JAの活動:築こう人に優しい協同社会
「みりょく満点」ブランド確立福島県JA東西しらかわ薄葉功組合長に聞く【築こう人に優しい協同社会】2022年2月28日
島根県で日本初の農協(産業組合)病院をつくり、農村医療の先駆者となった大庭政世(1882~1939)は「常に新機軸を出だすべし」と、組織運営の要諦を述べている。福島県のJA東西しらかわは、貝化石(ゼオライト)を土壌改良に使った「みりょく満点」のブランド戦略や野菜工場、和牛の繁殖施設、レストラン併設の直売所など、さまざまな事業に挑戦し、JA事業で新機軸を打ち出し注目された。県内JAの組織再編に乗らず、独自の路線を進んできた同JAの薄葉功組合長に聞いた。
薄葉功組合長
――JA東西しらかわは、前組合長のときから、リスクのあるさまざまな事業に取り組み、組合長は当時専務としてフォローされてきましたが、どのような成果がありましたか。
米が2年連続「特A」
4年前に組合長に就任しましたが、収益の大半を占める信用・共済事業の環境が変化するなかで、これまで仕掛けた事業を軌道に乗せるとともに、それをどのように組合員に役に立つようにするか、検討するときだと思っています。
「みりょく満点」は、JA東西しらかわが商標登録したブランド名で、管内の地層に埋まっている貝の化石を土壌改良に使った農作物を対象としたものです。豊富なミネラル成分を含み、水稲、野菜、特産物と、あらゆる農作物で使用が広がっています。
まず米ですが、管内コシヒカリが「特A」の食味評価を令和2(2020)年、3年と連続して受け、福島県中通りコシヒカリの評価を押し上げています。米は上位等級米をめざすのではなく、今は食味評価が重要です。そのための土づくりであり、名実ともに味で勝負するのだという意識が、営農指導員や生産者で高まっています。
「みりょく満点米」は、現在約50人が65haほど栽培していますが、簡単に作れるものではなく、生産者が高齢化するなかで急に増やすことはできません。食味評価で合格したものだけを出荷するよう、令和4(2022)年産から本腰を入れて徹底する方針です。
貝化石は特に野菜での効果が大きく、使いやすいため使用が広がっています。品目、品種に関わらず、出荷する野菜の段ボールすべてに「みりょく満点」のロゴマークを入れており、スーパーでは、「みりょく満点野菜」の専用コーナーを設けてくれています。すっかり定着したとみています。
地上に露出した貝化石の地層(白い部分)
繁殖モデル農場が牽引
平成28(2016)年に、モデル事業として立ち上げた和子牛の繁殖施設「グリーンファーム」も順調です。モデルとして導入した施設の運用や飼育方法に慣れないことなどもあって、当初、価格が安かったこともありますが、優良系統もと牛の導入によって、今は平均価格を上回る成績をあげています。
繁殖牛農家にとって、グリーンファームは新しい飼育技術の研修や恰好の情報交換の場になっています。一度にまねはできないが、センターの省力飼育をみて、労力的に余裕をつくるため、協同で規模拡大しようという雰囲気が、繁殖農家の中で生まれています。
とにかく繁殖農家が休みをとれる経営を考えたい。畜産共進会後の反省会などで、「畜産をやっていてよかった。しかし1年中、ほとんど休めなかった。そろそろゆっくりしたい」という高齢の繁殖農家の声を聞くと、なんらかの形で、生産者が助け合いながら休みのとれる畜産の仕組みをつくっていきたい。また、全農も考えているようですが、一緒に畜舎のレンタル事業にも取り組みたいと思っています。
帽子がステータスに
レストランを備えた農畜産部直売所「みりょく満点物語」は、地元の農産物販売をコンセプトに平成25(2013)年にオープンしました。コロナ禍で売り上げは厳しくなっていますが、出荷者にとっては自分で価格が決められることから、「自分の市場」という認識が育っています。
高齢者の生きがいにもなり、出荷者のかぶる黄色の帽子は、生産者のステータスになっています。またレストラン「やまぼうし」の野菜は隣の直売所から調達するので、ブランド野菜であると同時に鮮度がよく、文字通り産地直送野菜です。
周年出荷による年間を通じた品ぞろえと安定した出荷が課題ですが、そのため、出荷者で構成する「楽農グループ」を提案し、新規の就農希望者に空いた農地や使わなくなったハウスを紹介し、みんなで取り壊しや建て直しをするという動きもあり、直売所の効果だと思っています。
直売所と同じ時期に導入した植物工場「みりょく満点やさいの家」は、契約出荷していた外食産業の不振で先が見通せず、昨年、一時休止し、いまは規模を縮小して栽培しています。
――コロナウイルスはJAの運営にどのような影響を与えていますか。
この2年間、総代会や組合員の各種の集まりができませんでした。昨年、年末にかけて、それとなく準備し、この春から3カ年の農業振興計画づくりについて議論をしようと、農事組合長に通知を出したところですが、中止を余儀なくされました。
