トランプ政権 内部対立で綻びも2017年3月7日
寄稿萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授
米国のトランプ新政権を現時点でどう評価できるのか。萩原氏はロシアとの関係に注目する。
◆「米国第一」を抑制
トランプ政権発足からほぼ1か月半たった。2月28日には、施政方針演説を連邦議会で行い、下院議長ポール・ライアン(共和党)は、大統領の演説は実にいい出来だと珍しくほめた。つまり、極端な人種差別や排外主義的主張も、ロシアとの友好関係を積極的に結ぶなどという表現もとらず、「米国第一主義」を抑えた言い方で終始したからだろう。
しかし、トランプ政権は、ロシア関係からほころびが出始めたといっていいだろう。
まず、マイケル・フリン国家安全保障担当大統領補佐官が、辞任した。マイケル・フリンは、トランプ政権誕生の政権移行期に、オバマ政権の対ロシア制裁に関して、駐米ロシア大使と接触があったことが明らかとなり、辞めざるを得なかったのだ。政権を担当もしていない民間人が、外交を行うことは、法律で禁じられているからだ。さらに、ジェフ・セッション司法長官には、上院公聴会での偽証が問題にされるに至った。1月の上院の公聴会で、「ロシアとやり取りはしていない」と述べたにもかかわらず、米メディアが昨年ロシアのキスリャック駐米大使と面会したと報道し、野党民主党が虚偽証言だと問題にした。
本人は、上院議員として面会したといっているが、司法長官は、連邦捜査局を統括する立場にある。現在、大統領選に介入したロシアのハッキングやトランプ陣営が選挙中にロシア側と接触した疑惑を捜査中であり、捜査の指揮ができない状況となった。
トランプ大統領の娘婿クシュナー上級顧問もロシア大使と面会したと報じられ、トランプ大統領の側近が次々と狙い撃ちだ。
これは身から出た錆とはいえ、トランプ政権側近と共和党主流派との確執が影響しているといえるだろう。
その第一は、トランプ政権の極端なイスラム排除政策だ。いうまでもなく、シリア、イラクなどイスラム7カ国からの入国禁止、難民受け入れも一時停止するという極端な政策に共和党主流派は反対なのだ。連邦地裁による差し止めがあって入国禁止は解かれたが、共和党主流派は、従来からこれは合衆国憲法に違反するという立場をとっていた。マイケル・フリンの後任に任命された、マクマスター陸軍中将は、イスラム教徒敵視政策は、テロ対策として逆効果だという見解を持っているし、連邦最高裁判事にトランプ大統領から選定されたニール・ゴーサッチ判事は、トランプ大統領の入国禁止令をめぐる司法への介入に不快感を示した。トランプ政権の排外主義政策は、スティーブン・バノン大統領上級顧問兼主席戦略官、マイケル・フリン国家安全保障担当補佐官、そして、ジェフ・セッションズ司法長官の3人によって、仕切られてきた感があった。フリンが去り、セッションズが問題にされ、トランプ政権のイスラム排外主義グループの力が徐々に落ちつつある。トランプ政権のイスラム敵視・排外主義的政策は、徐々に内部から崩壊し始めたといえるかもしれない。
◆ロシアとの関係に注目
第二は、ロシア関係だ。ドナルド・トランプは、ロシア大統領プーチンと結び、イスラム国(IS)退治を考えていたし、従来の同盟国NATOは、古臭くなって役に立たないなどといっていたのは、対ロシア制裁を解き、ロシアと組んで中東情勢も大きく変えようとする思惑があったからだ。プーチンは、クリミア侵略、ウクライナ介入などで、NATOからの制裁を受けているが、ぜひそれは解きたい。フランスの大統領選にも介入して、右翼大統領候補ルペンに資金援助をしていることも明らかにされている。各国に先駆けて行われた米英首脳会談で、メイ首相が「クリミア併合のロシアへの制裁を解くことはできない」としたのに対して「その議論をするのは時期尚早だ」とトランプ大統領が応えたことにもそれは表れている。共和党主流派は、「ロシアは脅威だ」という考えだから、28日連邦議会での施政方針演説においても、トランプ大統領は、それをおもんぱかってか、ロシアという特定国の名を出すことは控え、「新たな友人」という表現をして、次のように述べた。「米国は、利害関係を共有する新たな友人たちと出会い、新たな関係を築くことに前向きである」。
国務長官に、トランプ大統領は、石油大手、エクソン・モービル前最高経営責任者、レックス・ティラーソンを任命した。国防長官には、元中央軍司令長官ジェームズ・マティスを任命した。この両名は、しかし、ロシアに関してトランプ大統領と見解を同じくはしていない。ティラーソン国務長官は、ロシアより同盟国重視の対外路線を考えているし、マティス国防長官に至っては、「ロシアはむしろ第一の脅威だ」と上院の公聴会で述べた。
米国のヘイリー国連大使は、シリアのアサド政権を擁護するロシアを徹底批判(2月24日)、国連安全保障理事会では、米ロの対立が続いている。2月28日には、シリア・アサド政権の化学兵器使用に関する制裁決議の採決が行われ、同政権を支えるロシアと中国が拒否権を行使した。ヘイリー国連大使は、否決後、「ロシアと中国が言語道断で弁護の余地のない選択を行った」と強く批判したところを見ると、これは、トランプ大統領が考えているように、ロシアは、「利害関係を共有する新たな友人」とはなっていないことを示している。
しかし、なぜ、トランプ大統領は、ロシアにご執心なのだろうか。それは、トランプ大統領が、ロシアのプーチン大統領に「コンプロマート」を握られているというのが、その理由のようだ。かつて、ロシアのエリツィン大統領が、検事総長に不正を暴かれそうになったとき、検事総長の「コンプロマート」(女性関係の不名誉な情報)を公表して、検事総長を窮地に陥れ、エリツィン大統領を救ったのが、プーチンなのだ。トランプ大統領就任前、CNNが、米情報当局がトランプとオバマ大統領に、トランプに関してのロシアの「コンプロマート」を提示したと報道した。それ以来、トランプ大統領は、CNNはじめ主要メディアの締め出しを行っている。ヒラリー・クリントンが、大統領選時の討論会で、「あなたは、プーチンの操り人形」と指摘したことがあったが、それもまんざら嘘でもなさそうだ。
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