長は、「守るべきものは守り、変えるべきものは変える〝不易流行〟」を唱え、組織と地域の自立に全力を挙げる。
地域に貢献し社会に認められる重い責任がある
大きく変わりつつある農村・農業の足下を照らしながら、協同組合の進むべき道について考えてみたい。われわれ農業協同組合は、いかにして地域に貢献できるのか、社会に容認される組織体として成り立たせていくのか、その責任は極めて重いものがあると考えている。
国の基(もとい)ともいわれた農林業、それに医療・介護等は効率化という政策のもとで、郡部・へき地は、その存在すら危うい状況になっている。市場にすべてを委ねる社会は、競争を一段と促し、貧富の差を拡大している。人口の少ないわれわれの地域は、社会資本の削減を強要され、一層の過疎化に向かう心配がある。
すべてのものに市場主義の論理がまかり通るなかで、本来なら制度とは何か、国とは、地方自治体とは何かということが問われなければならない。しかし、こうした原理的な問いかけさえもかき消されようとしている。
確かに少子化人口減少の中では、効率の高い活力ある社会が必要と思われるが、それを実現するには、地域やそこに住む人々の連帯、つまり協同化が必要だと考える。
元気な地域は人がそこに住み自慢の風土がある。
いまや人口減少や高齢化は必然で、そのことを悲観していても将来展望は開けない。厳しい現実と向かい合って、そこに住む人々が何よりも地域を愛し、自慢できる風土のあるところは地域が元気である。
むのたけじさんが週刊新聞「たいまつ」で、「そこに住む人々が何かを望むのなら、望むものにふさわしいことをすべきであり、何かを頼むのなら頼むにふさわしい行為をすべきだ」と述べておられるが、まさにその通りである。
美しいといわれる日本の農村は最初からあったわけではない。そこに住む人々が英知を結集して創りあげたものだ。美しい農村には、美しい人々が存在する。日本の農村は人の力によって将来ともに持続可能だと信じている。このことを語らずして、いたずらに農村の現状を表面的にとらえ、不安を煽るような報道があるとしたら、それは謹んでほしい。
管内では2014年2月の豪雪で孤立した村があったが、お年寄りは避難場所に行かず自宅を離れようとしなかった。漬物や味噌、米、野菜等を持ち合わせており、炭や薪で湯を沸して暖をとっていた。「今の世は、便利さを求めてすべてをお金で買う社会になったが、非常時のお年よりの生き抜く力強さや生きざまに学ぶことが多かった」といったそのときの村長のことばが印象に残っている。
明治大学の中澤新一先生は「今までの人間社会のあり方がこのまま肯定されるとすれば、人間社会の持続性にとって極めて深刻な事態が予想される」と看破しておられる。これは、モノがあふれ、便利さが最優先される世の中にあって、今一度、自然界の力と共存しながら、自然資源の循環をベースとした生活環境を取り戻していくことに気付くべきだということだと考える。
これからの世の中、どのように変化していくのか。もしかしたら、都会の若者は森や水などの自然界との会話を通じ、感性を養う機会を求めているのではないか。少なくとも私たちの住む地域は、経済的優位性には乏しいが、これからの人間社会にとって極めて大事なものを有する土地柄ではないかと思っている。
私たちの地域は、旧建設省から、中部地方では一番きれいな水質だというお墨付きをもらった豊川上流の流域圏である。JAの管内面積は県内で一番広く、人口は県内で一番少ない。農協が組織体として生き抜くための環境や条件がよいとはいえない。しかし、この奥三河にある組織として、今日のように中心的役割を果たすまで成長させていただいた。
この地域にとっては、全国現象でもある人口減少や高齢化は決して悲劇ではないと感じている。すばらしい知識や技巧を持った元気な人々の力が発揮されている。人が元気、地域が元気、組織が元気、そんな姿が継承されることを望む。新城市教育委員会が「子どもの人数は減少したが、この地域にはすばらしい人材と自然と歴史文化の3つの宝がある。これらをすべて一つに捉えた〝共育〟を勧めたい」と話していたが、まったく同感だ。次世代を担う子どもは地域で育てることが必要だ。ないものねだりでなく、あるもの探しを心掛けたい。
不変のものと変えるべきもの 「不易流行」の心で
農協法が改正となり、看板の一部が架け替えられたが、農業協同組合論を精神とする魂は揺らいでほしくないと考えている。ただ、外からの圧力に屈して改革を進めることが、本当の自己改革なのか一抹の不安を感じるところでもある。
松尾芭蕉が、奥の細道を通じて会得した人生の概念は「不易流行」のことばに象徴されるといわれている。「不変の心理を知らなければ基礎が確立されず、変化を知らなければ風新たならず」といういうことだ。すなわち「不易」とは、どんなに世の中が変化し、状況が変わっても絶対に変えられないもの、変えてはならないもので「不変の真理」を意味する。
一方「流行」は変わる。社会の状況に応じてどんどん変わるもの、あるいは変えていかなければならないものだといわれる。この概念は組織運営や経営、そして文化の進展や人間形成において、そのまま当てはまるのではないか。
新自由主義経済社会が横行する今日、「協同」を貴ぶ社会概念の存在は、自然界や人間社会においてもトータル的なバランスを考えると、不変的真理に値する考え方として尊重されるべきではないだろうか。
農協経営は、あくまで協同組合運動の手段である。このことに間違いはない。しかし、さりとて健全な経営がなくて農業や農村の自立支援や、組合員の営農や生活の自立支援が十分担保される保証はどこにもない。時流に沿って、地域にあった最も適応可能な事業・組織運営のあり方を模索するのが「流行」のトレンドだと考えている。
いまは、この「不易流行」を強く意識し、自らが信ずる自己改革を念頭に、難しい時代にあって共に考え、共に歩みながら自立できる地域社会のあり方を模索し、その実践に向けてしっかり取り組んでいきたい。
誕生して70年 現実の変化直視し 使命問い直す機会
昨今、組織の外からは急進的な農協改革の圧力が急激に強まっている。理不尽な主張には憤りを感じるが、農協は誕生してから70年近く経過し、農業や農村の姿も大きく変化している。
人口減少や高齢化から避けて通れない現実に迫られている今日、まずは地域に目を移し、足もとから真摯に協同組合のあり方を問い質すよい機会ではないか。協同組合は人の絆で結ばれた組織である。すなわち事業、経営の力量は、組織力の強さそのものでもある。
われわれは、ややもすると疎かにしてきた人づくり、組織づくり、地域づくりを本気で組合員や地域住民とともに育て合い、ともに育ち合う活動に力を注ぎたい。
(写真)人々の営みで守られた奥三河の豊かな農村風景、農村には豊かな歴史と文化がある(新城市の「川売(かおれ)の梅園」)、河合勝正組合長
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