秩父の水と森林を守れ 環境問題のNGO来日2017年11月8日
首都圏の水瓶ともいえる荒川上流の埼玉県の秩父は、豊かな森林と水に恵まれた地方だ。この秩父に、元ボリビア国連大使で地球温暖化・気候変動と森・水問題で国際的に活躍しているパブロ・ソロンさんと、森林・水問題のNGOグローバル森林連合のマリー・ルーさんが訪れ、地元の市民グループと交流し、秩父の森林と農村を見て回った。
二人は日本のNGO(非政府組織)・市民団体の招へいで来日し、東京、大阪、京都などで講演と交流を行なうなかで10月28日、秩父を訪れた。森林・水問題のNGOグローバル森林連合は、森の生態系と伝統的知識の保護と回復を目的に2000年に設立。58か国、86のNGOや先住民族の団体などが参加し、森を守ってきた先住民族、地域のコミュニティ、女性の権利に重点を置いて調査、教育、キャンペーンなどを展開している。
(写真)手入れの行き届いた人工林でソロンさん(右から2人目)とルーさん(同3人目)
秩父地方は、地域の大半が山林に覆われ、人々は山を守り、森林と共に生活してきた。しかし、今は人口の流出、高齢化が進んで山の管理ができなくなり、地域のコミュニティも崩れかかっている。一方で、水道の広域化が進み、それぞれの地域にある豊かな水源が潰されようとしている。
交流ではソロンさんが「水への権利」について述べた。市場原理主義に基づいて、水が民間の手に委ねられ、経済的な利益を得る対象になっていることを問題にする。つまり、水は高いところから低いところへ流れるようにするのが自然であり、利益を得るためのダムや電力を使って浄水場へ揚水するなどはもってのほかというわけだ。森林破壊が進んだ南米のボリビアでは水のサービスが十分できなくなっていることを挙げ、「水の管理には地域社会の参画が不可欠だ」と指摘した。
またルーさんは、経済的目的から単一樹種による森林のモノカルチャー化を問題にする。ポルトガルでユーカリのモノカルチャー森林が、火災で一挙に焼失したことなどを挙げ、「1樹種だけの森は森と言えない。さまざまな樹種の複相林で森を守ってきた先住民に学ぶべきだ」と指摘。こうした先住民の知恵が忘れられ、グローバル経済による自由貿易で、地球規模で森林の破壊が進んでいることに懸念を示した。
交流には、秩父郡の1市5町で進めようとしている広域水道事業に反対する「水道問題を考える会」の町民も交流に参加。会長の水村健治さんは、「名水のまちといわれる小鹿野で、目前にきれいな水があるのに、なぜ遠方から丘陵を越えてまでして水をもってこなければならないのか」と訴えた。
(写真)急傾斜の畑にカメラを回すソロンさん
水や森林は、そこに人が生活を営むことで維持できるが、人口の減少でこれが難しくなっているのが実情。秩父市議の山中進さんは、林業が産業にならないことを問題にする。「山は放置しているのではない。人がいなくて手が出せないのだ」と、厳しい山村の実情を話す。また「ダムができても人が暮らすためのものはつくらなかった。ダムは一時的に雇用を生むが、住民の流出に拍車をかけるだけだ」と、都市住民のためのダムが、地元のためにはならないことを指摘した。
交流では、山梨県境に接する秩父市大滝の山村集落や傾斜地の畑、樹齢80年あまりのヒノキの人工林、貯水ダムなどを見て回った。ソロンさんとルーさんは、集落に空き家が多いことや、ヨーロッパの森と林相の違い、立っているのも容易でない急傾斜の畑などに関心を示していた。
(関連記事)
・森林環境税の制度設計大詰めに(17.10.27)
・【木本昌秀教授・東京大学大気海洋研究所副所長に聞く】異常な夏 今、地球は?(17.08.30)
・農中森力基金9組織への助成決定(17.03.06)
・東大が「木材利用システム学」設立 農林中金の寄附で(16.10.04)
・海外居住外資による森林買収 27年は67ha-農林水産省(16.05.09)
・「森林(もり)の仕事ガイダンス」開催 全国森林組合連合会(16.01.18)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(90)みどりの食料システム戦略 現在の技術で実現可能でしょ(4)2024年4月20日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(7)【防除学習帖】 第246回2024年4月20日
-
土壌診断の基礎知識(16)【今さら聞けない営農情報】第246回2024年4月20日
-
地域複合農業戦略に挑む(2)JA秋田中央会会長 小松忠彦氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年4月19日
-
農基法改正案が衆院を通過 賛成多数で可決2024年4月19日
-
【注意報】さとうきびにメイチュウ類 伊是名島で発生多発のおそれ 沖縄県2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:JA水戸 那珂川低温倉庫(茨城県) 温湿度・穀温 適正化徹底2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ対策を万全に 農業倉庫基金理事長 長瀬仁人氏2024年4月19日
-
食農教育補助教材を市内小学校へ贈呈 JA鶴岡とJA庄内たがわ2024年4月19日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第97回2024年4月19日
-
(380)震災時は5歳【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月19日
-
【JA人事】JA道北なよろ(北海道)村上清組合長を再任(4月12日)2024年4月19日
-
地拵え作業を遠隔操作「ラジコン式地拵機」レンタル開始 アクティオ2024年4月19日
-
協同組合のアイデンティティ 再確認 日本文化厚生連24年度事業計画2024年4月19日
-
料理酒「CS-4T」に含まれる成分が代替肉など食品の不快臭を改善 特許取得 白鶴酒造2024年4月19日
-
やきいもの聖地・らぽっぽファームで「GWやきいも工場祭2024」開催2024年4月19日
-
『ニッポンエール』グミシリーズから「広島県産世羅なしグミ」新発売 JA全農2024年4月19日
-
「パルシステムでんき」新規受付を再開 市場の影響を受けにくい再エネ調達力を強化2024年4月19日
-
養分欠乏下で高い生産性 陸稲品種 マダガスカルで「Mavitrika」開発 国際農研2024年4月19日
-
福島県産ブランド豚「麓山高原豚」使用『喜多方ラーメンバーガー』新発売 JAタウン2024年4月19日