JAの活動:JA全農 燃料部
配送集約化で効率化・省力化を実現【現地ルポ:(株)ふるさと燃料サービス】2017年4月6日
受発注一元化で事務処理も迅速に
(株)ふるさと燃料サービス:(秋田県・JA秋田ふるさと)
農家組合員や地域住民の高齢化と人口が減少するなかで、JAの地域のくらしを守る事業の果たす重要性は日増しに大きくなっているといえる。なかでもガソリンスタンドやLPガス、さらに家庭暖房燃料や営農用に使用する燃料を提供するJA全農が全国のJAとともに展開している燃料事業の果たす役割は大きい。こうした燃料事業、なかでもガソリンスタンドや家庭暖房燃料等の配送事業は、人口減少や大手の競合他社参入などによって事業環境が厳しくなり、事業撤退をする業者が増えていることもあり、JAの事業に依存する地域が多くなってきているという。そこで今回は、暖房用燃料・営農用燃料の配送を、1か所のセンターに集約したJA秋田ふるさとの子会社である(株)ふるさと燃料サービスを取材した。
◆水稲中心に複合農業を実現
JA秋田ふるさとは、秋田県南部の内陸部に広がる横手盆地の中央に位置し、横手市と美郷町の一部を含む、東西約35キロ、南北約20キロの地域が管内でその面積は700平方キロもある。
東は奥羽山脈沿いにリンゴを中心とする樹園地が連なり、西の出羽丘陵地帯では草資源に恵まれているので畜産が盛んに行われている。管内の中央から西部にかけては、奥羽山脈を水源とする雄物川流域に水田を主体とする肥沃な耕地が展開し、秋田県内随一といわれる複合農業地帯だといえる。
また、気候は典型的な内陸性気候で、冬の積雪量は1m~1.5mと、県内でも有数の豪雪地帯だが、暖候期は温暖で日照に恵まれ、気温の日較差が大きく、農業生産に適した土地だという。
JA管内の燃料事業を担っているのは、JAの子会社である(株)ふるさと燃料サービスだ。
同社は平成17年2月に、JAから燃料事業およびガス事業を分離して、独立した子会社として設立され、同年4月から業務を開始している。
現在の業務内容は、▽揮発油・軽油・灯油・潤滑油やその他関連製品の販売、▽液化石油ガス(LPガス)の販売と保安業務、▽自動車の点検・整備と軽微なものの修理、▽その他(太陽光ソーラー)燃転など、燃料事業全般を担っている。
27年度の取扱量は、燃料油全体数量で約3000万キロリットル、なかでも灯油の取り扱いは大きい。またLPガスは約62万立方m(約29万kg)となっている。
◆経営基盤脅かす人口減少と気象変動
JAが直接、燃料事業を行っているときから、天候や日々の市況に左右され単価も安定せず、利用者に満足のいく接客サービスが十分ではなく、燃料事業としては採算が取りづらい状況だったと(株)ふるさと燃料サービスの伊藤浩胤代表取締役常務は振り返る。
天候や日々の市況に左右されるのはいまも同じだが、会社となれば、社員にとっては、「自分たちのくらしがここにかかっている」ので、「自分たちの会社は自分たちで守る」意識とそれを実行する体制を作り上げて、日々奮闘していると話す。
特に冬場の天候の影響は大きいという。
ここは県内でも有数の豪雪地帯で、雪がたくさん降ると、需要が増え供給量が多くなる。なぜかというと、降雪量が多いと、道路などに積もった雪を除雪するために、除雪車が多く出動するので、除雪車の燃料である軽油の販売量が増えることが一つだ。
さらに、雪が降れば気温が下がるので、家庭での暖房用灯油の需要が大きくなるからだ。
だが、暖冬などで降雪量が少ないと、こうした軽油や灯油の販売量が伸び悩むことになる。 こうした気象条件の変化にともなう需要の変動以上に、燃料事業の経営基盤を脅かす問題が、地域住民の減少と高齢化だ。多い年には「100戸くらいが廃屋になることもある」と伊藤常務。
こうした気象変動や人口減少など経営基盤を脅かす問題にも耐えうるような経営基盤を確立するために、同社ではこれまでもさまざまな取り組みを行ってきている。そうした取り組みのなかでも今回注目したのは、灯油等の配送サービスを新たに設置した配送センターへの一元化だ。
