【クローズアップ:生乳供給上振れ】乳製品過剰さらに重し 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年6月1日
生乳需給の緩和が鮮明になってきた。Jミルクの生乳需給見通しは都府県の増産基調から上方修正した。中央酪農会議の指定生乳生産者団体別の2021年度出荷目標も増産を見込む。一方で乳製品過剰、特に脱脂紛乳の需要低迷が深刻だ。
Jミルク見通し上方修正
Jミルクは5月末、2021年度生乳生産量が前年度比1.2%増の752万4000トンになると発表した。1月公表分(0.9%増)から全体で0.3ポイント上方修正した。都府県が1月見通しの0.6%減少から0.1%増に転じたことが大きな要因だ。
都府県の乳牛資源回復
酪農全体で見れば、長年の課題だった都府県がようやく増産基調に転じたことは喜ばしい。内容を見ると、生産の主力となる2~4歳頭数は過去5年間で最も高い伸びを示した。つまりは生産基盤回復の兆しが見えてきたことだ。
2~4歳の乳牛増頭は、今後の増産の礎になる。大型法人経営のメガ、ギガファームの増頭意欲が旺盛なこともあるだろうが、戸数では主流の中小家族経営の底上げにもつなげ、都府県の生産基盤をさらに強化しなければならない。
改正畜安法下でも指定団体シェア96%
中酪の21年度指定団体別出荷目標数量でも、都府県の増産傾向を裏付けた。
全国の出荷数量見込みは724万5000トン、全体対比102.5%。単純な比較はできないが、Jミルク見通しの生乳生産量の中で指定団体の占める割合は96%強に達する。
改正畜安法で指定団体による生乳一元集荷撤廃から3年。流通自由化が加速する中で生乳需給調整のあり方が問われている。ただ、実際の動きは、やはり指定団体に多くの酪農家が結集していることを裏付ける。北海道を中心に全国で集乳、販売するアウトサイダーだったMMJは9万トン強を集める。MMJとの販売トラブルからホクレンに出荷を戻した酪農家も出ている。指定団体への一元集荷、用途別多元販売によって、増産する原料乳を売り切る努力が問われている。
緊急事態宣言延長の余波
一方で生乳需給面では厳しい状況が続く。
6月1日、東京、大阪など9都府県に出ていたコロナ禍の緊急事態宣言が延長となった。延長幅は6月20日までの3週間で、外食の時短営業継続などに伴う乳製品の業務用需要の一層の停滞が懸念される。
脱粉在庫は記録的水準に
増産基調を受け、生産した生乳を処理、販売する現状はどうか。コロナ禍で業務用需要が振るわない中で、まずは巣ごもり需要、家庭内消費を促すことが欠かせない。
飲用牛乳需要に加え、料理にバター消費を促すなど、家庭内需要をさらに盛り上げる必要がある。だが、当面の処理は乳製品、特に主力の脱脂粉乳とバター仕向けが大半となる。結果、脱粉、バターの在庫が記録的に積み上がっている。
Jミルク見通しでは、22年3月末時点の乳製品在庫は、脱粉が2割増の9万9100トン、バターが1割増の4万3300トン。ホクレンや国の輸入代替などを通じた需要拡大対策でどれだけ減らせるかが焦点となるが、記録的な高水準に変わりはない。
在庫増も国輸入枠据え置き
乳製品在庫が膨らむ中で、農水省は21年度の国家貿易によるバターと脱粉の輸入枠数量を今年1月設定水準で据え置いた。
バターは6400トン、脱粉は750トンとなる。懸念される脱粉は在庫の拡大を踏まえ、引き続き日米貿易協定に基づく輸入枠のみの最低限の数量に抑えた。問題はバターだ。6400トンの水準が当初から過大ではないかとの指摘が生産者側からもあった。農水省は5月までに上場した分が全量落札されるなど実需者の一定程度あると見て、削減することは避けた。
バター輸入枠削減検討を
国は、加工原料乳補給金制度の抜本改正に伴う改正畜安法制定のきっかけとなった家庭用バター不足を警戒している。家庭バター不足は、飲用を優先する指定団体制度の批判とも連動し、酪農制度改革の引き金となった経過がある。
そこで、小口バター供給を最優先する。大口の業務用バター需要が低迷する中でもバター輸入枠削減に踏み切れない理由だ。同じバターでも、7割を占める業務用と小サイズの家庭向けは製造工程、乳業工場ラインも全く違う。業務用から家庭向けへのバターの生産転換が容易に進まない事情がある。だが、一般消費者には極めて理解しにくい構図だ。
ただ、乳製品過剰は今後の生乳生産全体に悪影響を及ぼしかねない。国は、今後の需給を見ながら、バター輸入枠削減決断の検討もすべき段階だ。
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