結局、農事組合長には、書面で支店長が説明しながら伝達するしかありませんでした。支店長や地区選出の理事が説明できるよう、協議の場を設けて徹底しましたが、やはり実際に会わないと我々の本当の思いが伝わりません。今年の4月には、3年に1回の総代選出がありますが、結局、なにも議論しないまま任期を終えることになります。
――JA東西しらかわは、平成28(2016)年の県内JAの再編に参加しませんでした。その後の動きはどうですか。
いまも県のJA合併協議会はあります。協議継続を決めた以上、組合員や利用者、そしてJA職員に不安や不利益を生じさせ、合併しなかったからだと言われないように心掛けてきました。
令和3(2021)年のJA県大会で、いまの県内5JAの体制でいいのかどうか、検討することを決めましたが、それぞれ自分のJAのことで目いっぱいになり、実質的にはストップしています。農家人口の減少、選果場や葬祭場など、利用施設の配置などの課題は多く、今年度から改めて協議することにしています。
組合員からは、当初、合併についていろいろ意見がありましたが、今はほとんどなくなりました。JA東西しらかわとしては、負担になるような施設は整理するなど、自分でできる改革は行い、剰余金も出し、配当もできるよう身を軽くしてきました。今後、合併が進んだとき、他のJAと同じ土俵に乗れるよう健全経営を目指しています。
経営けん引広い視野で
――協同組合は人の組織だといわれます。組織を持続発展させるため、職員と役員にはどのような心掛けが必要でしょうか。
かつて、小さかったJAは家族的な雰囲気があり、言わなくても分かることが多かったのですが、大型JAになると、自分の思いを伝え、考えを発言できる職員が必要になります。いろいろなポジションを経験することで、経営の方針を総合的に理解し、企画力と調整・実行能力のある職員が育っています。職員のころ、前任者の鈴木(昭雄)組合長に、国会や交渉事など、いろんなところに同行し、勉強になりましたが、それと同じように幹部職員に広い視野で多くの経験をさせ、将来のJAを担う人材を育てようと思っています。
JAの理事は、地区内で順送りが多いのですが、農家出身者だけが選ばれるわけではありません。民間企業の退職者も増え、JAの福利厚生など民間と比較されることもあります。認定農業者の理事も義務化されるなど、役員構成の多様性から、議論の機会が増えることはいいことだと思っています。
一方で、最近は職員経験者の理事が増えていますが、農家の気持ちを理解するには、せめて常勤役員は営農のことを知っておきたいものです。当JAでは私を含め、専務、常務とも稲作農家で、親戚などの手を借りることはありますが、自分でも農作業に汗を流しています。米の作柄、病害虫の発生状況、水管理など、その年の作物の状況を知らないと、本当に農家に寄り添った指導はできません。「農業をやっていないくせに」と言われかねません。これからもこのことは大事にしていきたいと思っています。
【JAの概要】
平成13(2001)年、東西白河地方7JA(表郷村、中畑、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村)が合併して誕生。
▽組合員=9738人(うち准組合員4070人)
▽貯金残高=597億2000万円
▽購買品供給高 21億4400万円
▽販売品販売高=42億7600万円
▽職員=243人(うち臨時職員81人)
(令和2年度末)
直売所「みりょく満点物語」
生産者の思い
生産者の思い
JA東西しらかわの「みりょく満点」のブランド戦略の主要作物である米と野菜について、生産者の声を聞いた。中山間地域で条件不利地が多く、まとまった産地のない同JA管内で、食味評価の高い「満点米」と、少量多品目の野菜販売ができる「みりょく満点物語」への期待が大きい。
満点米の食味期待
冨永良一さん・稲作農家
矢祭町で水稲とソバを栽培しています。水田5haに収穫作業の請け負いが7haほどあります。全体の米の作付けは受託を含めて11haほどで、飼料用米が多く、「みりょく満点米」は約50aほどです。
もっと増やしたいのですが、田んぼの条件が悪く、夫婦二人の労働力では困難です。周辺の農家は高齢者が多く、田んぼを預かってほしいといわれても応じられません。ほ場整備にもっと国の支援が必要です。満点米はずっと作っていますが、食味がいいので期待しています。
直売所で所得向上
佐川智紀さん(30)・菌床シイタケ農家
棚倉町で父と一緒に、菌床シイタケ約2万8000玉を栽培しています。販売は福島県を中心に店舗展開するスーパーなどへの直売が9割ほどで、そのうちJAの直売所「みりょく満点物語」が3分の1くらいを占め、出荷先として大きな存在です。
いいものを食べてもらいたいとの思いで作っており、「実が厚くて食べ応えがある」との評価をお客さんからいただいています。これを弾みに、収量を一層あげるため試行錯誤しながら挑戦しています。JAには、SNSなどを活用し、直売所にお客さんが増えるようPRをしていただきたい。
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