都市農業の多様な役割を再発見 世界都市農業サミット2019年12月2日
東京都練馬区・世界都市農業サミット実行委員会は11月29日から12月1日にかけて同区内で、「世界都市農業サミット」を開催した。
ニューヨーク、ロンドン、ジャカルタ、ソウル、トロントの5都市から、農業者、研究者、行政担当者を招いて開催した国際会議は、11月30日に分科会、12月1日にシンポジウムを行い、参加した海外5都市とともに、「サミット宣言」をまとめ発表した。
分科会の総合討議
国際会議の分科会では、海外5都市の参加者と共に、都市農業を3つのテーマに分けて、同時通訳を入れ英語・インドネシア語・韓国語・日本語による事例発表と意見交換を行った。
分科会1では、東京大学大学院農学生命科学研究科の八木洋憲准教授を座長に「都市における農産物生産と販売について考える」をテーマに意見交換を行った。また、分科会2は(株)地域計画研究所の井原満明顧問・取締役を座長に「都市の農業を活かしたコミュニティづくり」について、分科会3は東京大学まちづくり研究室の小泉秀樹教授を座長に「都市における農を活かしたまちづくり」についての意見交換を行った。
最終日の12月1日に行ったシンポジウムは、後藤光蔵武蔵大学名誉教授が座長を務め、参加5都市と練馬区の農業者が登壇し、「都市農業の未来を語る?私たちのくらしと社会をいかに豊かにできるか?」をテーマに活発な議論を行った。
「日本の定義では都市農業とは都市およびその近傍で行われる農業だが、海外では、従来型農業との対比であったり、市民による農業生産、屋上や空き地活用、特殊な流通形態を意味しており、都市と農村がはっきり分かれているケースに適した区分で、"都市農業"を位置付けている」(八木洋憲・東京大学大学院准教授)
例えば、トロントでは、移民が多く200もの言語が話されており、50%以上は国外で生まれた住民だが、そうした多様な人たちが都市の公的スペースで農業を始めることがコミュニティに加わることにつながっている。また、ロンドンではロンドン市長が都市外周のグリーンベルトで新鮮な果物や野菜の生産を推進している。大資本のグローバルサプライチェーンの中で悪い影響を受ける貧しい人などにジャンクフードでなく、新鮮な食べ物を供給しようとしている。インドネシアでは、路地を活用し、主婦たちが自ら新鮮な野菜を栽培する「ガンヒジョウ」(緑の路地)が行われており、自給や周辺住民に販売している。
温暖化や防災機能といった都市農地の役割のほか、移民の社会受容や貧困対策や食育など多様な価値を都市農業が持っていることが紹介され、参加者に共有された。
最後に、練馬区と都市農業を積極的に推進するジャカルタ、ロンドン、ニューヨーク、ソウル、トロントの参加5都市とともに「世界都市農業サミット宣言」を発表した。
サミット宣言では、農のある都市で暮らすことに誇りを持ち、持続可能で豊かな生活を送るために、都市農業の意義と可能性を確認し、次の3つを内容とする宣言を行った。
▽"都市農業"は、いのちを育む
▽"都市農業"は、歴史と文化を育む
▽"都市農業"は、公正で開かれた社会を育む
"都市農業"が持つ魅力や可能性を世界に発信し、本サミットで培ったネットワークを活かし、相互に連携しながら、さらなる都市農業の発展を目指す。
分科会の事例発表
「世界都市農業サミット宣言」の全文は次のとおり。
◎世界都市農業サミット宣言
練馬区において開催された「世界都市農業サミット」において、都市農業を積極的に推進するジャカルタ、ロンドン、ニューヨーク、ソウル、トロントの参加5都市と練馬区は、都市農業に関する取り組みを相互に学びあい、情報共有を進め、活発な議論を行った。
私たちは、世界の人びとが農ある都市で暮らすことに誇りを持ち、持続可能で豊かな都市生活を送るために、以下に"都市農業"の意義と可能性を確認し、ここに宣言する。
1."都市農業"は、いのちを育む
都市農業は、農産物の生産によって、都市に暮らす人間のいのちの糧を提供している。また、気候変動の緩和・適応のための重要な手段となりうる。それだけではなく、都市の持続可能性を高め、多くの生き物のいのちを育んでいる。
2."都市農業"は、歴史と文化を育む
都市農業は、人と人とのつながり、そして、人と自然とのつながりを創り出す。そのつながりをもとに、都市の人びとは、歴史と文化を継承、創造し、発展させている。
3."都市農業"は公正で開かれた社会を育む
都市農業は、誰もが等しく農に触れ、耕し、農の恵みを享受する場となりうる。それは、社会的課題を解決し、公正で開かれた社会を創り出す。
これから私たちは、"都市農業"が持つ魅力や可能性を世界の人びとに発信していく。本サミットで培ったネットワークを活かし、相互に連携しながらその可能性を拓き、新たな取り組みを広げることで、"都市農業"の発展に貢献する。
2019年12月1日
世界都市農業サミット 参加者一同
重要な記事
最新の記事
-
新品種から商品開発まで 米の新規需要広げる挑戦 農研機構とグリコ栄養食品2025年5月1日
-
米の販売数量 前年比で86.3%で減少傾向 価格高騰の影響か 3月末2025年5月1日
-
春夏野菜の病害虫防除 気候変動見逃さず(1)耕種的防除を併用【サステナ防除のすすめ2025】2025年5月1日
-
春夏野菜の病害虫防除 気候変動見逃さず(2)農薬の残効顧慮も【サステナ防除のすすめ2025】2025年5月1日
-
備蓄米 小売業へ2592t販売 3月末の6倍 農水省2025年5月1日
-
イモ掘り、イモ拾いモ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第338回2025年5月1日
-
地元木材で「香りの授業」、広島県府中明郷学園で開催 セントマティック2025年5月1日
-
大分ハウスみかんの出荷が始まる 大分県柑橘販売強化対策協議会2025年5月1日
-
Webマガジン『街角のクリエイティブ』で尾道特集 尾道と、おのみち鮮魚店「尾道産 天然真鯛の炊き込みご飯」の魅力を発信 街クリ2025年5月1日
-
5月1日「新茶の日」に狭山茶の新芽を食べる「新茶ミルクカルボナーラ」 温泉道場2025年5月1日
-
「越後姫」食育出前授業を開催 JA全農にいがた2025年5月1日
-
日本の米育ち 平田牧場 三元豚の「まんまるポークナゲット」新登場 生活クラブ2025年5月1日
-
千葉県袖ケ浦市 令和7年度「田んぼの学校」と「農作業体験」実施2025年5月1日
-
次世代アグリ・フードテックを牽引 岩手・一関高専から初代「スーパーアグリクリエーター」誕生2025年5月1日
-
プロ農家が教える3日間 田植え体験希望者を募集福井県福井市2025年5月1日
-
フィリップ モリス ジャパンとRCF「あおもり三八農業未来プロジェクト」発足 農業振興を支援2025年5月1日
-
ビオラ「ピエナ」シリーズに2種の新色追加 サカタのタネ2025年5月1日
-
北限の茶処・新潟県村上市「新茶のお茶摘み体験」参加者募集2025年5月1日
-
「健康経営優良法人2025」初認定 全農ビジネスサポート2025年5月1日
-
「スポットワーク」活用 農業の担い手確保事業を開始 富山県2025年5月1日