JAの活動:2025国際協同組合年 持続可能な社会を目指して 協同組合が地球を救う「どうする?この国の進路」
【JAトップ提言2025】米も「三方よし」精神で JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏2025年1月22日
第30回JA全国大会は「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力~協同活動と総合事業の好循環」を決議した。2025年度はその実践の初年度となる。いうまでもなく地域によって課題は異なる。そのなかでどう戦略を打ち出すべきか、JAグリーン近江組合長の大林 茂松氏に提言してもらった。

JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏
日本の水田農業の現状と5年後の姿
令和6年7月21日付の日本農業新聞「読み解く食農データ」の記事。見出しは「米の生産力 黄信号」「10年で耕地面積5%減」「西日本で減少率高く」、内容は「米の自給に黄信号がともり始めた――。
また農水省は先般の食料・農業・農村政策審議会企画部会で2030年の米・麦・大豆等の土地利用型作物の経営体数は現在の60万経営体から27万経営体(▲33万経営体・▲55%)に、経営面積は216万haから142万ha(▲74万ha・▲34%)に大きく減少するとの試算を示した。いずれも大きなショックを感じざるを得ない。
JAグリーン近江の水田農業の現状
滋賀県でも主食用米作付面積は減少しており、令和5年産米においては目標面積(換算値)より約900haの減少(深堀)、令和6年産米は目標数量(面積)を増やしたものの作付面積は昨年比100と変わらなかった。
当JAの担い手は140の集落営農法人と500人ほどの担い手農家だが、「今の米作りは割に合わない」という。特に集落営農法人からは米作りは労働時間が多いので従事分量配当が多く必要になり、いくら面積を増やしても赤字になる。それよりも国の交付金等があり、そのうえ労働時間も大幅に少なくて済む麦や大豆の方が法人にとっては利益が大きい。米作りから麦・大豆にシフトするのは、法人経営を維持する上で当然のことである。
令和7年産米の目標について、滋賀県でも増やすこととしたが、先日開催した懇談会の中では「作りたくても後継者もなく、人手もないので手間のかかる米はこれ以上作れない」「昨年に引き続き酷暑続きで収量・品質共に悪く、ある程度価格が高くなっても採算が取れない」など集落営農を中心とする農業経営の厳しさが多く聞かれた。
令和の米騒動
令和6年産米はいわゆる令和の米騒動で米の価格は大幅に上昇し、十分にコストを賄えるようになっているが、来年、再来年の価格はどうなるのか。過去を見てみると米が不足し米の価格が上昇すると需要が減少し、また生産者の増産意欲から供給量が増え価格は大幅に下落している。
こんなことの繰り返しでは生産者も消費者もお互いに何も良いはずがない。
後継者がいないという状況を解決するためには、生産費が賄え、なおかつ利益が出る、つまりもうかる農業を実現する他に策はない。もうかれば当然生産力も向上するし生産力が向上すれば自給力も上がる。
「三方よし」の安定した米価格をめざして
そのためには何といっても適正な価格転嫁が必要であるが、再生産可能な価格に経費を上乗せしたいわゆる「適正な価格」を形成するために国頼みではなくJAとして何をしなければならないのか。
ヒントに今年の米価格の高騰に対しての農水省広報等でのコメントがある。
令和6年産米の価格高騰の大きな要因は、6月末米在庫量が156万tと少なく、また南海トラフ地震臨時情報で消費者の買いだめの関係もあり米のひっ迫感が出た事とともに、JAが概算金を上げた(再生産価格を意識した)ことをあげた。
ただ、現状の価格がJAの適正な価格転嫁を意識した価格を遙かに上回ったのは、米を投機の一つとして集荷に回ったいろんな業者の存在があるのだろうが、そのことはさておいて、以上のことから、今年の米価格ほどJAの存在感が示された年はなかったということだ。
一方、この価格が消費者にどう受け止められているかということも、生産者側としてきちっと受け止めておかなければならないし、そのことを怠ると今後の米消費に影響が出る恐れもある。
これからの米価格のあり方は、日本の食料安全保障を意識した生産者側の適正な価格転嫁の願い、流通業者の願い、消費者の願いの、いわゆる三方よし(生産者よし、消費者よし、業者よし)の世界でなくてはならない。つまり三者の相互理解が不可欠である。
新しいJA共販を創造する
その考え方にピッタリとマッチするのがJAの協同理念のもとに生まれた米の共同販売、共同計算手法である。
以前に当農協新聞「農協時論」でも述べたが、東大の鈴木宣弘教授が「農協共販によって、米では1俵約3000円、牛乳では1kg約16円の生産者価格向上効果(消費者に対しても小売価格が抑えられる効果がある。)が発揮されていることを新たに開発した計量モデルで実証した。
さらに、「取引交渉力のパワーバランスを0~1の数値で示し、0・5を下回っていると農業サイドが買いたたかれていることを示す指標を開発して、ほとんどの品目で数値が0・5を下回り、農協共販の効果はあるものの、それでも、まだ、買い手側に有利な価格形成が行われていることを明らかにした」とある。
近年全国的にJAへの米集荷は減少の一途をたどっているが、農業協同組合の最も重要な協同の部分をもっともっと組合員、生産者、地域の人々さらには消費者、業者にも伝え、JA共販の有用性をもっともっと生かす方法を考える時だと思う。
改正された「食料・農業・農村基本法」に明記された食料の価格形成「持続的な供給に要する合理的な費用」に基づく生産者が再生産可能な適正な価格を自らが表し、消費者や業者に理解を得る方法の一つとして、このJA共同販売、共同計算をもう一度見つめなおし、今の実情に合った姿に変えて創造し、取引交渉力のパワーバランスの向上を通じ、生産者にも消費者にも流通業者にも安定した価格の実現を提案してみてはと思う。
国際協同組合年に向けて
今年2025年は2012年に続いて2回目の「国際協同組合年」である。
今こそ日本国民の主食料である米の新しい共同販売、共同計算を創造し「協同の成果」を実現し協同組合の一員として食料安全保障の改善に向けて力を発揮すべき時ではないか。
さらに食料安全保障は農業者だけでなく、日本国民全体にとっても大きな重要課題であると共に、国民にとって欠かすことのできない食の安定を守るという観点から、国の積極的な関わりや支援が必要であることは言うまでもない。
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