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【東日本大震災・福島原発事故から11年】ふるさと奪われ いまだ先が見えず2022年3月11日

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東日本大震災による東京電力福島第一原発事故は2011年3月11日に起きた。あれから11年になる。事故を起こした原発の廃炉処理は遅々として進まず、ふるさとと生業を奪われ、家族がばらばらにされた避難者は現時点で、国の発表でも3万3000人、自主避難者を含めるとその倍近くになると推定される。筆者はこれまで、福島の人たちが事故にどう対応したのかということと汚染水の処理についての動きを、行政や農協、地域の人などを取材し、説明会の会場に入り、紙面で報告してきた。今回は、11年目を迎える福島の課題と話題を三つ伝える。(客員編集委員 先﨑千尋)

福島第一原子力発電所3号機(出典:東京電力ホールディングス)福島第一原子力発電所3号機(出典:東京電力ホールディングス)

最高裁が住民の主張を認める

今年3月2日、最高裁は福島第一原発事故の被災者への賠償で、被災者が福島、前橋、千葉で提訴した3件について東電の上告を退ける決定をし、国が示した基準を超える額の支払いを東電に命じた高裁判決が確定した。原告は3訴訟合わせて3700人、賠償額は約14億円。国の賠償責任の有無については、4月に双方の意見を聞く弁論が予定され、夏にも最高裁としての統一判断が下される見通しだ。

さらに最高裁は7日にも、福島県南相馬市などの住民が提訴した3件の集団訴訟で東電の上告を退ける決定をし、500人超に約11億円の賠償を命じた二審判決が確定した。この決定では、避難指示区域外の住民の訴訟も含まれている。
福島第一原発事故をめぐる集団訴訟はこれまでに、地裁レベルで22件、高裁レベルで6件判決が出されており、すべて東電の責任を認め、国の責任については認否が分かれている。

東電による賠償は、国の原子力損害賠償紛争審査会が定めた中間指針が基準とされてきた。しかし今回の最高裁の決定では、6訴訟とも指針を超える賠償額を認定している。福島弁護団の馬奈木厳太郎弁護士は4日の会見で、「原告になっていない人も本当は指針の賠償額以上の損害を被っている。指針を見直さなくてはいけない」と主張している。また野村吉太郎弁護士は8日の記者会見で「3月11日を前に、最高裁は東電に『争うのをやめ、責任を取りなさい』というメッセージを送ったのではないか」と話した。

今回の最高裁の決定に対し、国と東電を東京地裁に提訴した福島県飯舘村の農業・菅野哲さんは「当然のことだ。私たちが訴えていることは、カネの問題ではなく、国と東電がはっきり責任を認めてほしいということだ。飯舘村の村民3000人は、2014年に被曝への慰謝料などを求めて国の原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)に申し立てをしたが、東電が和解を拒否したため打ち切りになってしまった」と苦しい胸の内を明かす。さらに「『一体ADRって誰のためにあるの、何のためにあるの』と思っている。今月23日に3回目の公判があるが、今度の最高裁の決定で裁判が早く進むことを期待している」と話してくれた。

汚染水処理に世論の賛否拮抗

今月5日、日本世論調査会は原発に関する世論調査結果を公表した。それによると、東電福島第一原発の処理水を水で薄めて海に放出する処分方法について、「賛成」と答えた人が32%、「反対」は35%で、賛否が拮抗した。「分からない」も32%あった。また地元紙「福島民報」と「福島テレビ」の最新の県民世論調査では、「処理水の海洋放出について国内外で理解が深まっているか」という項目に対し、「全く広がっていない」「あまり広がっていない」が合わせて52・5%、「かなり理解が深まっている」「少しは理解が深まっている」が38・7%と、県民がまだ海洋放出について十分理解していないことを示す結果が出た。

国と東電は昨年4月に、汚染水を放射性物質除去装置(ALPS)で処理し、大量の海水で薄め、濃度を基準以下にして海洋放出する方針を決め、これまでに地元福島県などで説明会を開いてきた。そして東電は、来春にも海洋放出すべく排水設備の建造を始めている。廃水は新たに作られる海底トンネルを通して約1キロ先の海中に放出するという。

東電の小早川智明社長は7日、共同通信のインタビューで「関係者の理解なしに、いかなる処分もしないとした地元福島漁業者との約束を遵守する。理解を得られるように取り組みたい」と述べた。東電は2015年8月に福島県漁連に文書で確約書を出しているが、昨年の海洋放出の決定が一方的だったこともあり、漁業関係者は反対の姿勢を崩していない。

甲状腺がんの因果関係で対立

今年1月に小泉純一郎、菅直人氏ら5人の元首相が、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会に「東京電力福島第一原発の事故で、多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」という書簡を送った。元首相らの書簡は、「福島原発事故前は年間で100万人に1人か2人の発病しかなかった小児甲状腺がんが、事故から10年で、当時18歳以下だった38万人の中で既に266人の発症が判明している。そのうち222人が甲状腺摘出の手術を受けた」と指摘している。

これに対して山口壮環境大臣は2月1日に、「書簡では、多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ、という記載があるが、これは福島県の子どもに放射線による健康被害が生じているという誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長する。これまでに見つかった甲状腺がんについては、専門家会議で『放射能の影響とは考えにくい』と評価されている」と反論した。内堀福島県知事や自民党の高市政調会長らも抗議の申し入れを行っている。

これらの抗議に対して元首相らはすぐに反論し、山口環境相に質問書を出している。また、甲状腺がん患者が東電に損害賠償を求めている訴訟の弁護団は抗議声明を発表している。争点は、放射能と甲状腺がんの発生との因果関係について、どうして桁違いと言える多くの患者が福島から出ているのか、その原因を立証できるかにある。

昨年3月に飯舘村の酪農家・長谷川健一さんを訪れたが、その時に「実は昨日、甲状腺がんだと言われた」と告白された。その後、10月に亡くなっている。彼は事故当時、行政区長として住民の避難などの対応に追われ、全員が避難した後も、定期的に地区内の巡回活動を続けていた。事故と関係があったとしか考えられない。

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