◆組合員のくらしを支える灯油配達事業
雪国の人たちのくらしにとって、灯油ストーブなどによる冬の暖房は絶対に欠かせないものだ。灯油の補給のために利用者が自らガソリンスタンドに出向くこともできるが、積雪で道路状況が悪いことや、高齢化で自ら出向くことが難しい家庭も増えている。そうした人たちにとって、灯油の配送は、冬のくらしを守る大切なライフラインだといえる。
家庭暖房燃料や営農に使用する燃料の配送は、全国のJAや商系業者の多くが、ガソリンスタンドから行っていることが多く、非効率的であり配送コストがかさんでいた。そこで、施設の統廃合や配送拠点の集約、ライフライン網の維持など施設の最適配置について全農と協議を重ねた。
ふるさと燃料サービスも、営業エリア内の11カ所のガソリンスタンドから配送業務を行い、燃料の発注についても各SSから全農に連絡し、SSごとに全農がローリーで供給してきた。また、組合員・利用者への配送やSS内の在庫管理など各種の事務処理までほぼ全ての業務をSSごとに行ってきた。
さらに、組合員・利用者からの宅配の受注も基本的にはSSごとに受けるのだが、組合員によっては本社やJA本所に直接電話してくるケースもあり、同じ地域に同姓の人がいると、電話を受けた職員が勘違いをして「誤配送」することもあったという。
こうした業務を全て一つの配送拠点に集約化し、一元的に管理・遂行することができれば、事務を含めた業務が効率化・省力化され、コストの抑制にもつなげることが可能になるのではと誰しも考えることができる。
◆センター集約で供給量も増加した
配送業務の効率化は、全農でも常に重要課題として挙げている。小規模な効率化では一定の成功事例はある。しかし、大規模な集約化となると様々な問題に直面し「集約化したくても出来ない」という現実がある。
ふるさと燃料サービスは、今後の事業展開や経営基盤の確立を考え、この「重要課題」に挑戦することにした。
具体的には、これまで11か所のSSがそれぞれ行ってきた軽油・灯油にかかる業務(受発注、配送)を、昨年の9月から新設された「配送センター」に全て集約し一元化してスタートさせた。
組合員・利用者からの注文は配送センターに設置された4台の専用電話(通話無料のフリーダイヤル)で受けるので誤配送の心配がなくなったこと。さらに「定期配送」の登録をすると「定期的に配送し、満タン給油」し、電話注文の手間が省け、灯油切れの心配をすることがないなどのサービスを提供する(別掲のチラシ参照)ことにした。また、「50㍑(ポリ缶約3つ分)から配送」とすることで、優遇価格を設定しているという。
受発注業務の全てが配送センターに集約化されたことで、各SSで個別に行われていた事務処理も集約・一元化され、事務処理の効率化・集約化が実現した。
配送の要員についても、暖房用燃料の繁忙期は、当然だが晩秋から初春という「寒い時期」で、この時期はこの地域では「農閑期」なので、農家からの季節的な雇用(6人程度)で増員して対応することにしている。
◆一人ひとりが経営者的な感覚で
配送センターに集約した業務を始めて「まだ半年くらい」ではあるが、「初めてで、うまくいくかと心配していた一番忙しい時期を、実績も今までより増やして乗り切れたので、少し自信をもつことができました」と、配送センターを任された佐藤晶センター長は、笑顔で語ってくれた。
伊藤常務も「社員一人ひとりが、『経営者的な感覚』をもって、自分の会社のために何をするかを考え、行動してくれている」ことも、大きな力になっているという。
まだ、広範囲を一つの配送センターに集約化してコストを削減するという㈱ふるさと燃料サービスの取組みは、その緒についたばかりだが、まず順調なスタートを切れたことと、高い社員の意識に支えられて、いくつかの困難はあるだろうが、確実に前進していくといえるだろう。
(写真上から)効率化・省力化を実現した配送センター、伊藤常務(左)と佐藤センター長、配送センター利用をよびかけるチラシ
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